Curse Of Halloween 8話④

家庭菜園、とは言ったものの、お屋敷と同じ敷地はありそうな、そこそこの広さを有していた。
屋敷と畑以外にも、まだまだ敷地は余っていた。
その畑にはオーバーオールを着た男が黙々と作業をしていた。
「フラン、お疲れ様です。今お時間よろしいですか?」
フランと呼ばれた男はコチラに振り向き立ち上がる。
近付くとウルフェルより大柄である事がよくわかった。
「大丈夫、だ。」
ゆっくりと発せられる低い声は、どこか安心感を覚える。
見上げているとフランと目が合った。
「こちらはマハナさん。先日来たリスノワールの姉妹です。」
マハナは軽くお辞儀をする。
「こちらはフラン。この屋敷の庭や菜園の管理を任されています。」
フランはゆっくりお辞儀を返した。
マフラーのようなものを首に巻き、口元まで覆われていて表情は読めなかった。
「フランはこの菜園をはじめ、庭の植物関係の殆どを管理しています。」
「庭の殆どって、どれくらいの敷地なんですか?」
「そうですね……門から続く塀に囲われている範囲は全て御嬢の敷地になりますので、今、目に映っている景色の殆どは我々の庭になります。」
「あの森の奥もですか?」
「ええ、もちろん。」
「敷地内に森……そんな広範囲を管理しているなんてすごいですね!」
「……仕事、だからな……」
マハナは目を輝かせながら称賛したが、フランの反応は薄かった。

「少しお伺いしますが、マハナはどれほど植物の知識がありますか?例えば、この花の名前はわかりますか?」
「えぇと……サラフーン、ですかね?」
「……黄色、橙、赤がサラフワー……紫がサラフーン……」
「うぅ……全然違いました……」
「名前……似ている……」
「いえ、もっと精進します……」
「しかしサラフーンの名前だけでも知っているということは、幾らか知識はありそうですね。その知識はどこで?」
「両親に頂いた書物です。絵や写真が無かったので、文字のみの情報しかありませんし、最後に読んだのも5年以上前なので、もうほとんどが曖昧ですが……」
「ご両親からの書物……なるほど、良いものを読まれていたのですね。」
「ハッキリとは覚えていませんが、母が何かの病気を患っていたんだと思います。それでいろんな薬草を調べていたのかと……子供だったボクらには教えてくれませんでしたが……」
「ご病気でしたか……つかぬことをお聞きしますが、マハナ達はご両親とどちらに住んでいましたか?この屋敷に来たことがあるとおっしゃっていましたが……」
「たしか、ここから馬車で3時間くらいでしょうか……?途中で馬を休める時間も挟みながらでしたが……」
「3時間ほど……なるほど、ありがとうございます。この近辺ではサラフーンは栽培されていないので、入手は困難だったでしょうね。」
「もし早く見つかっていれば……と、今でも思います。」
「……後悔しているんですか?」
「していない、と言えばウソですが……今はアーヴァエを守りながら、穏やかに暮らすことを目指してます。」

「そ~んなにその子が大事なのね?」
上空から聞いたことのない女性の声がした。
見上げると全身真っ黒なローブを着た女性と、少し小柄で動きやすそうな服装の女性がほうきに乗っており、ゆっくりと降りて来た。
「お早いご到着でしたね。ご連絡頂ければお迎えに上がりましたのに。」
「い~え、気にしないで。楽しみ過ぎて急いで来ちゃっただけよ~。その子が昨日来た白猫ちゃんね~?」
「はい、ご紹介します。こちらがマハナ。例の猫人族の姉妹です。」
二人の女性にウルフェルが紹介すると、只ならぬ雰囲気からマハナは一礼した。
「マハナ、こちららの方は《藍の魔女》アンナ様、隣にいらっしゃる方がアンナ様の妹で《麻の魔女》ナターリア様です。お二人はエカテリーナ様のお姉様になります。」
アンナは表情を変えずに軽く一礼し、ナターリアは嬉しそうにソワソワと落ち着かない様子だった。
「お、お姉様!?えと、はじめまして、マハナです……!」
「わ~!!可愛いわね!!あ、この服もしかしてエリ……エカちゃんがデザインした物でしょ!?似合ってるわ~!!あ、気軽にナタリアって呼んでね!!」
ナターリアは活発な女性らしく、マハナの手を握り、激しく握手を交わす。
「ナタリア、落ち着きなさい。」
アンナが制止する。
「妹がすまないね。私はアンナ。エカテリーナとナターリアの姉だ。私らは君達の治療に来た。」
アンナは落ち着いてマハナと握手を交わした。
「あの、どうしてお姉さんたちがボクらの治療を?昨晩もお医者さんに診て頂いていますが……」
「それは君も薄々感じてるんじゃないかな。」
「えっ……?」
「では応接室へご案内します。マハナ、予定変更です。屋敷の案内を中断して応接室へ向かいますよ。」
急な展開に戸惑いつつ、一同は応接室へ足を運んだ。

「よぉ、久しぶりだな姉貴。来るのが早すぎねぇか?」
遅れて御嬢が応接室に入って来た。
「エカちゃん!お久しぶりね!元気にしてた?」
ナターリアは御嬢に一方的にハグを交わすと、子ども扱いするように窺う。
「たまたま近くの町まで来ていただけだ。……それで?エカテリーナが私達に ” 依頼 ” するなんて、どういう風の吹き回し?」
「そうよ!いっつも自分で解決させちゃうのに……もしかして、ようやっとお姉ちゃんたちを頼ってくれる気になった!?」
「……今回だけだ。今回だけはあたしもお手上げなんだ。」
御嬢はため息を零しつつ、静かに続ける。
「Ωで黒猫の獣人の中にエルフの血が入っているらしい上に、色んな薬も盛られている。治癒の力とかもあるみてぇだが、獣化さえ不安定すぎて医者でも苦戦している。記憶も声もねぇし、Ωの猫人族ってだけで悪い虫が寄って来るわで買い物すら危うい。今後も嫌な予感しかしねぇ……」
「その大切な黒猫ちゃんに施術すればいいのね!今はどこに?」
「部屋で寝かせてある。」
「報酬は?身内でもサービスはしないよ。」
「先日『ピエロ』を見つけた。消し炭にしておいた。」
「……なるほど、良い情報だ。だが、出来れば自分の手で仕留めたかったな……他には?」
「あ~……少し時間を貰えるなら、” 火炎の腕装備 ” でどうだ?」
「文句なしだ。ただ、状況によっては追加でもらう可能性もある。」
「あぁ、わかっている。ひとまず交渉成立だな。」
「じゃ、張り切って取り掛かろうか。案内しておくれ。」
ウルフェルを呼ぶと、大人しく静かに聞いていた背後のマハナからも強い眼差しを向けられた。
「本来客人には立ち入りを断るが……」
「邪魔をしなければ立ち会っても良い。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
「ただ、覚悟はしておいてくれ。」
「か、覚悟……ですか?」
ナターリアが代わって説明する。
「んとねー、私達も現状聞いたことのない症状なので、必ず治るとは言えないのよね。一歩間違えれば悪化する可能性だってあるのよ。できる限りの手を打つけれど、 ” 最悪の事態 ” も覚悟しておいて欲しいの……」
そう言いつつマハナに近付き、そっと耳打ちする。
「ま、報酬が大きければ大きいほど、お姉ちゃんは凄まじいパワーを発揮するから、きっと大丈夫よ!」


第8話『猫に木天蓼、御女郎に小判』

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自分の首を絞めるプロではないかと思う今日この頃。
話があちこちに転がりすぎて自分でも何がしたいのやらと思っております。
とりあえず次回は早めに書きたいわね。

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