Curse Of Halloween 1話②

夜中に届けられた差出人も宛先も不明の、ただ「ナマモノ」と書かれた木箱の中には、黒い猫耳と淡い金髪が特徴的な獣人が入っていた。
黒猫の獣人は手術着のような服を1枚着ているだけで、肌は少し汚れていた。
呼吸はしているが、眠ったまま意識はなかった。
木箱のままではどうかと話し合い、客室のベッドで寝かせることとなった。
世話人としてムーナを同じ部屋に残し、他の者は各自の自室に戻った。

「御嬢!たたた大変です!ねっ猫さんがいません!」
そう叫びながらムーナは御嬢の部屋に飛び込んだ。
「ノックをしろ、大声で叫ぶな…と注意したいところだが、猫は部屋から出て行ったのか?」
軽くため息を吐きつつ御嬢は問う。
「た、たぶん居ないかも…?わっ私も少し仮眠しようとソファーで横になって……それで目が覚めたらお日様は西にいますですし、窓は開いてるし猫さんはベッドから消えてたんです…!ま、まさか…ゆ、誘拐とかないですよね!?」
「つまり寝落ちからの爆睡か。窓を開けたのはあたしだ。例の甘い匂いが充満しそうでな。それと、あたしの屋敷に侵入しようものなら消し炭だ。誘拐の線はありえんだろう。抜け出すのは可能だが…とりあえず犬も呼んできてくれ。あたしと犬で捜索するがムーナも念のため付き合え。他のやつらは普段の作業をしつつ捜索してくれ。」
「わっわかりました!」
終始慌ただしいムーナは御嬢の部屋を後にした。
静かになった自室で御嬢はクローゼットの奥に手を伸ばす。
「コレとコレと、コレがあれば十分か?まさかコレを使う日が来るとは…」
使えそうな道具を持ち、猫の獣人がいた部屋へと向かった。

客室の前に来ると同じタイミングでウルフェルとムーナが到着した。
「おや、御嬢も捜索に参加されるのですか?」
「猫の扱いには心当たりがあるんでな。ムーナはキッチンから飲み水を持ってきてくれ。コップは3つな。」
「水とコップ3つですね!わかりました!」
返事をしながらキッチンへと向かうムーナを見送り、御嬢は扉の方を向く。
「猫を寝かせる時に換気用に小窓を開けてるが、それでも例の甘い匂いがしている可能性もある。お前の嗅覚が頼りだが、危険だと思ったら退避しろ。あとカーテンは小窓が空いている部分だけ開ける。」
「御意。」

扉を開けると中は薄暗く、ベッドやテーブルなどがなんとなくわかる程度だったが、ベッドの上には誰もいないことはわかった。
そして部屋中にはまだ甘い匂いが漂っていた。
「思ってたより厳しくなりそうですね。」
「さっさと済ませるしかねぇな…」
「ではベッドから失礼します。」
そう断りを入れてから、ウルフェルはベッドの上を、特に枕は念入りに臭いを嗅ぐ。
そして天を仰ぐように顔を上げ、ほぅ…と表情を緩ませた。
「猫系の獣人は初めてですが、コレはコレで美味しそうな匂いですね…一度味わってみたいものです。」
「変態的な感想はいらねぇ。見付かりそうか?」
「狼の嗅覚を甘く見ないでください。すぐに見つけてみせますよ。」
そう言うとスンスンと辺りの匂いを嗅ぎはじめた。
「失敗フラグは立てなくていいからな?」
御嬢はカーテンを開けつつ、出窓から外を確認する。
「捜索で失敗したことありませんでしょう?」
「見つけた後で何度やらかしたことか…」
「はて、何のことでしょう…?それより猫さんの匂いですが、部屋から出ていないようですね。それどころかベッドから離れていない…あっ」
「どうした?」
御嬢がウルフェルの方へ振り向くと、ウルフェルは床に這いつくばってベッドの下をのぞき込んでいた。
「こちらにいらしたんですね。」
御嬢もベッドのそばでしゃがみ覗き込む。
ベッドの下の奥、人の手が届かない壁際に1匹の黒猫がいた。
「見事に暗闇と同化してらぁ…気を付けろよ。この犬はアンタを食べたいらしい。」
「怖がらせてどうするんですか。」
「この犬は危険だと覚えてもらわねぇとな。」
「欲に素直になれるというのは良いことですよ。」
「せいぜい嫌われねぇようにな。さて、これは完全に奥で怯えきってるみてぇだな。」
「そのようですね。引っ張り出しますか?」
「だったらテメェの尻尾で釣るのが得策だな。」
「勝手に玩具にしないでください。」
「アンタの所有権はあたしだから何したって構わねぇのよ。ま、ここはあたしに考えがあるから、ムーナから水を受け取ってきてくれ。必要なら薬も飲んでおけ。」
「かしこまりました。」
真面目な指示には大人しく従って部屋を後にするウルフェルを見送り、御嬢はベッドに腰を下ろした。

「さて、これであたしとアンタの二人きりだ。あたしも屋敷のやつらもアンタに危害を加えるつもりはない。ただ、あたしはこの屋敷の主なんでね。アンタがあたしらに危害を加えるつもりならアンタを追い出さなきゃならん。アンタの話も聞きてぇし……あぁそうだ。さっき怖がらせた詫びと、お近付きの印っちゃぁなんだが、コレ食うか?」
そう言って床に置かれた小皿には何かクリームっぽいものが盛られていた。
「まぁ今すぐに食えとは言わねぇよ。アンタが好きなタイミングで大丈夫だ。食いたくなきゃそのままでも構わねぇ。あたしはソッチで休んで…そういや水が遅ぇな?ちょっと待ってろ。」
そう言ってベッドから立ち上がったタイミングでノックの音がした。
「御嬢、ウルフェルです。水をお持ちしました。」
扉越しに聞こえた声に「入れ」と短く返事をすると、ウルフェルが部屋に入ってきた。
その手にはトレーがあり、水が入ったボトルとコップが2つ、それから小さめのスープ皿が載せられていた。
「ご苦労。ムーナはどうした?」
「また器用に転んで床を水浸しにしていました。怪我はしていないようなので、片付けをさせています。」
「あぁ、なるほどね。コッチは暫く何も出来ねぇだろうから、犬もいつもの業務に戻ってくれ。」
「御嬢はどうされるおつもりで?」
「さすがに猫を一人にできねぇしな…薬と術でどうにかやる。」
「かしこまりました。何かありましたらお呼び下さい。」
おぅと短く返し、再び部屋の中は猫と御嬢だけになった。

受け取ったトレーを持ち、ベッド脇の床に座り込む。
「ほら、コレはアンタの水だ。猫のまま飲むならコッチ、人型で飲むならコップで飲みな。あ、あたしも少し水を頂くよ。」
御嬢は2つのコップとスープ皿に水を注ぎ、スープ皿は小皿の隣に、片方のコップはサイドテーブルの上に置き、もう片方のコップの水を豪快に飲んだ。
「はぁ~、やっぱうめぇな。あそこの湧き水復活させて正解だったな。」
空になったコップをサイドテーブルに置き、窓が開いている出窓の傍に椅子を運び、そこに座った。
そして持ち込んだゲーム機で一人静かにカチカチと遊び始めた。


***

アナログで書き進めていた下書きからかなり路線変更された1話②です。
①~④で1話になり、1か月で1話が完成する予定です。
順調に書き進められれば、ですが…
1話の時点で下書きから路線変更してるほどなので、先が思いやられます。

作者である私の名前に「眠子(ねこ)」とつけてしまうほど猫が好きですが、猫を家族に迎えた経験が無いため、今は動画サイトでよく見ています。
田舎の祖母宅にいた三毛猫ちゃんが可愛くて、幼少期によく三毛猫ちゃん目当てに泊まりに行ったものです。
作中の猫ちゃんはどうなるのでしょうね?

ではまた次回。

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