Curse Of Halloween 5話④

独特な鼻を衝く臭いで目を覚ますと、そこは知らない天井だった。
たしか魔法道具屋を探して路地裏を歩いていたはず。
それがなぜか見ず知らずの薄暗い場所、それも雑に床に敷かれたマットレスに寝かされていた。
「フヒッ、どうやらお目覚めのご様子ですな~?」
カラカラと軽い声がする方へ顔を動かすと額から濡れたタオルが落ちた。
「まぁまぁ、あまり動かずじっとしてる方が良いですぞ~」
目が霞んでハッキリとは見えないが、近くにぼんやりと黒い影が見えた。

「チミは確か、今は紅の魔女殿のところに居るんでしたかな~?」
あかのまじょ……?
「そうそう、リゴンや人間の血液と近い紅色の髪をしておりますな~」
リゴンのように赤い……御嬢のことだろうか?
「フヒヒッ、今はそう呼ばれているんですな~。まぁそれはいいとして、その紅の魔女殿の御遣いとはまた厄介なものを頼まれてしまいましたな~」
そうだ、まだおつかいの途中だ……
「まだ動いてはなりませんぞ~。チミが連れていたワンコ氏に見付かると、チミが御遣いクエストに失敗になりますゆえ~」
でもおつかいはどうすれば?
「それは簡単なことですぞ~。ここがチミの目的地である『メテオール』ですからな~。失礼ながらチミのカバンにあったメモを見させてもらいましてな~、今はサモンストーンを磨いておるのですぞ~。これほどの輝きモノは手放すのが惜しいくらいなんですぞ~」
この人は考えている事がわかるのだろうか?
「フヒヒッ、厄介な体質ですぞ~。嫌でも溶け切った脳に響き渡りますからな~。町中なんぞ歩けませんぞ~」
町に行けないとお買い物もできないのでは……?
「そうなんですな~。だからウチでは金銭での取引ではなく、物々交換で食っていくしかないんですな~。先ほどチミが町で買ってきたものの一部はオイがもらう手筈ににってるんですぞ~。いや~、まさか本当にエイハンを頂けるとは思っておりませんでしたな~」
店主は上機嫌に独特な声で笑う。

「それにしても、チミも災難ですな~。ネタバレは好きじゃないんで詳しくは話せませんが、その様子だとチミも紅の魔女殿から逃げられんのでしょうな~」
御嬢から逃げられない?どうして?
「紅の魔女殿にはとある呪いがありましてな~。特定の種族や容姿の者が紅の魔女の下に集まってしまうんですぞ~。その呪いのせいでチミもあの屋敷に招かれたんだと推測しますぞ~。しかも一度招かれたらものすごい速さで遠くまで逃げないと解放されず、それができるのは紅の魔女本人くらいなんですな~」
御嬢に呪い……?
「フヒッ、ついつい喋りすぎましたな~。なんせ上質に磨き上げるまで時間がかかりますからな~。それまで久々に沢山おしゃべりしたって許されますよな~?そうですな~」
……では、何故どうして考えが読めるのだろうか……?
「それは企業秘密というやつですな~」
では御嬢について、もう少し聞けないだろうか……?
「ヒヒッ、そうですな~……紅の魔女殿は甘いものが苦手なんですな~。紅の魔女殿はとても華奢な出で立ちでありまが、体力や魔力にはとても自信があるようですぞ~。」
町で沢山プリソを買ったけど、アレは誰が食べるのだろう?
「オイも一つ頂きましたぞ~。あそこのなめらかプリソは甘さ控えめでありながら、とてもとても美味なんですな~」
御嬢はどんな魔女なのだろうか?
「そうですな~、紅の魔女殿は名前の通り、炎系の魔術を得意とするんですな~。別名は『紅蓮の魔女』でしたな~。これまで沢山燃やしてきたらしいですぞ~。暖炉の着火なんて容易い御用なんでしょうな~」

その後もいくつも質問をした。
話せないリスノワールにとってスムーズに会話ができる感覚に、微かに喜びを感じていたのかもしれない。
そしてようやく御嬢の注文の品が完成した。
「お待たせしましたな~。チミも身体を動かして大丈夫ですぞ~。これが上質サモンストーンですな~。ネフィモライト原石も3つ入れておきましたぞ~。そろそろワンコ氏にお迎えに来てもらいますかな~」
リスノワールが持っていたカバンの中を勝手にゴソゴソと漁り、御嬢が入れていたであろうお助けアイテムを取り出した。
「ありましたな~。チミはコレの使い方を知っていますかな~?」
リスノワールは身体を起こし、声のする方へ視線を移す。
カバンから取り出されたのは風呂敷のような布で、広げるとおおよそ50センチ角の大きさだった。その片面には不思議な円形の模様が描かれていた。
リスノワールは首を振った。
「そうでしょうな~。オイに任せたんでしょうな~。これは帰還魔方陣ですな~。この布を足元に敷いて魔方陣に乗ると、お屋敷まで一瞬で帰れるんですぞ~。なのでワンコ氏と一緒に乗るんですぞ~」
ずっと気になっていたが、小犬の姿が見えないままだ。
「ワンコ氏には少し静かにいていてもらってたんですぞ~。今日は新月ですからな~。誘導係のワンコ氏もただの小犬ですな~」
部屋の奥の暗がりにろうそくの火が灯ると、寝息を立てて眠る小犬がぼんやりと見えた。
「身軽な小犬ですからな~。チミでも簡単に持てるでしょうな~。」
小犬の下へ寄り、そっと抱え上げた。
「フヒッ、思ってた以上にグッスリですな~。チミの足音や匂いで起きるかと思いましたぞ~。ともあれ、こちらに魔方陣を敷きましたぞ~。荷物も横に置いてありますゆえ、あとはそれを持って乗るだけでクエスト完了ですな~」
言われた通り、魔方陣とカバンが床に置かれていた。
終始店内が暗かったこともあり、結局店主の顔どころか、姿は全く見えなかった。
せめて名前だけでも聞いておきたいが……
「フヒヒッ、オイは醜いですからな~。またいつか会うことがあれば、何かあるかもしれませんな~」
紅の魔女殿によろしくですな~と別れを告げられ深くお辞儀をした後、荷物を持ち魔方陣に足を踏み入れると、ゆっくりと魔方陣が光を放ち始めた。
「そうそう、もう少ししたら―――」

店主の声が途切れた瞬間には既にお屋敷の玄関内だった。
「わわっ!今戻られたんですか!?ず、随分と遅かったですけど、大丈夫でしたか……?」
近くでたまたま居合わせたムーナが声を掛けてきた。
時計を見ると日付が変わろうとしていた。
「御嬢ももう寝てると思いますし、パパッと片づけておやすみしましょう!お手伝いします!リスノワールさんはそのワンちゃんをウルフェルさんの部屋に連れて行ってください!」
ムーナはリスノワールから荷物を預かるとキッチンへと向かった。
小犬だから同じ犬系のウルフェルに預けるのだろうか。
軽くそう思いつつ、指示通りにウルフェルの部屋へと送り届けた。


第5話『犬猫の労』

***

3月27日分の更新です。
更新ペースがさらに落ちた気がします……
もう少し上げていかねばと思いつつ、もしかしたら生活環境が変わるかもしれなくて、少々心配しております。
なおさら急がねば……

あ、お花見は少しだけしてきました。

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