Curse Of Halloween 6話③

不審な老紳士から手渡された招待状は、町外れにある廃サーカスで開催されるショーの物だった。
「ここのようですね。微かにではありますが、不潔な臭いに混じってリスノワールの臭いもします。」
「吐き気がする。さっさと用を済ませてさっさと帰るぞ。」
入り口にいる仮面を付けた細身の受付係に招待状を見せる。
「ようこそ、こんばんは。ご招待の方ですね。失礼ですが、ご身分を明かして頂いてもよろしいですか?」
御嬢は舌打ちしつつも指示に従い、全身に炎を纏ったかと思うと、少女の姿から一変し、いつもの露出の多い姿へと変貌した。
小犬も続いて全身の黒い毛を膨張させた後、人型へと変貌した。
「ご協力感謝します。ご招待席はあちらです。まもなく開演です。どうぞごゆっくりお楽しみください。」

案内された席へ移動し、御嬢に耳打ちをする。
「正体を明かして大丈夫でしょうか?」
「思い出せなくすればいいだけだ。」
「それもそうですね。」
前方には舞台から低く設置された一般観客席、そこから隔離された後方、全体が見渡せるほど眺望の良い場所に招待席があった。
一般客席には見るからに治安の悪そうな客が喚き蠢いている。
招待席には御嬢とウルフェルだけだった。
用意された2つの招待席の片方に御嬢が腰かけ足を組むと、おもむろに胸の谷間から煙管を取り出し、煙を吹かした。
その横、半歩下がった位置にウルフェルが立っていた。
開演時間が過ぎ、御嬢の眉間のシワが深いまま暫くして、照明が落とされた。

「レディース!エーンド!ジェントルメン!!」
舞台中央に立つ小太りな仮面の男にスポットライトが当てられる。
「ようこそ!フリークショー『カラギュリー』へ!!大変長らくお待たせいたしました!激レアなゲストを急遽お迎えした今宵はいつもと一味も二味も違う何でもありのショータイム!!いつも以上に狂ってまいりましょう!!まずはこちら!!」
ステージ奥の幕が上がると、幅は1メートルほど、高さは2メートルほどの鳥かごのような檻が運ばれてきた。
1つめの檻の中には人狼の少年。
盲目で生まれ、狩りも出来ず仲間にも入れられず、居場所を無くした。
2つめの檻の中には鳥人の幼い少年。
罠にかかり聴覚と翼の先半分を失い、巣へ戻れなくなった。
3つめの檻の中には猿人の少女。
生贄として逃げられぬよう舌と四肢を失い、芋虫として捧げられた。
その後もいくつか同じように檻に入れられたワケアリの者が紹介された。
種族も性別も関係なく、裏では下の奴隷として働かされるのだろう。
「美女が少ないですね。」
「美品は金持ちに優先されて売られてんだろうな。」
「だとするとリスノワールは既に買い手が決まっていそうですね。」
「猫人も希少だからな。奴隷商でも高額で取引されているが、あたしをここに呼んだ以上リスノワールはこの舞台に出てくるだろう。」
「……無事だと良いのですが。」
「なんだ?」
「リスノワールに近い臭いがもう一つ……」
「猫人がもう一人?こんなところに?」
「恐らくは……」
「へぇ……美女だと良いな。」
「美女なら買いましょう。」
「犬の給料から天引きな。」
「ブラック企業ですね……」
「ウチに必要ねぇからな。」

それから10ほどの檻を見たが、リスノワールはまだ現れなかった。
観客にも不満の色が見えてきたタイミングで全ての照明が落とされた。
「大っ変長らくお待たせしました!!いよいよお待ちかねの激レアちゃん!!なんと!!急遽予定を変更する事態になりました!!」
会場がどよめく。
「本来は1匹の予定でしたが!!飛び入りで2匹になりました!!」
二人は静かに様子を伺っていた。
「ご紹介しましょう!!天然の愛玩種族とも呼ばれる獣人『猫人族』の2匹です!!」
舞台上には大型の檻が1つ、中にはリスノワールともう一人、別の猫人族が居た。
みすぼらしい恰好の二人はX字型に磔にされ、ぐったりと項垂れており、表情は見えなかった。
「客席の皆様から見て、左が白猫のα、右が黒猫のΩ!!どちらも10才を越えているが、特殊な技術により成長が遅らせられているため、猫人族の寿命とされている20歳を超えても若い姿を保つでしょう!!」
しかし!と続けられた司会の声に会場は静まり返る。
「いくら寿命を延ばしたとしても、希少な2匹はいずれ滅んでしまう……そこで我々はある答えに辿り着いた!!この2匹は幸運にもαとΩ!!成人も迎えているこの2匹をエダムとアバとし、種族の繁栄させましょう!!1匹でも多くの子を残すため!毎夜!この舞台で!繁殖ショーを行いますぞ!!」
客席は歓喜の声で溢れかえった。
「さらにここで生まれた猫人族は!!我々が自由に扱えますぞぉ!!」
歓声はさらに大きくなった。
「今回は記念すべき第1回!!初心な姿もそれはそれで良いが、我々の目的は繁殖!!早速その気になって頂きますぞ!!」

あらゆる道具を手にした仮面の男が檻の中に入ると、舌なめずりをしながら厳重に施錠し、二人の頭や顔に水を浴びせ無理やり目を覚まさせる。
「さあさあ、お目覚めですかな~?」
仮面の男は手に持っていた馬鞭で二人の顎を持ち上げ、ようやっと二人の表情が見えた。
二人の目は虚ろで輝きを失い、口には猿ぐつわを装着されていた。
「我々は忙しいですからな~、さっさとおっぱじめてもらいますぞ~」
男はリスノワールに近付き、香水のようなものを振りかけた。
それを見ていた白猫は目を見開き、首を激しく横に振った。
「抵抗しても無駄ですぞ~。なぁに、αのチミは食う側だから安心して良いですぞ~?」
謎の香水をかけられたリスノワールに変化が現れ始めた。
徐々に呼吸が荒くなり、猿ぐつわの隙間からはだらしなく涎が垂れていた。
内腿に馬鞭を滑らせただけで、リスノワールの身体は激しく跳ね揺れ、会場も盛り上がった。
「ほっほ!!感度良好ですな~!!さぁチミはどうですかな?Ωのフェロモンをこの距離で感じれば、食欲が増してきたんじゃないですかな~?」
白猫は仮面の男に見向きもせず、目に涙を浮かべながらリスノワールに向かって何かを叫んでいた。
「フヒヒッ!!αの白猫、Ωの黒猫、手が届きそうな距離でそれぞれ発情させながら叶わぬもどかしさに苦しむ姿!あぁ!なんとも滑稽な姿ですなぁ!!」
仮面の男はご機嫌な様子で笑った。
「あの白猫、リスノワールを知っていそうですね。如何いたしますか?」
「そうだな……新月の犬くらいは補えそうだな。」
「かしこまりました。」
全身を黒い毛で覆うと狼の姿へと変貌し、一般客席を飛び越え大型の檻の前に降り立つと、鋭い爪で檻の柵を切り裂いた。
しかし火花を散らしただけで檻はびくともしなかった。
「おやおや、野良犬が迷い込んでしまいましたかな~?」
仮面の男は振り返ると、唸り声を上げるウルフェルに軽蔑の眼差しを向け、続けて御嬢にねっとりとした視線を送った。
「紅の魔女殿はΩの使い方をご存じ無いようでしたからな~。オイからのサービスですぞ~。もちろん気に入ってくれましたよな~?」


* * *

4月17日分の更新です。
仮面の男をもっと気持ち悪くしたい。

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