Curse Of Halloween 6話②

町に向かって走った。
走り続けているうちに、走ることに不向きな人型からいつの間にか猫の姿になっていた。
失くした記憶の手掛かりを求めてひたすら走った。
森を抜けて丘の上に出ると、青い絨毯が眩しく広がり、昨日より町が遠くに見えた。
立ち止まって息を整えていると足元の影が大きくなり、青の欠片が舞い上がると同時に強い衝撃を受け、身動きが取れなくなる。
瞬く間に青も丘も森も影も離れて、小さくなっていった。
体中に痛みが走る。
突然視界に入った高い空からの初めての景色は微塵も楽しめるはずもなく、次第に帰るべき場所も見失っていた。
黒い影は逃がさぬよう猫の体に爪が食い込むほど力強く掴んで離さない。
小さな猫はなすすべもなく、どこかの空へと姿を消した。

黒い狼は主を背に乗せ、匂いを頼りに走り続けた。
森を抜けると青い絨毯が広がっているが、その中で見覚えのある首輪と黒い羽を発見した。
リスノワールのチョーカーと……
「黒い羽……魔力は微量だが、ここで奇襲を受けたか……?リスノワールが人型ならまだしも、猫型だとしたら簡単に連れて行かれっちまうな……」
「鳥か有翼種か……猫型のリスノワールを掴んで空を飛んで行ったとなると、臭いも追えませんね……」
「ここに居ても仕方ねぇ。この羽も手掛かりにしつつ、とりあえず町で聞いてみるか。」
「よろしいのですか?御嬢が直接町に入ってしまって……」
「あぁ、対策は用意してある。もちろんあんたの分も、だ。」
狼は不敵な笑みを浮かべる御嬢に嫌な予感がした。

「黒い子猫?さぁ、今日は見ていないんじゃないか?」
「ウチのルミキィちゃんが猫大好きで、見つけたら遊ぼうって大はしゃぎするのよ。最近は白猫と遊んだけど黒猫は見てないわね。」
「ねねねねっこは、に、苦手、でして……ごごごごめんなさっ……」
「黒い鳥といえばカラスだろうけど、この辺りじゃカラスは多すぎて特定は無理だろうねぇ。何か見つけたら教えてあげるよ。」
黒猫と黒い鳥の目撃情報を聞きつつ、黒い羽の臭いを手掛かりに探し回るが、町の中では色んな臭いが混じり難航する。
「やはりこの方法では無理があるのでは……?」
ウルフェルの近くに御嬢の姿はなく、代わりに幼い少女の姿があった。
「癪だがこの格好の方がチョロイんでな。」
ウルフェルは御嬢が開発した道具で小犬の姿になっているが、昨日と違って会話はできるようだ。
「とは言っても、やっぱり黒猫も黒い鳥も情報なしか……例の路地も行ってみるか。」
「かしこまりました、案内します。」
昨日と同じ道順を辿り、広場のベンチへ足を運んだ。

「こちらです。」
「……このベンチに座ったあたりから様子がおかしかったんだよな?」
「はい、ベンチに座り休みながら荷物の確認をしていました。その後、カバンから引いた手を見つめ、ふらふらと路地裏へ……」
「……たぶん幻術にかけられてるな。ベンチに細工されている。一定の年齢以下、子供を標的にした誘拐が目的と言ったところか……」
「リスノワールが一度屋敷に帰って来たのは私が邪魔だった、ということですか。」
「だろうな。鞄に気色悪い石が入ってたのも、買い出しの一つに見せかけてあたしへの宣戦布告ってところか。」
「子供が目当てということは、奴隷商人やサーカスですかね。」
「サーカス、ねぇ……なるべく関わりたくねぇな……」
何かを含めるようにポツリと零す。
「とにかく、他にもガキが捕まっている可能性もある。ヤバそうならとっとと片付けねぇとな。」
「倒れた路地裏は広場のベンチからこちらの方向です。広場からは臭いは辿れそうにありませんね。」
「現場に行くしかねぇか。」
リスノワールとウルフェルが意識を失ったあの路地裏へ向かった。

「で、路地裏に来てみたものの、何の変哲もねぇ場所だな……人の気配もねぇし狼に戻るか?」
「その方が捜査しやすいですね。」
「んじゃ、そうするか。」
小犬の額に手をかざしたその時、背後から声を掛けられた。
「おやおやお嬢ちゃん、わんちゃんのお散歩かい?」
声がした方へ振り向くと、ふくよかだが紳士的な見た目の老人が立っていた。
「え、えぇ。これから御遣いを済ませたらすぐ帰るわ。」
「そうかいそうかい、お利口さんだねぇ。」
「おじいさんは?おじいさんもお散歩ですか?」
「そんなところじゃなぁ。わんちゃんも静かに警戒できてお利口さんだねぇ。そんなお利口さんなお二人にはコレをあげよう。さぁ、手を出してごらん。」
「ありがとう。でもおじいさんのその気持ちだけで充分よ。あたしは今から御遣いに行くわ。ごきげんよう。」
「おやおや、良いのかい?このお洋服はお嬢ちゃんに似合うと思ったんだけどねぇ……」
御嬢は足早にその場を離れようとしたが、繋がれた小犬はその場から動かぬまま老人に向かって唸っていた。
「……そのお洋服はどこで買われたのですか?」
「買ったんじゃないんだよ。これは貰い物なんですな。」
「では、どなたから頂いたのですか?」
「フヒッ。お利口さんなお二人さんなら、もう気付いているんじゃないですかなぁ?」
老紳士は洋服に顔を近づけ、鼻で大きく息を吸い込み、甘い香りに陶酔する。
「あぁ、良い香りですなぁ……お二人さんにはぜひ特等席で味わって欲しいんですなぁ。というわけで、コチラを受け取るべきですぞぉ。」
虫唾が走る口調の老紳士から手渡されたのは、何かの招待状だった。


***

4月10日分。
すっかり遅れをとってしまっている……
なかなか思うように言葉が浮かばないし、どう繋げようか毎話悩んでる……
これからの予定してる展開が危険な香りなんだが、大丈夫かしら……
悩みしかないわね……

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