Curse Of Halloween 9話②

アーヴァエの腰にある紋様を解呪するための準備が始まった。
必要な物を取ってきてほしいと頼まれ、御嬢の姉達と出会った庭へと戻って来た。
そこにはまだ草花の手入れをするフランが居た。
「あの、フランさん、ちょっと良いですか?」
マハナが声を掛けると、フランは手を止め、声がした方へ顔を向けた。
「作業中にすみません。御嬢のお姉さんに頼まれまして、サラフワーを少し頂いても大丈夫ですか?」
フランは頷き、マハナにハサミを渡した。
しかし、どの花が良品質を見極めるどころか、どうやって切り取れば良いのかすら悩んでいると、静かに見ていたフランが一本のサラフワーの茎の一点に指を差した。
「ココを切れば良いんですか?」
フランは再び頷く。
花の傍にしゃがみ、指定された場所の少し上部をつまみながら、開かれたハサミの刃を近付け、柄に力を籠める。

パチンッ……

ゆっくりと刃の擦れる音がした後、弾けるような音とともに、サフラワーは大地から切り離された。
暫く呆然とした後、ハッと我に返ったように話し始める。
「あっあの、あと二~三本貰っても大丈夫ですか?」
フランは表情を変えず辺りを見渡し、三本のサラフワーを指差した。
「コレと、コレと……あとコレですね。」
パチンパチンと続く三本も手際よく採取した。
「ありがとうございます。助かりました。それともう一つ、お尋ねして良いですか?」
フランはマハナと向き合う。
「地下倉庫?というのは、どこにあるんでしょうか?師匠に案内して頂く予定でしたが、中断してしまって……。」
「……コッチ……案内する。」
フランはマハナから受け取ったハサミをポケットに入れ、静かに歩き出した。

暫く後に付いて行くと、緑に囲まれた小さな建物が見えた。
「あの小屋?は何ですか?」
「……名前、知らない……休憩所みたいな場所……」
「休憩所……」
マハナは暫くその小さな建物から目を離せなかった。
幼い頃の微かな記憶……
何か……何か大切なことを忘れている気がする……
胸の内にモヤがかかったまま、フランの後を追い地下倉庫へと向かった。

畑から屋敷の反対側まで歩き、日の当たりにくい場所に地下倉庫の入り口があった。
「この辺……なんだか暗い雰囲気ですね……」
キョロキョロと辺りを見渡していると、入り口に立ち止まっていたフランとぶつかってしまった。
「す、すみません……!」
「構わない……マハナ殿、この屋敷、好きか?」
「えっ?そ、そうですね。みなさん優しいですし、落ち着いた場所ですし……何より、アーヴァエと一緒に居られるなら、この屋敷で過ごせたらなぁと……」
「……そうか……地下倉庫、入って左、ランプ、持って行くと良い。すまないが……案内、ここまで。」
「わかりました。作業中にも関わらず、ここまで案内してくださり、ありがとうございます。」
マハナがお辞儀をすると、フランは軽く会釈して持ち場に戻っていった。
重たい扉を開くと、外気より少し冷たい空気が漂ってきた。
フランに教わった通り、左側の壁に置かれたランプを手に取る。
扉が閉まり目の前が真っ暗になると自動的に灯されるランプに少し驚く。
「……この奥に……」
アーヴァエのためだと意を決し、地下倉庫へ続く階段を下って行く。

ほんの微かにだが、階段を下り進んだ奥に誰かの気配がする。
もう一つ、すぐ傍にもある気配はとても弱い物だが、ずっとマハナを監視するように付いて来ていた。
地下倉庫奥の気配は複数ある気がする。
どちらも敵意は感じ取られないものの、念のため警戒しながら歩みを進める。
足音だけが響く冷たい階段を下り続け、その途中で突然壁面に現れた白いヤモリに驚きつつ、ようやく地下倉庫へ辿り着いた。
扉の向こうには頻繁には使わないであろう道具や、棚には古びた書類が収められていた。
その中でも一番端の棚の前でしゃがみ、最下段をのぞき込む。
「確かあの時、この辺りに……」
微かな記憶を頼りに地下倉庫の棚を物色していると、背後から声がかかった。
「何か探しモンか?手伝ったろか?」


御遣いを頼まれたマハナが出て行った直後の部屋では、三人の魔女と見守られるように眠るアーヴァエが残っていた。
アンナが妹たちに問いかける。
「あの白猫ちゃんの話、どこまで本当だろうな……」
「やっぱり嘘が混じってるか。」
「あ、二人も気付いてた?な~んだかヤなことを企んでそうな気がする……」
「たぶん、性別やバース性、紋のことだとか、施設での出来事だとか……まぁ言いたくない事の一つや二つはあるだろうが……」
「それでも、少なくとも紋はありそうだ。黒猫ちゃんも『器』と『中毒』以外に何か隠されている。」
「……マジ?」
「もしくは輸血されたといわれているエルフの方に紋があり、それを継承してしまっているか、だな……」
「エルフの紋なぁ……チビのうち1号だけがエルフのことを覚えているが、まだ幼かったから詳細はわからんだろうな……」
「そのチビちゃんって、今呼べたりする?」
「あぁ、大丈夫なはずだ。ちょっと待ってくれ。」
近くの壁に指で円を描くと、その内側が黒く歪み、どこまでも深い闇と繋がったようだった。
「1号、近くに居るか?話がある。」
「こちらに。」
「ん。姉貴達に話してほしいんだが、昔ここに居たエルフの事だ。リスノワールの治療に関わる事なんだが、話せそうか?」
「……お力になれるのでしたら。」
「無理させて悪いな。」
御嬢の手に乗せられた白い猫の人形に乗り移る。
「姉貴、今はコイツに1号が入っている。コレで会話できるはずだ。」
「アンナ様、ナターリア様、ご紹介に預かりました1号です。よろしくお願い致します。」
「よろしく。」
「やだ!すごく可愛い!!!」
ナターリアは目を輝かせながら1号の頭を撫でる。
「たぶん向こう側から聞いてたと思うが、1号に聞きたいのは昔ここに住んでいたエルフの身体にあった紋についてだ。どんな形だったか覚えているか?」
「紋があった場所はお臍の下でしたが、記憶も曖昧ですし、どのようにお伝えすればよいか……」
「ナタリア、あのリスト出して。」
「了解~!」
ナタリアは自分たちの荷物から1冊のノートを取り出した。
「えぇと……これかな?」
あらゆるメモが挟まれており、倍以上の厚みの中からとあるページを開いた。
「この中に似ている紋はある?」
恐らく過去に診て来たであろう紋の一覧が描かれていた。
1号は記憶を頼りに一覧を見つめていると、ある一つの紋に目が止まった。
「これ……かもしれません……似ている気がします。」
指差された紋を確認したアンナは眉をひそめる。
「『高潮』か……」


* * *

7月2週目の更新分です。
大きく遅刻しております。
私の脳味噌はポンコツだとよくわかりますね。
早く続きを更新したい……

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