Curse Of Halloween 2話①

「この えほん の なか では、おとこのこ、おんなのこ、2つの セイベツ しか ないんだって。」
「おめがも あるふぁも いないの?」
「そうだよ。みんな べーた と おなじ なんだって。」
「えー。『ウンメイノツガイ』に あえない なんて―――」


目を覚ますと、同じベッドで丁寧に寝かされていた。
ゆっくりと上半身を起こして、今は体が大きい状態なのだと理解する。
「あっ!お、おはようございます。その、具合はどうですか?」
声のする方へ向くと、顔中包帯まみれの女性がいた。
眠る前、猫の獣人に注射の見本をしていた人だ。
少しくすんだ淡いピンク色のゆるく巻かれたツインテールヘアーが肩の辺りでゆらゆら揺れている。
そして一風変わったメイド服を着ている。
「ええっと……お、お話しできますか?あの、名前とかわかります?あ、私はムーナと申します。」
オドオドとした口調だが、敵意が無いことはわかった。
お話し……声...…出てこない……
静かに口を開いてみたが、うんともすんとも声は出なかった。
「じ、じゃあ、文字は書けますか?」
ムーナの包帯まみれの手から紙とペンを渡された。
紙には名前や性別、年齢、出身地などの項目があった。
名前……名前...…なんだったっけ...…
暫く悩んでいると、ムーナから補足される。
「もしわからなかったら”わからない”とか”不明”でも大丈夫です。」
不格好な文字だが、少しずつ綴られていった。

「それで返ってきた回答が全て”わからない”と...…」
「す、すみません…!私にも全くわからなくて...…」
ムーナは先ほどの紙を書斎にいる御嬢に手渡した。
「まぁ少なくとも、周りの音が聞こえること、こちらの言葉が理解できること、言葉を発せないこと、記憶がないこと、多少は文字を書けること、これはわかったな。情報はゼロじゃねぇ。それで十分だ。」
「は、はい!ありがとうございます。」
「んで、今はどうしてる?」
「今は部屋で休んでいます。あの、食事はご一緒しますか?」
「そうだなぁ……効くかどうかわからんが、アイツからΩ用の抑制剤も少しだけ受け取ってるし、一応人間用の飯が食えるかどうかも確認したいしな。晩飯は呼べそうなら呼んでやれ。それまで屋敷の中を案内してやってくれ。」
「わ、わかりました……あ、猫さ、じゃなくてリスノワールさんの服が無いんですけど……いかがいたします?体格が一番近そうだったので、今は一応私の使っていない服を貸していますが...…」
「あー、なるべく早く用意するが、暫くそれを貸してやってくれるか?それと――」

窓の外は良い天気だった。
ムーナが出て行き、一人客室に残されていた。
ベッド脇にあるサイドテーブルに置かれたコップの水を一口飲む。
寝起きでまだぼんやりしているが、自分のことを何か思い出せないか記憶を探る。
名前も年齢も出身地もわからない。
どこからどうやってここに来たのか、思い出そうとすると頭痛に悩まされた。
記憶が無いことも不安だが、なぜ声が出ないのか自分でも謎だった。
記憶が戻れば声についても思い出せるだろうか。
ベッドに腰かけながら悩んでいると、誰かがドアをノックした。
「あの、ムーナです。今入りますね。」
そう告げてから扉が開かれた。

「えっと、服を持ってきました。着ていないモノとはいえ、私のおさがりで申し訳ないですが、し、暫くコレで我慢してください...…あっ!ちゃんと後日、御嬢が新しい服を用意してくれますのでっ!」
手にしていた籠の中には数着の衣服が入っており、ベッドに1着ずつ広げてみせた。
「あの、体格的に私の服がちょうど良かったんですけど、その…女性用の服でも大丈夫でしたか...…?もももし気に障るようでしたら、他の男性から拝借できないか相談しますので……!」
ムーナが今着ている長袖でロング丈のメイド服と違い、ノースリーブで膝丈のワンピースや半袖のフリルシャツ、ショートパンツ等、露出のあるものだった。
「そ、それから、コレは御嬢から渡された服です。」
そう言って広げられた服はフリルを多めに装飾された半袖ミニ丈で白黒のメイド服だった。
「ど、どう、でしょうか...…?お気に召しましたか?」
ムーナがおずおずと尋ねると、コクンと頷いた。

「よかった~!この、この服たちも着てもらえる人が見つかってよかったです!」
少し大げさな動きで喜びを表現するムーナは視覚的に賑やかだった。
「あっ!そうだ!猫さんに記憶が無いみたいだったので、御嬢が名前を用意してくださいましたよ!猫さんの名前は『リスノワール』です!猫さんの耳と尻尾の毛色から『黒』、猫さんが来た夜に『リーユ』の花が綺麗に咲いていたので、そこから取ったんだと思います!キレイな名前ですよね!私もリーユの花が好きなんですよ!色や形によって花言葉も違うらしくて、私は詳しくないですけど、そこはフランかザンビの方が知っていると思います!フランは庭師で、ザンビは夜間警備なんですけど勤勉で知識が豊富なんですよ!お二人と違って私は同じβなのにダメダメなんですけど……って、すすすすみません!いっぱい喋ってしまって…」
いつもの話し方と違い、勢いに乗って生き生きと話すムーナは聴覚的にも賑やかだった。
「えっと、お名前ですけど、ご不満はありますか?」
落ち着きを取り戻したムーナは話を戻し尋ねる。
マシンガントークにキョトンとしていたが、ムーナの質問に首を横に振った。

「では、リスノワールさん、今日から私があなたのお世話係というか教育係?として面倒を見させてもらいますね。よろしくお願いします。」
そう言うとムーナは右手を差し出し、リスノワールもそれに応えるようにゆっくりと握り返した。
互いの緊張が解れのか、オドオドした雰囲気も和らいだ。
「そうだ!まだこの部屋から出たことないですよね?お疲れでなければ、お屋敷の中を案内しますけど、行ってみますか?」


***

一層寒くなってきましたね。
お布団から出るのがツラくなってきました。
だからって昼過ぎまでゴロゴロするのは良くないですね。
早く社蓄しようね。

さて、2話を書き始めるタイミングで「そういえばキャラクターの見た目をしっかりとまでは考えていなかったなぁ」と思いまして。
設定の矛盾が生まれないようにするためにも、ラフだけでも一通り描いておこうと紙と鉛筆を取り出し机に向かいました。
学生時代からオタクだったのでお絵かきも嗜んでいたのですが、久々に人物を描くとバランスも悪いですし、なにより2次創作ではなく完全オリジナルでキャラクターを生むにはセンスが無さ過ぎて、デザインも思うように浮かばず苦戦しました。
漫画、小説、イラスト、ファッションでもそうですけど、創作をされてる方は本当にすごいなぁと、改めて思いましたね。
色んな知識を取り入れつつセンスも磨きたいものです。

挿絵のようなしっかりした絵が描けない分、キャラクターの設定画などはいずれどこかで紹介したいですね。
現状すべてアナログでメモしているので、ウン年ぶりにデジタルを触る…かも…?

ではまた次回。

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