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週刊 表の雑記帳 第九頁_チャイナによるウイグル人の強制労働に対して個人ができること

 今週の目についた報道はtwitter参照。

チャイナによるウイグル人の強制労働の実態

 オーストラリア政府が設立し、オーストラリア国防総省が一部資金提供する防衛戦略シンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI: Australian Strategic Policy Institute)の報告(こちら)によると、国際的な有名ブランド企業の多くがウイグル人の強制労働が行われている工場をサプライチェーンに組み込んでいる。その中には有名な日本企業の名もいくつか登場する。せめて自分の生活からこうした企業の製品を排除しようと思ったが、それが現実的に無理な程生活に浸透した製品を扱う企業が多い。恥ずかしい限りだ。

 この報告によると、2017年以降100万人を超えるウイグル人らが新疆の西方にある所謂「再教育施設」に入れられ、チャイナ共産党による文化的な大虐殺に遭っている。その後チャイナは、教育は終了し彼らは「卒業」したとして、今度は新疆内のいくつかの工場で強制的に働かされている。のみならず、実は新疆外のチャイナの工場でも同様に強制労働させられているということが分かってきている。2017-2019年の間に少なく見積もっても80,000人以上のウイグル人が新疆ウイグル自治区からチャイナ国内の各地の工場へ送られている。中には収容所から直接送られた人もいる。彼らは勤務時間以外では、北京語と思想の教育を受けさせられ、宗教的儀式を禁じられ、監視が付いて移動の自由も制限されている。つまり、故郷から遠い工場へ無理矢理移送された上に言葉と宗教を奪われ有害な思想を植え付けられる。しかも故郷に帰ることもできない。更に驚くべきことには、一人当たりいくらという形で地方自治体やブローカーに金銭が支払われていることだ。最早人身売買だ。これ程までの人権侵害が今この瞬間も行われている。そして知らぬこととはいえその結果出来上がった製品を購入して豊かな生活を享受している自分がいる。反吐が出る。

ウイグル人強制労働をサプライチェーンに含む世界の有名企業

 この報告書では、直接あるいは間接的に新疆の外におけるウイグル人の強制労働により利益を得ている83の企業が特定されている。以下にそのまま引用する。

Abercrombie & Fitch, Acer, Adidas, Alstom, Amazon, Apple, ASUS, BAIC Motor, BMW, Bombardier, Bosch, BYD, Calvin Klein, Candy, Carter’s, Cerruti 1881, Changan Automobile, Cisco, CRRC, Dell, Electrolux, Fila, Founder Group, GAC Group (automobiles), Gap, Geely Auto, General Motors, Google, Goertek, H&M, Haier, Hart Schaffner Marx, Hisense, Hitachi, HP , HTC, Huawei, iFlyTek, Jack & Jones, Jaguar, Japan Display Inc., L.L.Bean, Lacoste, Land Rover, Lenovo, LG, Li-Ning, Mayor, Meizu, Mercedes-Benz, MG, Microsoft, Mitsubishi, Mitsumi, Nike, Nintendo, Nokia, The North Face, Oculus, Oppo, Panasonic, Polo Ralph Lauren, Puma, Roewe, SAIC Motor, Samsung, SGMW, Sharp, Siemens, Skechers, Sony, TDK, Tommy Hilfiger, Toshiba, Tsinghua Tongfang, Uniqlo, Victoria’s Secret, Vivo, Volkswagen, Xiaomi, Zara, Zegna, ZTE

 一度は名を聞いたことがあるような有名企業がずらりと並ぶ。日本の企業も11社確認できる。自分が普段使っている製品はどうかとパッと家の中を見渡してみて、一番最初に目に入ったのはiPhoneだ。Appleも名前が挙がっている。

 報告書によると、ウイグル人を強制労働させている例えばO-Film Technology Co. Ltd(欧菲光科技股份有限公司)という会社がスマートフォンのカメラやタッチスクリーンの部品を納品しているらしく、iPhone 8やiPhone Xのセルフィーカメラもこの会社からの納品のようだ。実際、Apple社のサプライヤーリスト(こちら)にこの会社の名がしっかり記載されている。そして誠に遺憾ながら、私のスマートフォンはiPhone 8だ。もしかしたら、私のスマートフォンの重要な部品は、ウイグル人の強制労働によって製造されたものかもしれない、ということだ。知らなかったこととはいえ、知ってしまった以上消費者としてかなり不快だ。恐らく探せば他にも身の回りのもので同様にウイグル人の強制労働によって一部生産されたような製品があるだろう。

強制労働への対策

 この重大な問題に対して、何ができるだろうか。

 まず大きな視点としては、国の法律や国際貿易の枠組みでこうした製品を排除していくことだ。例えば米国には、強制労働により生産された製品の米国への輸入を禁止する法律がある。2016年に当時のオバマ大統領により署名された「2015年貿易円滑化及び権利行使に関する法律」がそれだ(こちら)。これを厳格に適用すればそういった製品の輸入を止めることができるのだろうが、恐らく厳格に適用すること自体が難しいだろうと思われる。だいたい他国の強制労働なんて、否定されればなかなかそれ以上追究するのは難しい。英国では、内務省がModern Slavery Act 2015(MSA:現代奴隷法)を制定しており、その中でサプライチェーンの透明性についてのガイダンスを策定している(こちら)。我が国では、国内法としては労働基準法第五条(こちら)で強制労働を禁止しており、貿易面ではTPP(環太平洋パートナーシップ)協定の第十九・六条にて以下のように定めている(こちら)。

各締約国は、あらゆる形態の強制労働(児童の強制労働を含む。)を撤廃するとの目標を認める。各締約国は、締約国が第十九・三条(労働者の権利)の規定に基づき関連する義務を負っていることを考慮しつつ、自国が適当と認める自発的活動を通じ、全部又は一部が強制労働(児童の強制労働を含む。)によって生産された物品を他の輸入源から輸入しないよう奨励する。

 まあチャイナはTPPに入っていないからその点は無関係だが、いずれにせよ色々と法律は整備されていてもなかなか強制労働によって生産された製品の輸入を規制しきれないのが実情ということだ。しかしだからと言って諦めるのではなく、自由主義国としてこうした人権弾圧は断じて許容できないと圧力を強めていくことが必要だ。

 では企業としては何ができるだろうか。例えば上で挙げた83の企業。仮にこれまでは自社のサプライチェーンにウイグル人を強制労働させている工場が含まれているなんて知らなかったとして、それをこのように公の報告書によって指摘されてしまった以上、何らかの対応を取らねばならないだろう。しかし何ができるだろうか。自分が働く会社を考えても、取引相手の工場でそういった強制労働の実態がないかというところまで取引開始時点でデュー・デリジェンスを徹底するのは極めて困難だと思われる。しかし露呈した後、そうした取引相手との取引を中止することはできるはずだ。いたちごっこになりかねないが、まずできることはそこからではないだろうか。

強制労働に反対する個人ができること

 そのように考えていくと、個人としてもできることがありそうだ。まず、そのような工場がサプライチェーンに組み込まれていると分かっている製品を購入しないこと。消費者としてそのような製品は購入する意思がないこと、そのような企業の他の製品も含めて疑いの目で見るようになることを企業に伝え、責任ある企業として責任ある行動(サプライチェーンの全面的な見直し)を取るよう声を上げて求めること。こうした地道なことをコツコツとしていくしか、ウイグル人の強制労働のような明確な人権侵害をなくす術はないのかもしれない。私はまず、自分が使っているiPhone 8の製造にウイグル人の強制労働が幾何かでも関与しているのではないかという懸念を伝えるとともに、今後の対応方針をApple社に問い合わせることから始めてみた。尚、令和二年六月七日午後四時現在、Apple社からの返答はない。

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