Curse Of Halloween 6話④

御嬢は大きくため息を吐いた。
「ショーも仮面も、センスが無さ過ぎて不愉快だな。」
ウルフェルが檻の中に散らした火花が集まり大きな炎が上がると、中からガスマスクを着けた御嬢が姿を現した。
と同時に男の顔から仮面を剥がれ落ちた。
「ほら、サービスだ。」
振り向いた男の口内に煙管の残滓を落とすと、男は苦痛の悲鳴を上げながらのたうち回った。
白い猫人は理解が追い付かず、目を丸くしていた。
「これでもそこそこ名のある魔女なんでな。」
ウルフェルの前の柵を撫でるとみるみるうちに融けてゆき、続いて二人を拘束する鎖を融かし切った。
「さすがに枷を直接やると火傷するんでな。鬱陶しいかもしれんが、もう暫くそれで我慢してくれ。」
ウルフェルに抱えられた二人の頭を軽く撫でると外に避難させ、仮面を失った小太りの男に向き直る。
「オイの商品ですぞ!これは窃盗ですぞ!!」
「安心しな。あの猫たちはあんたに代わってあたしが責任持って隅々まで可愛がってやるから。」
尻もちをついたまま小太りの男は後ずさる。
「さぁて、上手におしゃべりできるかな~?」
一瞬の出来事に観客も息をのんだまま静観していた。
ガスマスクで覆われた御嬢の表情は誰にも読めなかった。

「お話し、出来そうですか?」
白い猫人に尋ねるも返事はなかった。
ウルフェルは二人を連れて一足先に屋敷へ戻っていた。
ムーナを呼び出し、発情したままのリスノワールをいつもの客室へ寝かせ、医者の到着を待っていた。
その合間にウルフェルは応接室で白い猫人から少しでも情報を聞き出そうとした。
しかしまだ混乱しているのか、何か話したそうだが俯いたまま上手く言葉が出てこない。
「ここは先ほど私と一緒にいた紅い髪の魔女のお屋敷です。もう追手も入って来られない安全な場所です。私たちは先日から黒い猫人さんを保護しています。もしもあなたが友達なら、あの子を助けるお手伝いをしてくれませんか?」
白い猫人は勢いよく顔を上げて首を振った。
「友達じゃない!家族だ!」
「ご家族でしたか、失礼しました。では、あなたのお名前は?」
「マハナ」
「黒い猫人さんの名前は?」
「アーヴァエ」
「あなたたちの家や、他のご家族はどちらに?」
「……ッ!!」
再び言葉に詰まったかと思うと、大粒の涙をボロボロと零し始めた。
「ぼ、ぼくらの……おう……おうち……っは……」

「いつもの部屋にヒート中の子猫ちゃんがいるワケね。キッカケとか何かわかる?」
到着したばかりのヴァンを部屋に案内しながら説明する。
「わ、私は留守番を任されてて、ウルフェルさんとリスノワールさんと、それからもう一人の猫人のお客さんも一緒に戻られたんですが、その時には既にこの状態だったので詳しくは……ごめんなさ……あっあと、口を塞いでた器具はどうにか外せましたが、手足の拘束具は残ってます……」
「ん??ちょっと待って、そういうプレイでもしてたってこと??」
「く、詳しくはウルフェルさんに聞いてくださいっ!」
「お、おう……とりあえず、子猫ちゃんのヒートが始まってから時間が経っているってことでOK?」
ヴァンはカバンから取り出した錠剤をいくつか口に放り込む。
「少なくとも帰宅から10分ほど経過してます!」
「OK!そこそこやばいね!」
「あ、あの、Ωのヒートって、そんなに危険なんですか?」
「βでいうと、大量に媚薬を服用して欲情しているのに、満たしてくれるものが一切なくて解消されず、しかも体温や血圧も上昇してるから、心身ともにかなりの負担がかかっている。最悪、何かしらの後遺症が残る。」
「こ、後遺症ですか!?じゃあ、リスノワールさんの記憶喪失やお話しできないのも……」
「断言出来ないけど、否定も出来ないね。」
そう話しているうちにリスノワールが寝かせられている部屋の前に辿り着いた。
「ムーナちゃんはこの甘い匂い平気?」
「あ、甘い匂い、ですか?何も匂わないですが……」
「じゃあ大丈夫そうかな。もし部屋の中で匂ったら、すぐこの薬を飲んでね。」
2粒の白い錠剤が入った小袋をムーナに手渡す。
「ヒート中のΩから出るフェロモンは媚薬のような効果がある。ムーナちゃんは女の子だから子猫ちゃんを襲うことはないと思うけど、ムーナちゃんがオレを欲しがっちゃう可能性があるからね。」
オレは大歓迎だけど、と冗談を残しつつ部屋の扉に手を掛けた。
「手伝ってくれるのは助かるけど、危険だと思ったらいつでも部屋から出て良いからね。」
「り、了解です!」
二人は甘いフェロモンで満たされた部屋へ足を踏み入れた。

「落ち着きましたか?」
ハーブティーの優しい香りと温もりにより、鼻をすすりながらもマハナは少し落ち着いた様子だった。
「あの、ごめんなさい。ボクもアーヴァエを助けたいんです。でもボク、少し前にアーヴァエを助けようとしたけど、失敗して酷いことをしてしまったんです。」
「その話、あたしも詳しく聞きてぇな。あと茶も淹れてくれ。」
何かが入った袋を抱えた御嬢が戻って来た。
「お帰りなさいませ。そちらの袋は?」
手土産だ、そういって袋を開けると、一羽のカラスが顔を出した。
「そのカラスはまさか……」
「そ、リスノワールを連れ去ったヤツだ。後でこいつからも話を聞こうと思ってな。」
「鳥の言葉はさすがにわかりませんよ?」
「そこはアテがあるから大丈夫だ。」
「左様ですか。それで、あのフリークショーはどうしたんですか?」
「あぁ、油まみれのクズ諸共とっても上手に焼けたぜ。商品にされてた奴らと観客も逃がした。ごく一部は自分の意思で残っていたがな。」
「油まみれ……不味そうな叉焼ですね……可食部がなさそうです……」
「ま、自業自得だな。ウチの猫に手を出したんだ。何かあったらタダじゃ済まさねぇよ。」
「それが困ったことに、リスノワールのヒートが治まらないようで、かなり危険な状態です……今はヴァンが診ていますが……」
「……ほほう?」
ほぼ初対面のマハナにも御嬢の怒りの再熱がひしひしと伝わった。
あの目は……


第6話『猫を殺せば七代祟る』


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4月24日分の更新です。
まだキャラが増える予定なんですけど、書ききれるかしら?

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