Curse Of Halloween 7話①

「あるふぁ と おめが には、『ウンメイノツガイ』が いるんだよね?」
「どこに いるかは わからない けど、どこかに いるんだって。」
「じゃあ、べーた にも『ウンメイノツガイ』は いるの?」
「べーた どうし の、おとこのこ と おんなのこ で『ケッコン』するみたい だけど、それが『ウンメーノツガイ』ってこと かもしれないね―――」


「フリークショーの話は一旦置いといて、だ。あんたらの話を聞かせてくれるか?」
御嬢は食卓のいつもの席に座る。
「御嬢、こちらはマハナ。我々がリスノワールと呼んでいる黒猫アーヴァエのご家族です。」
「マハナとアーヴァエ、ね。」
「マハナ、こちらがこのお屋敷の主の魔女エカテリーナです。」
ウルフェルが間を持ってそれぞれを紹介すると、マハナは背筋を正してお辞儀をした。
「あー、堅っ苦しいのはメンド―だからナシだ。気楽にしてくれて構わん。あと呼び方も ”御嬢” で良い。」
「わ、わかりました。」
まだ緊張は残っているが、幾分かは解れた様子だった。

「えと……ボクもアーヴァエも、どこで生まれたのかわかりません。物心ついた時には既に血の繋がっていない人間の両親と四人で暮らしていました。」
「人間の夫婦が猫人兄弟の孤児を引き取ったってところか。」
「たぶんそうです。でもその両親は殺されて、ボクとアーヴァエは悪い人たちに捕まり、どこかの研究施設の暗い部屋に閉じ込められました。そこからどうにか逃げようとあれこれ試しましたが、大勢の大人相手には敵いませんでした。その後、悪い大人たちはさっきの仮面のおじさんみたいに、ボクたちで無理矢理子供を作らせようと言ってました。」
「その時は自分達のバース性を知っていたのか?」
マハナは首を振った。
「両親も悪い大人たちも、誰もボクのバース性を教えてくれませんでしたが、アーヴァエはΩだと言われていました。アーヴァエがΩであれば、ボクはβでもαでも子供は出来ますから……でもアーヴァエは身体が弱く、子供を一人産んだだけで死んでしまうと言ってました。そこでボクが ”絵本に出てきたエルフみたいになれたら長生きできたのかな” なんて言っちゃったから、悪い大人たちはエルフを二人捕まえてきて、嬉しそうにボクにエルフの血を無理矢理入れ続けました。とても痛くて苦しくて死にそうな毎日でした。気が付くとボクはただ寿命が延びたというか、成長が遅くなっただけでした。それを成功と見た悪い大人たちはアーヴァエにもエルフの血を入れたけど、アーヴァエは苦しそうにもがいた後、長い眠りにつきました。大人たちは ”エルフに侵食されている” と言っていました。」

「ちょっと良いか?エルフもかなりの希少種のハズだが、そんな都合よく見つかるモノか?」
「えと……御嬢はこの屋敷にいつ来ました?」
「あ?だいたい5年くらい前か……?それがどうした?」
「御嬢が来る前のお屋敷って、何がありました?」
「あー、確か元孤児院とか……まさかな?」
「ボクたちが人間の両親に引き取られる前はここに住んでいたらしくて、ボクは覚えていなかったけど記憶があったんです。このお屋敷にエルフのお姉ちゃんが居たことを。その記憶を悪い人が特殊な魔術で覗き見て知っていたらしく、このお屋敷を襲ったみたいです……あの、今のお屋敷は襲われたりしない、ですよね……?」
「そこは安心しな、あたしと強力なサポーターの共同で作った魔術結界だ。そうそう侵入されねぇよ。」
「それなら大丈夫……かな……」

「じゃあ話を戻すか。エルフに侵食されてるアーヴァエは目が覚めたのか?」
「はい。ただ、3年近くかかりました。その間にボクはαだと教わり、見付かっていない秀でた才能を目覚めさせるようにと、あらゆる拷問を受けました。でも、才能を見出す前に拷問してきた悪い大人たちが次々と事故や病気で死んでしまって、結局才能は分からず仕舞いです……それからようやっと目が覚めたアーヴァエも、悪い大人たちに色んな実験をされました。エルフの血があるのなら長寿の他にも治癒能力等があるだろうと言われ、ボクを傷だらけにして檻に戻され、アーヴァエも必死に手をかざしたり撫でたりしたけど、すぐには治癒能力に目覚めませんでした。」
「すぐにはってことは、その後に治癒能力が見つかってるんだよな?何かきっかけがあったのか?」
「それが、悪い人が研究資料の紙で指を切ってしまい、他の人が ”舐めてりゃ治るだろ” と言った後、出血している指を冗談半分でアーヴァエの口に入れたら治ってしまった、というだけなのですが……唾液以外の体液でも治癒の効果があると期待されてしまい……」
「身体の隅々まで調べられたってことか……」
「悪い大人達にいろんな実験を指示していた偉い人も ”妊娠する可能性のある行為” だけ禁止にしていました。それが許されるのはボクだけだと。それと、アーヴァエが妊娠していないか、毎日調べられました。」

「血統主義のやつらが考えそうなことだな。」
「でも、悪い人たちの中でも仲間割れがあったみたいで、今すぐ玩具として遊びたい人もいたらしく、時々ケンカになっていました。」
「快楽主義もいたのか。メンド―な場所だな。」
「そんな状況でもアーヴァエに ”治癒行為だ” と言って色々教え込んでいて、ある日ボクが切り傷だらけで部屋に戻されると全身を舐められました。兄弟でこんなことをするのはオカシイと思っていたので、ボクはとても不快でしたが、アーヴァエは悪い人に ”血が出ていたら舐めるのがお前の役目だ” と暗示を掛けられていたようでした。でもその日のボクの傷は深く、全ての傷を舐める前に、小さな黒猫の姿に変わっていました。その姿はαのボクも知りませんでした。」
「獣人は誰でも自由に変化するもんじゃねぇのか?」
「お言葉ですが御嬢、一般的な獣人の殆どは親もしくは学校等の生活で覚えます。このお二方は両親が人間でしたし、施設に閉じ込められていたため、その機会が無かったのでしょう。」
「なるほど、勉強になった。」

「それから、アーヴァエの猫の姿を見たボクもすぐに変化、獣化を覚えましたが、この姿を悪い人に見付かるのが怖くなりました。また何かに利用されそうな気がして……アーヴァエにもなるべく人の状態を保つようにと話しましたが、不安定で制御ができず、すぐに悪い人に見付かりました。その不安定さから色んな実験が難しくなり、その時はアーヴァエの変化を安定させる事を第一に色んな薬を入れられました。飲み薬だとエルフの治癒能力が邪魔してしまうだとか……」
そう言うとマハナは自分の腕を確認した。
「ボクの注射の痕はアーヴァエが舐めて消してしまったんですけど、アーヴァエは自分を治癒できないし、ボクには治癒能力が無いので、アーヴァエの腕には注射や点滴の痕が残っていると思います。」
「確かに医者がそんなこと言ってたな。輸血されたんじゃないかって。その時にオッドアイになったのでは、とも言ってたな。」
「そうでした……アーヴァエは元々、両方ともキレイな黄色でしたが、輸血されて長い眠りから覚めた時、右目が青色に変わっていました。」
「やっぱりエルフの血が影響してたんだな。マハナの目は変化しなかったのか?」
「ボクの目はわかりません。人間の両親と暮らしていた時はアーヴァエと同じ黄色だったと思います。でも、その施設に入ってからちゃんと鏡を見ていないので……あの、今何色ですか……?」
マハナの上げられた顔、見開かれた目をまじまじと見つめる。
「これは珍しいですね……青と黄色の2色、でしょうか?オッドアイとはまた違った様子ですが……」
「あー、何だっけな……かなり希少の……あぁ、思い出した。ダイクロイックアイだ。」


* * *

5月1日分の更新です。
ここ数日体調がよろしくないので熱中症には気を付けような。
ちなみに、ダイクロイックアイは猫ちゃんの目の色で実在するらしいです。
1つの虹彩に2色ある状態。
厨二心を擽られますね。

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