噓の日記(5/6,5/19)

5/6

 毎日日記をつけているわけではないけれど、それでも日記に書くようなことかがぽんぽん起きるような生活をしているわけではない。僕の生活というのはほとんどが家の中か夢の中で完結しているし、その二つはもちろん穏やかに保たれているからだ。どちらにおいても僕は波に攫われるように、風に揺られるように生きている。

 今日はほとんど日が昇ってから眠りについた。日が落ちている間は月や星やがせわしなく働いているから、眠ってはいられない。(眠っていられないというか、彼らがきらきらしゃらしゃらしているのが気になって眠れない。僕は繊細なのである)だから、彼らが仕事を終えて、大きな一つの暖かい星に仕事を引き継ぐまで、僕は眠らないようにしている。そのほうが落ち着いて眠れるから。

 そうするとだいたい、夕方ごろに目が覚める。今日も一日を無駄にしてしまったかな……という気持ちとともに窓を開けて、まだ少し涼しい風を浴びる。胸いっぱいに空気をためて、時間をかけて吐き出す。一応、今日が終わるまでにはまだ時間があるし、やるべきこともいくつかある。ここらでしゃきっとして僕も自身の仕事に取り掛かるべきだろう。なので僕は、この辺りで筆をおく。遅れてしまった今日を取り戻さなくてはね。

5/19

 最近はひどく忙しかったので、日記を書く暇がなかった。いや、そんな言い訳をしたって仕方ないというのは重々承知している。というか、忙しかったなら、それほど自身の日常に割り込んでくる何かがあったのなら、それを日記に書けばいいではないか。でも僕はそうはしなかった。それは単純に、僕の体力がなかったからである。僕は貧弱なのだ。

 生活のすべてが一変してしまうような重大なことは、得てして何の前触れもなく訪れる。通り雨でも降るように、信号の色が変わるように。ほとんど心の準備ができてない状態でぱっと変わってしまう。そうして変化してしまったその後では、その前のことは上手く思い出せない。

 ある朝目が覚めたら、世界がひどく青々として見えた。森の奥深くに迷い込んでしまったように、緑の空気が肺を満たした。そこは正しく僕の家だったわけだけど、寝ている間にそっくりな別物に入れ替わってしまったみたいだ。宇宙人にキャトルミューティレーションされたらこんな気持ちなんだろうか。されたことはないから分からないけれど。

 その日からは、赤も黄も、黒も白も青かった。元々はもっと黒かったはずだけど、誰かがどうにかそのカーテンを切り開いて、青の絵の具を垂らしたらしい。青は冷静さとか、落ち着きを喚起する色だと思う。それらは唐突に僕の生活に入り込んできて、僕の世界をまるっと変えてしまった。今後はこの青々とした世界で僕は生きていくのだ。いつまでこの色なのか、他の色の入る余地があるのかは今はまだ分からないけれど。

僕を助けられるボタン