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「なるほど、MBA取ってから博士に行けばいいんですね!」と言われたので「それは違う」と言った話。

さて、成り行き的にですがnoteに博士課程とMBAの事を書いた通り、これまでこういった質問やご相談を受けることがありましたので自分の経験をもとに回答してきました。そうすると、タイトルのようなことを我が意を得たり! のようなテンションで言われることがあるので慌てて訂正することがあります。確かにMBAは修士号相当の学位(専門職修士)が得られますので、博士課程後期課程を受験することができます。できますが、そんな簡単なノリで考えていると撃沈します。ARMS読んでたらその点について補足した方がいい気がしてきました。

学位が欲しいか!!

まずそもそも博士になりたい、というかたは将来的に大学教員、研究者としてのキャリアを積みたいという方が多いでしょうから、将来的に転職を想定しているとしましょう。その場合、理想的にはしっかり貯金した上で一般院生として大学院に行く方がいいです。

わかります。なれるかわからないモノのために仕事辞めるなんてリスキーですし、まずは実務界でもいみのあるMBAという判断もあるでしょう。それをけしからんというつもりはありませんが、最終的に研究者を目指すという事は「結局いつかそうなる」ということであることを忘れてはなりません。

その時にあなたにのしかかってくるのは、時間の制約です。研究者として職を得ようとした時、競争相手はゴリゴリにアカデミックトレーニングを受けた、自分より若い一般院生上がりの博士たちです。そういう人たちと競争する時、あなたのプランでは博士号を取り終えるのは何歳ですか? 改めて「新人」としてその世界に入っていくにあたり、私はある先生から「30代の内には遅くともどこかで教鞭をとらないと」と言われたことがあります。MBAで2年、博士を3年でとる人は見たことがありませんから、5年かかるとするとこれだけで7年です。本気で研究者になりたいならば、これをどれだけ縮められるかを全力で考えた方がいいでしょう。

この年齢的な制約に加えて、就職の枷になるのが実績です。働きながらの博士号取得は、それにかかりきりになって学会発表やジャーナル投稿がおろそかになりがちです(私の事です)。この状態で就職活動するというのは、周りがロトの鎧や天空の勇者の装備を身にまとっているのに、自分はひのきのぼうで挑んでいるようなものです。この点でもハンデを背負う事を覚えておいてください。

もちろん、昨今の大学教育では実務家教員も求められており、アカデミックトレーニングを積んだ実務家出身者は貴重です。特に、外資系出身者で英語が堪能な方などはさらに有利でしょう(もっと言えば女性はさらに)。私の知人でも上記の「30代」に関わらず実務家出身でアカデミックキャリアに就かれた方は多数おられます。そうすると今度は超大手外資系企業で部長経験者、とか、勢い著しいスタートアップ経営者、などと戦う事もあります。この路線でいくなら、それはそれで自分なりの武器が必要でしょう。

いずれにせよ就職まで見据えるなら、長期スパンでの戦略が必要です。学位が欲しいだけなら、時間をかけてでも出ればいいだけなのでそれはそれでよいのですが。

学位が欲しいなら…くれてやろう!!(とはならない)

とはいえ、学位が欲しいといってもお金では買えません。これは以前博士課程についてnoteに書いた通りです。ここにMBAとの決定的な違いがあります。特に、スクールによっては実践志向のカリキュラムになっていることもあり、そうなると殊更差が大きくなるでしょう。

もちろん実践的カリキュラム自体は素晴らしいもので、特に実務家としての成長を目的に行くのであればそちらの方が良いに決まっています。しかし、博士を前提にMBAに行ってしまうと、一般院生との間に「2年間で読んだ論文の量」に決定的な差が出ます。つまり、この部分についてMBA時点から意識してキャッチアップしていくか、博士になってから挽回するかという事になります。私も例にもれずそうなりました(ので5年かかったわけで…)。そして、MBAの時点からキャッチアップするのがとんでもない事なのは、過去の投稿を読んでいただければわかるでしょう。経験者の人は「そんなの絶対無理」と頷いてくれると思います。このままいくと、入る前に入学試験で落ちることも危惧されます。

また、MBAが高負荷ながら大半が「修了できる」のに比べて、博士はマジで出してもらえません(n1の感想です)。博士課程に入ってから「MBAはお客様扱いだったなぁ」と何度思ったか知れません。それくらい論文に求められる基準が違いますので、出るのも大変です。今MBAにいらっしゃる方は「このノリで行けるなら何とかなるかな」とは思ってはいけません。

未来はまだ決まっていないから未来なのよ

冒頭で「理想的には」と書いた通り、課される要求に対してはしっかり腰を落ち着けるのが一番ですが、家庭もあれば立場もある、というような場合学業に専念というのは社会的な責任からも、経済的にも難しいでしょう。しかし、学位取得や就職にあたってそのことは考慮されません。それだけに、経済的な事情や時間の捻出できるタイミング、業績の積み方などを自分の事情に合わせて考えていくしかありません。若い人は思い切って親に頼み込むという手もあるでしょうし、年配の方はいっそのこと今のキャリアで大成することを狙いつつ産学連携で大学とのパイプを持っておくという道もあるでしょう。3~40代はどうしたらいいかって? 私が聞きたいです(´ω`*)

私の知る限りでは、多いのは博士からはすっぱり仕事を辞めてフルスロットルで研究していくか、実務家としてのリソースをフル活用して他では出せないような業績を出される。あるいは、博士課程は長期化しているけれどもその間は非常勤講師や学会発表を重ねて実績を積みつつ、長期的に取り組むと言うパターンもあります。本当に千差万別です。

正直この投稿はエラそうに書ける様な立場でもないのでUPするか戸惑いましたが、同じようなことで悩む人も出るだろうと思って(そして過去の記事が無責任に誤解を招かないように)自分の反省点を書いておきました。エラそうに書いておりますが、自分自身も手探りな中で日々を過ごしています。未来はこれから作っていくものという事で成り行き任せな部分は多くなると思いますが、私の振り返りが皆さんの転ばぬ先の杖になれば幸いです。

ARMSの続き読も。