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夏が来る(と思います)

 夏は好きですか。僕はそこそこです。好きな部分はあるけれど、嫌なところもあります。夏とはそれくらいの距離間で付き合っているわけです、我が事ながらいじらしい。

 僕が好きな夏というのはおおよそ以下のようなものです。花火、夜風、プール、クーラーの効いた部屋、明け方聞こえる蝉の声、公園で飲む炭酸飲料。少しくらいは僕の気持ちが伝わりましたでしょうか、伝わっていると良いと思います。

 夏は朝も昼も夜も綺麗です。冷房でよく冷えた室内で布団に包まれるのは至高の幸せで、朝目覚めた後によくぼーっとします。窓の外に目をやれば青い空が見えるでしょうし、そこに形のいい雲が2,3あれば幸福な夏の要素が具体化されたと感じるでしょう。

 お昼になったら、陽の光をいっぱいに浴びた外のことを考えながら素麺なんかを食べるといいと思います。外は暑くて大変だろうなと、クーラーによって作られた聖域から思いを馳せるのです。麦茶に入れた氷がからりと音を立てます。そういえば、この前アイスを買っていたんだった。

 夜になれば暑さは少し和らぎます。嘘です、夜も大概暑いものです。日に焼かれることがないだけで、空気は熱を保ったままでしょう。たまに吹く風が自分の周りを吹き飛ばしてくれることを期待して、散歩に出かけるのがいいと思います。夏の夜というのは遅くに始まります。つまり夜に出かけるとなれば、真夜中であることもしばしばなのです。夏の夜中は静かだし、こわくないし、良い感じだと思います。一回出てみればわかるよ。

 夏は記憶に残りやすい季節です。夏に起きる出来事やいわゆる夏っぽいものの多くは鮮烈です。色とりどりの刺激を持って僕らのもとへやってきます。だから当然、その多くが僕たちの思い出になります。プールの後の授業中、窓から見た景色は忘れないでしょう。ラムネ瓶の青さも、それを浮かせた氷水の冷たさもどこにも行っていません。火薬の匂いがするたびに、いつかの夏を思い出すのも、それが夏だからこそです。夏は、そういう季節なのです。

 そんな夏の少し嫌なところは、夜が短いことです。そのせいで僕は、いつだって薄明るくなる世界を感じながら眠りにつくこととなります。それがちょっと、いやです。世界が僕を置いたまま進んでしまった気がします。待って、明日に行かないで。僕の今日はまだ終わっていないのに、明日が来るのはおかしいよ。だから、僕が眠るまではそこにいて。

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