Curse Of Halloween 6話①

「おめが はね、どれだけ がんばっても、あるふぁ には かてない んだって。」
「おべんきょうも?かけっこも?」
「おべんきょうも、かけっこも、おうたも、おかしあつめも、ぜーんぶ。」
「えー……じゃあ、あるふぁ は おめが のこと―――」


目が覚めると見慣れた天井だった。
枕元には白猫のぬいぐるみがあったが、1号はいないようだった。
いつものように体を起こしながら、昨日のことを思い出す。
眠りにつく前にノートに書き残した内容を改めて確認した。
が、どこか違和感がある。
記入していた時に疲れていたとしても、訪れたお店についてある程度記入したはずなのだが、最後に訪れた店だけ書かれていない。
玩具屋、肉屋、菓子屋、酒屋、それと最後に訪れた……
あれ?どんな店だったっけ……
行ったはずなのに、思い出せない……
再び記憶に障害が出たのではないかと不安がよぎる。
ダメだ……落ち着こう……
白猫のぬいぐるみを手に取り、胸元で優しく抱きしめた。
ひとまず御嬢と相談しようと足を運んだが、御嬢は留守のようだった。
昨日買った商品を見れば思い出せるだろうか。
昨晩帰宅直後に遭遇し荷物を預けたムーナを探したが、どこにも見つからなかった。
あの小犬はと思ったが、犬の言葉はわからない。
どうしよう……どうしよう……
そうだ……あの小犬はいないけど、一本道なら……

「チビたち!緊急事態だ!リスノワールが居ない!!敷地内をくまなく探せ!!あたしが出て行ったら各自持ち場に着け!!」
慌てた様子で自室の壁にかかれた円を通して命令を下し、紅い髪をガシガシと掻く。
迂闊だった。
まさかリスノワールが屋敷から出て行くとは思わなかった。
屋敷が嫌になるよう、町で何か吹き込まれたか?
いや、犬が同行していた中でそれは難しいだろう。
では、何かが気に食わなかった……?
そんなことを今考えても仕方がない。
まずは見つけ出すことを優先せねば。
あたしが出るしかないかと、上着を掴んで部屋を出る。
「御嬢!!たたた大変です!!」
途中で転びそうになりながらも、何かを持ったムーナが駆け寄って来た。
「こ、これ、昨晩帰宅したリスノワールさんから預かったカバンに入りっぱなしだったんです……!!でもお部屋にリスノワールさんが居なくて……」
そういって差し出された手の平に乗せられていたのは、紛れもなく御嬢がリスノワールに渡したあの猫の手と、謎の石だった。
「ッ……!!マジかよ……とりあえずこいつらはあたしが預かっておく。それと、チョーカーは部屋にあったか?見つかってなければ今も着けているハズだが、外れているとマズイ……」
「チョーカーは見てないですけど……あ、あのチョーカーは猫の姿に変わっても大丈夫なんですか?その、身体の大きさが変わって緩んで外れちゃったりとか……」
「一応、猫の状態に変形しても体型に合うように細工はしてある。だが、猫の状態で首が絞まらないように外れやすくもなっている。チョーカーに人型を維持できるよう魔力を込めているがまだ完璧じゃねぇし、チョーカーをつけた状態でも猫の状態になりうる。猫の状態から人型の状態に戻りやすくもしてはいるが、まだ調整段階だ。うまく動作する保証はない。」
「じ、じゃあもし猫の姿でチョーカーが外れてしまったら……?」
「犬の嗅覚以外、手掛かりが無くなるな……」
静かに発せられた言葉が重くのしかかる。
「だが、あくまでそれは”たられば”の中の最悪のパターンだ。現状まだチョーカーを付けている。とっとと見つけるぞ。」
「そ、そうですね!無事を祈りましょう!」
「あぁ。とりあえずムーナは焼き魚だとか茹で鶏だとか、猫が好きそうな料理を作ってくれ。それとマビタタ入りちゅるるもいくつかの小皿に分けて、屋敷周辺に置いてくれ。それと、フランとザンビに塀の外も捜索しつつ警戒するよう伝えてくれ。留守を頼む。」
「わ、わかりましたっ!」
どうかまだ近くにいてくれと願いつつ、支度を済ませていく。

「御嬢、町方面の門で微かに臭いが残っていました。」
「やはり町に行ったのか……?」
「恐らく。」
御嬢の部屋から玄関へ向かう途中でウルフェルと合流した。
「……申し訳ありません、昨日の私が至らなかったばかりに……」
「別にあんたのせいじゃないだろ。」
「せめて新月でさえなければ、あのような結果には……」
「ただの可愛い小犬だからな。その分、色んな店で可愛がってもらえたんだろ?」
「テルパスのお嬢さんが好みですね。残念ながら既婚者のようでしたが。」
「それは良かった。んで?昨晩どこから記憶が無いんだ?」
「御嬢の買い出しを済ませた夕方頃でしたね。広場のベンチに座り軽く休憩していると、おもむろに自分の手を見つめ、急に立ち上がったかと思うと路地の方に歩き出し、その後リスノワールが突然倒れました。私も助けを求めようとしましたが、その辺りから記憶が途切れていますね。かなり強めの催眠術を掛けられていたようで……少し焦げるまでグッスリでした……」
「もう少しで犬肉が手に入ったのにな。まぁいい。その路地も気になるが、まずはリスノワールだ。準備はいいな?」
「仰せのままに。」
屋敷の門をくぐり外へ出る。
御嬢の目前でウルフェルがしゃがみ込むと、全身を黒い毛で覆い、四脚の大きな狼の姿に変わった。
「まだ本調子じゃねぇだろうが、ひとっ走り頼んだ。」
御嬢がその大きな背に跨ると、狼はリスノワールの臭いを辿るように走り出した。


***
4月3日分。
今日4月20日だなんて信じたくない。
生活環境が少し変わるかもしれないので、それまでに遅れは取り戻したいですね。

ココだけの話、御嬢を大型犬に乗せるのは一つの目標でもありました。
魔女らしく箒に乗って飛ぶこともできるんですけどね。
さて、リスノワールの運命やいかに。

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