Curse Of Halloween 8話②

「師匠!ただいま上がりました!」
「棚にタオルと着替えを用意しています。それをご利用ください。」
わかりました!と元気な声がドア越しに響いて来る。
「し、師匠!こ、この下着は……これも修行ということですか!?」
「取り急ぎ用意したものです。申し訳ありませんが、一晩だけそちらで我慢してください。ちゃんと未使用の物です。」
「わ、わかりました!これくらい大丈夫です!」
それから暫くしてマハナは脱衣所の扉を開けた。
「お待たせしました、師匠。あの、これで問題ないですか?」
ぶかぶかのYシャツは袖を折られ、ぶかぶかのズボンは裾を折られていた。
「えぇ、問題ありません。現在サイズは大きいものしかありませんが、明日には用意いたします。しかし、髪はきちんと乾かしてください。」
「は~い。……あ、師匠、一つ聞いても良いですか?」
脱衣所に戻ると椅子に座らされ、ウルフェルはタオルを手にマハナの背後に立つ。
「先ほど聞いていた ” 御嬢に仕える理由 ” ですね?」
「それです!教えてもらえますか?」
「さて、なぜでしょうね?」
タオルでワシャワシャと拭いていく。
「お風呂に入ったんですから!教えてくださいよ!」
「そうですね……私の気が変わりました。マハナさんが強くなれたら教えて差し上げますよ。」
「ズルいですよ師匠!」
「私もまだ『師匠』と呼ぶことを許可していませんでしたが、お風呂の件はそれでチャラにしましょう。」
「そ、そんなこと言わずに……!!」
「そんなことより、外傷や痛むところはなかったですか?問題が無ければ部屋に戻りますよ。アーヴァエさんが目を覚ましているかもしれませんし。」
「大きなケガや痛いところはありませんので、早く戻りましょう!師匠の話もいつかは絶対にしてくださいね!」
怯えたり、不安そうにしたり、頬を膨らませたり、目を輝かせたり……
マハナはアーヴァエと対照的なであらゆる表情を見せた。

二人が部屋に戻ってもリスノワールはまだ眠っていた。
部屋に御嬢の姿はなかった。
「おかえり、お二人さん。御嬢は自室に戻ってったよ。子猫くんは怪我とかなさそ?」
「強いて上げるなら手枷足枷の擦り傷がある程度で、大きな怪我などは内容です。それと、マハナさんはレディーです。」
「ありゃ、マハナちゃんってこと?それは失礼。」
「女性扱いは無用です!呼び捨てで大丈夫です!」
「へぇ?じゃあお風呂もそこの犬と一緒に入ったんだ?うらやまし~。今度は俺とも入ろうよ~」
「入ってませんしお断りします……!!」
「後ほどセクハラで訴えますね。それとは別に、マハナさんの検診は出来そうですか?」
「それならいつでも大丈夫よ~。マハナちゃん、注射は平気?」
「注射は平気ですが……検診というのは?」
「オレは医者だから治療もするけど、どちらかというと血液で分析する方が得意分野なんだよね。」
「血液、ですか……」
「血液検査、苦手だった?」
「あ、いえ、大丈夫です。ちょっと嫌な記憶があるだけで……」
「あぁ、なるほどね。まぁオレはあんなバカなマネはしないから、そこは安心して大丈夫よ。」
「わ、わかってます!時々思い出すだけなので!」
「無理そうならすぐ言ってね。ちなみに、今の体調は?」
「問題ありません!」
「じゃあさっそく採血してくね~」
テキパキとマハナの左腕にゴムチューブを巻き、肘関節の内側に針を刺す。
針を通り、管を通り、5つの特殊な小瓶へ、少しずつ血液が溜められていった。

「子猫ちゃ……アーヴァエちゃんもそうだけど、マハナちゃんも肌が白いね。」
「恐らく長い期間閉じ込められていて、日の光を浴びていなかったせいだと思います。」
「そかそか。これからはいっぱい日光浴びて元気に育つんだよ。日光ダメなオレの分もいっぱい浴びてくれ。あ、でも日焼け止めはちゃんと塗ってね。」
「あの、お医者様もご病気なのですか?」
「ん~、オレの場合は種族の体質だね。ヴァンパイアの一族は日光浴びちゃうと皮膚とかいろいろ溶けちゃうんだよ。」
「皮膚が、溶ける……恐ろしいですね……」
「ま、苦労するのは幼い頃だけで、慣れてしまえばどうってことないよ~。はい、おしまい。ここ押さえててね。」
針を抜き、ガーゼを当て、手で押さえるよう伝える。
採血したうち一つの小瓶を手に取ると、ゆっくり味わうように飲み干した。
その光景にマハナは目を丸くしていた。
「……あれ?マハナちゃんって確か、アーヴァエちゃんと同じエルフの血が入ってるんだっけ?」
「えっ?あ、はい。詳しくはわかりませんが……」
「そかそか。じゃあ、とりあえず違う個体だね。アーヴァエちゃんと違う味がする。しかも、ただのエルフじゃない感じだ。」
「えっ!?今のでわかるんですか!?」
思わず声が大きくなるマハナに声量を抑えるよう唇に指を立てた。
「まぁね。でもあくまで即席で簡易な部分だけで、詳細はこの後病院に持って帰ってしっかり検査しなきゃだけどね。手首足首の擦り傷はこの薬を塗っておけば数日で治るはず。それで今更だけど、マハナちゃんは眠くないの?疲れてるでしょ?今日はもう寝て、数日後に結果を持って来るよ。」
「言われてみれば、確かに……あ、でも……」
「マハナさん用の部屋も用意してあります。アーヴァエさんが目を覚まし、容体が良ければ同室でも構いません。」
「あ、あの、今日から同室はダメですか?」
「それは出来ませんね。」
「ど、どうしてですか?」
「今はただ眠っているだけですが、目が覚めた時にどういった事態になるかわかりません。それに、マハナさんがまだ信頼できる人かどうかも見極めなくてはなりませんので。」
「まずは信頼ですね!アーヴァエのためなら何だってします!」
「……では、椅子に座ったまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸してみてください。」
「?師匠、こうですか……?」
ウルフェルに言われた通り目を瞑って深呼吸を繰り返すうちに、気付けば静かな寝息へと変わっていた。
「あらら、やっぱりお疲れだった?」
「緊張で気を張り続けていたんでしょう。正直、私もそろそろ限界です。ヴァンも用が無いなら、とっとと帰って下さい。」
「相変わらず主人に似て冷たいねぇ、シショーさん。」
「似てません。お出口はあちらです。早く帰れ。」
「ま、疲れてるのはオレもそうだし、素直に帰りますか。」
ヴァンは背を伸ばして一息吐き、荷物をまとめ始めた。
それに合わせてウルフェルはすやすやと眠るマハナを丁重に抱える。
扉に手を掛けたヴァンがふと立ち止まる。
「あぁ、そうだ。まだ不確定だけど、一応エカちゃんに伝えて欲しい。子猫ちゃんが目覚めたら昼間でも一報ほしいのと、マハナちゃんに入ってるエルフの血なんだけど__」


***

6月12日分の更新。
また更新が遅れてきましたな……
どう繋げようか悩み、アレやコレやと資料を漁っております。
あと8月5週目分の何かしらも用意したから、もう少し整えてから更新しようかと。
どうなることやら。

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