Curse Of Halloween 9話①

「あるふぁ は おめが としか、ケッコン できないの?」
「うぅん、あるふぁ は だれとでも ケッコン できるよ。」
「あるふぁ と あるふぁ でも いいの?」
「あるふぁ どうし でも べーた あいて でも ケッコン できるよ。でも……」
「でも?」
「あるふぁ に ツガイ に された あいて は みんな おめが に なっちゃうんだって__」


御嬢の姉であるアンナとナターリアが屋敷にやって来た。
二人はリスノワールことアーヴァエの治療を行うという。
姉妹という間柄でも、とても高そうな報酬を求めていた。
そんな二人をアーヴァエの居る部屋へ案内した。
「師匠、あの……」
ウルフェルに耳打ちをする。
「先ほどのアイ?アサ?の魔女って何ですか?」
「おや、ご存じありませんか?魔女にはそれぞれ色が与えられます。その色は親や師匠などから教え子に与えられます。ちなみにこちらに居られる御姉妹は世界三大魔女の娘で、皆お母様から頂いた色ですよ。」
「どんな色なんですか?」
「簡単に説明しますと、藍は濃い青色、麻は色ではありませんが薬草の一種ですね。ちなみに御嬢は紅なので赤に近い色です。」
「麻だけ色じゃないのは何か理由があるんですか……?」
「ナターリア様だけ正確には魔女ではないからです。」
「フクザツそうですね……あ、三大魔女もわからないです。」
「マハナの若さや境遇では知らなくても仕方ありませんね。200年ほど昔、その三大魔女が世界の滅亡を食い止めたといわれています。ただ、そんな英雄のような魔女でさえ、この世から消されてしまったのですが……」
「け、消された……?」
「その話は長くなるので、またいずれ。今はアーヴァエの回復を祈りましょう。私は少し席を外した後、部屋の前で待機していますので、何かありましたらお呼び下さい。」
そう言い残し、ウルフェルは部屋を去った。

「……なるほどねぇ。」
ベッドを囲うように、三姉妹の魔女がアーヴァエを舐め回すように観察していた。
アーヴァエはいつの間にか一糸纏わぬ、あられもない姿になっていたが、よほど眠りが深いのか、目を覚ます様子はなかった。
「医者曰く、マビタタエキスの興奮作用やエンゲルトルンパによる幻覚作用を与えられた複雑な副作用らしい。だが、何らかの催眠の可能性もある。あとは……医者が偽物だったか、だな。」
御嬢が簡潔に説明する。
「その医者というのは、例のヴァンパイアくんかい?」
「あぁ、今晩も来る予定だ。」
「会えるのが楽しみだね。あ、黒猫ちゃんの背中側も見せて。」
そうつぶやくとアーヴァエの身体がふわりと浮き、仰向けからうつ伏せの状態で浮き続けた。
「あぁそうだ、この腰の紋様も解らず仕舞いなんだ。昔ここに住んでいたエルフの身体にも似たような紋様があったと、チビから報告を受けていたが……前に見た時より紋様が広がっている気がするな……何か知っているか?」
マハナも少し離れた位置から、アーヴァエの紋様を確認した。
「あ、あの……!」
突如声がした方へ姉妹が視線を向けた。
「あ?どうした、マハナ?」
「その紋様、ボクも見覚えがあります。この屋敷が孤児院をしていた時、エルフのお姉ちゃんのおへその下にありました。ただ、今アーヴァエの腰にあるのは初めて知りましたし、エルフのお姉ちゃんの紋様と細かい部分が違う気がします。」
「へその下に、ね……紋様も似ているってだけで別物か。」
「刻印された紋様が他の人に移植された例は聞いたことが無い。まぁ、私の耳に入っていないってだけで、どこかで起きている可能性は無くもないが……今回は別の紋様だろう。」
「他にも紋様の種類があるのか?」
「私が見たことあるのは30種類くらいだな。治療に来られない奴隷もいるから、数はもっと多いだろう。」
「マハナちゃんの身体には無いの?」
「えっ!?えっと、無いと思います……たぶん……」
ナターリアから突然話を振られ、声が上ずる。
「白猫ちゃんは後で診る。」
「アーヴァエちゃんみたいに全身チェックするから、気持ちの準備はしておいてね。」
「っ!?そ、それは困ります!!」
「あ?何か不具合でもあんのか?」
「あの……色々と言えない事情が、ありまして……」
「診察だ、脱げ。」
「も~!エカちゃん!脅迫はダメよ!」
声を荒らげたナターリアは、マハナの目の前で両膝を床に着け、優しく声をかけた。
「マハナちゃん、よく聞いて?私達は二人の治療に来ています。これ以上身体が悪くならないように、少しでも苦しみが無くなるように、寄り添うのが私達の役目。マハナちゃんが自分の身体をみんなに見られたくないというのなら、誰か一人だけでも良いから見せて欲しいの。もしかしたら、マハナちゃんが気になっていることも、相談して、診察すれば良い方向に進むかもしれないからね。」
マハナは少し俯いて暫く悩み、ゆっくりと口を開いた。
「……わかりました。でも、今回のアーヴァエの治療を終えた後に判断しても良いですか?」
「えぇ、大丈夫よ!ゆっくり決めて!」
「……ありがとうございます。」
マハナは軽く頭を下げると、ナターリアは立ち上がり優しく撫でた。

「んじゃ、改めてアーヴァエの紋様の解析をするが……姉貴達は何かわかるか?」
「……エカテリーナ、もしかしてこの子、危ない施設とかに居た?」
「あぁ、マハナからヤベ―施設に監禁されていたってのは聞いた。やっぱそこが関係してんのか?」
「恐らくその施設で選別された奴隷が売り飛ばされているはずだ。黒猫ちゃんもその一人だったんだろう……以前より紋様が広がっていると言っていたが、以前の紋様はどこまでだった?」
「前のは写してある。コレだ。」
エカテリーナはアンナにメモを手渡すと、暫く考え込んだ。
「……『器』……か?」
「ウツワ?何か入れるのか?」
「ナニをとは言わないが、注いでくれってことだ。ソレが注がれ満たされると、体力や魔力が回復する……そして追加された紋様は略式だが『中毒』だ。つまり、日常生活を送る中でも不定期的に突然注がれたくてたまらない気持ちに襲われる状態が頻繁に起きる。」
「……するってーと、目が覚めたら地獄じゃねぇのか……?」
「言ってしまえば疑似的な発情期のようなもので、毎日涎を垂らしておねだりしてきてもおかしくない。強いて言うなら、この子の場合は3か所の " 注ぎ口 " のうちどこに注がれても達成できるのが不幸中の幸いかな。まぁ、このまま残しておけば、の話だけど。」
「……まさか姉貴、この紋様を消せるのか?」
「そのまさか、だ。数年前からこういった紋様で困っている患者が増えた。その患者の共通点が、良い人に雇われた奴隷だった。その奴隷は危険な施設に居たらしい。運良く優しい雇い主だったから、紋様を消せないかウチに来たってトコだな。ただ、準備や解呪には時間と多量の魔力が必要になる。」
「なるほど……とりあえず、この紋様が消えればアーヴァエは落ち着きそうか?」
「薬物の作用は医者くんが除去してるみたいだから、紋様を解呪すれば目を覚ましても問題ないだろう。だがこの子、魔力が歪だな。そこが一番の問題だと思う。」
「確か、そのヤベ―施設の実験でさっき言ってた紋様付きのエルフの血が混ぜられたらしい。」
「なるほどね。これは医者くんもお手上げだろう。医学的に診たら近い血液を輸血してもらって薄めるくらいだけど、猫人族のΩはそうそう見付からないしな。」
「ちなみに、マハナもエルフの血が入っている。しかもダークエルフの可能性がある。」
「そうなのか。……パッと診た感じだと、魔力は比較的安定しているな。まだ使い方が分かっていないだけだろう。訓練すれば一応は安定するはずだ。」
マハナは目を見開き、ほんの一瞬だけ思考が停止した。
「ま、待ってください!ダークエルフは初耳です!アーヴァエと同じか普通のエルフじゃないんですか!?」
「あ?知らなかったのか?昨日採血した医者が言ってたが……」
「白猫ちゃんについては後でじっくり調べる。黒猫ちゃんの解呪の準備をするから、ナターリアも手伝って。それと、可能ならチビたちも呼んで。」
「ん?チビたちも使うのか?」
「もしかしたらな。なるべく使わずに済ませたいが……」

チビたち?ダークエルフ?腰の紋様の解呪?
疑問だらけで思考が追い付かないまま、解呪の準備が始まった。



* * *

7月3日更新分です。
御嬢の姉妹がいよいよ?さっそく?活躍してくれる……はず。

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