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連載記事(2017中)

仮説検証

(2017年5月 101号)

 証明問題というのは通常は「仮定から結論を導く」流れを見るもので、ですから数学の試験で証明問題を出すときは「仮定」と「結論」を問題文の中に明記するのが普通です。
 けれども「結論を与えてしまってはつまらないじゃないか」と私は思ったわけです。科学とは本来「仮説を立てて検証する」もの。数学ももちろん同じで、数学の場合は「成り立ちそうな事柄を探して(予想して)、それが必ず成り立つのか否か、あるいはどういう条件で成り立つのかを検証する(証明する)」というのが本来の姿だろうと思うのです。そう考えると「必ず成り立つとわかっている(問題文の中で結論を書いた)ものを証明する」というのは、本来の科学・数学とはだいぶ違うような気がしたわけです。
 そこで「仮定だけを与えて、結論を与えない証明問題」を作ってみました。中学数学から1題、高校数学から1題の合わせて2題。いずれも平面幾何の問題です。後ほど「結論だけを与えて、仮定を与えない証明問題」も作ってみたいと思いますが、まずは「仮定だけを与えて、結論を与えない証明問題」。これぞ科学・数学にふさわしい態度であり、まさしく「仮説検証」だと我ながら思いました。

 空欄を埋めて文章を完成させ、それを証明してください。

【1】右図(ここでは省略)において△ABCと△CDEはどちらも正三角形で、点Cを共有している。
 このとき、△___ ≡ △___ が成り立つ。

【2】二等辺三角形でない△ABCがある。∠Aの外角の二等分線と直線BCの交点をD、∠Bの外角の二等分線と直線CAの交点をE、∠Cの外角の二等分線と直線ABの交点をFとする。
 このとき  ___________________________

 実際の試験でどちらも出してみたのですが、生徒たちの出来具合はというと、中学生に出した【1】はよくできていました。けれども、高校生に出した【2】は散々な結果でした。【2】ができなかったというのは、生徒たちが図を雑に描くからです。図を丁寧に描けば結論(条件から必ず成り立つこと)が見えただろうと思うのですが、雑に描くと結論が見えないのです。
 【1】の《解説・解答》はこちら(→ https://note.com/omori55/n/nc2e9068d3aec#7NYRE )を、【2】の《解説・解答》はこちら(→ https://note.com/omori55/n/nc2e9068d3aec#er6PK )をどうぞ。

7298 と 5963 の最大公約数はいくつ?

(2017年6月 102号)

 中学数学のやり方は、まず2で割れるかどうかやってみて、割れなかったら3で割れるかどうかやってみて・・・こうやって順に共通因数を探しながら割っていく、というもの。
      ? )7298 5963 
         ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 でも、どうでしょう。そのやり方で共通因数が見つかるでしょうか。なにくわ(7298)ぬ顔でこんな数を出してみましたが、そのやり方ではたぶん苦労するでしょう。ごくろうさん(5963)なことです。
 ところで、高校数学では他のやり方を学びます。「ユークリッドの互除法」というものですが、それは実はプログラミングに最適なやり方なんです。つまり簡単にコードが書けて、しかも処理速度が速い。
 さて「ユークリッドの互除法」がどういうものかを説明するために、先にRuby(←私の一押し!)というプログラミング言語のコードを示します。

   a = 7298
   b = 5963
   while b > 0 do
     r = a % b
     a = b
     b = r
   end
   print "最大公約数は",a," です"

 シンプルでしょ。次にこのプログラムが何をしているかを具体的に見てみましょう。要は「a を b で割ったときの余り r を求める作業を、数字を下のようにずらしながら、割り切れるまで続ける」わけです。

   7298 ÷ 5963 = 1・・・1335
      ↙︎    ↙︎
   5963 ÷ 1335 = 4・・・623
     ↙︎    ↙︎
   1335 ÷ 623 = 2・・・89
     ↙︎   ↙︎
   623 ÷ 89 = 7・・・0

 余りが0になったときの「割られる数」、上の例でいうと「89」が求める最大公約数です。89は素数ですから、一番最初に書いたやり方で探そうとすると四苦八苦(89)するでしょう。
 ちなみにRubyはMacに標準でインストールされていますから、すぐに使い始められます。初心者でも初心者なりに使えて、発展していけばプロ・レベルで使えます(起業するのも夢じゃない!)。うちの学校はWindowsだから難しいんですが。。。

大人の相対的貧困率

(2017年7月 103号)

 「子供のうち6人に1人が相対的貧困の状態にある」という言い方があります。テレビや新聞などで時々目にする表現ですね。
 でも冷静に考えてみると、その数字が大きいのか小さいのかよくわかりません。「子供の6人に1人が相対的貧困」と言われても、それがどれだけ大変なことか、実はよくわかりません。
 ところで「相対的貧困」とはどういうものかというと、世帯の所得などが全体の「中央値の半分以下」であることをいいます。ということは、全体がどれだけ豊かになろうと、豊かさにバラツキがあれば、必ず相対的貧困は存在することになります。こうなると「6人に1人が相対的貧困」が多いのか少ないのか、どれだけ大変なことなのかあるいはそれほどでもないのか、ますますわからなくなりますね。
 そこで「大人の相対的貧困率」を調べてみました。1つ目の資料は厚生労働省のサイトで公表している「世帯の所得の分布(2015年)」(※1)です。
 それを見ると、世帯の年間の所得金額の中央値が427万円ですから、その半分の213万円以下が相対的貧困ということになります。比例配分して計算するとその割合は 21.8%、つまり「大人の5人に1人が相対的貧困」ということになります。
 他の資料も見てみましょう。2つ目の資料は総務省統計局のサイトで公表している「二人以上の世帯の貯蓄額の分布(2015年)」(※2)です。
 それを見ると、貯蓄保有世帯の貯蓄額の中央値が1054万円ですから、その半分の527万円以下が相対的貧困ということになります。比例配分して計算するとその割合は 33.1%、つまり「大人の3人に1人が相対的貧困」ということになります。
 こうして見てみると「子供の6人に1人が相対的貧困」というのは決して大きな数字とは言えません。むしろ「子供の貧困率は、大人の貧困率よりもだいぶ低い」と言えそうです。
 「子供の6人に1人が相対的貧困」という言葉が一人歩きしているように思います。その言葉を使う人は「子供の置かれた経済的困難さ」を訴えようとしているのでしょう。その言葉を聞いて「これは大変なことだ。なんとかしなければ」と考える人も多いでしょう。けれども、その訴え方・受け取り方はなんだかズレているような気がするのですが、いかがでしょうか。
 この連載、「わくわく!テストの泉」でしたね。上の話をテスト問題風にしたものを note(※3)に載せました。グラフと一緒にご覧ください。

(※1→ http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa15/dl/03.pdf
(※2→ http://www.stat.go.jp/data/sav/2015np/pdf/gk01.pdf
(※3→ https://note.com/omori55/n/n2397bb57aa61

私のご先祖様はぜんぶで何人いるか?

(2017年8月 104号)

 私は父と母から生まれた(どちらも健在なのでご先祖様とは言いにくいが)。両親にもそれぞれ父母がいて、つまり私の祖父母は合わせて4人。さらに4人それぞれに父母がいるから、私の曽祖父母はぜんぶで8人です。さらに世代をさかのぼると、一世代ごとにその数は2倍、2倍となっていきます。
 反対に、ある人物の子孫の数を正確に数えるのは難しい。子供の数は人によってまちまちですから。それに比べれば、ご先祖様の数を数えるのは簡単です。誰しも父と母の2人から生まれたに違いないからです。
 ここで、2のn乗のおおよその値を求めるのに使える便利な式を紹介しましょう。

  ○ 2^10=1024≒1000 ・・・(1)
  ○ 2^1+2^2+2^3+・・・+2^n=2^(n+1)-2≒2^(n+1) ・・・(2)
  (※「2^10」は「2の10乗」を表す)

 ちなみに、デジタルの世界は2進法の世界ですから、これらの式はデジタルがらみの計算をするときにとても便利に使えます。
 もう一つ前提条件を考えましょう。世代ごとの年令差、つまり子供を生んだときの親の年令です。昔は今より出産年令が早かったようですから、平均で25才としましょう。そうすると100年で4世代、250年で10世代ということになって、計算もしやすいですから。
 では具体的に計算してみましょう。今から250年ほど前(江戸時代)までさかのぼると、私の10世代前のご先祖様は(1)より2^10=1024≒1000人。それ以降のご先祖様は合わせて(2)より2^11≒2000人となります。今から500年ほど前(室町時代)までさかのぼると、私の20世代前のご先祖様は(1)より2^20≒100万人。それ以降のご先祖様は合わせて(2)より2^21≒200万人となります。
 どんどんいきましょう。今から750年前(鎌倉時代)までさかのぼると、私の30世代前のご先祖様は(1)より2^30≒10億人、それ以降のご先祖様は合わせて(2)より2^31≒20億人。今から1000年前(平安時代)までさかのぼると、私の40世代前のご先祖様は(1)より2^40≒1兆人、それ以降のご先祖様は合わせて(2)より2^41≒2兆人・・・???
 ちょっとありえない数字になってきたでしょうか。現在の世界人口が70億人ほどですから、そんな時代に兆の単位の人口がいたというのはちょっと考えにくいですね。でも計算上はそうなるわけです。

 同じ人物を何度も重複して数えているからでしょうね。何世代も経るうちに、同じ人物の子孫同士が結婚して子供を作るということが頻繁に起こるでしょう。上の計算そのものは間違っていないはずですから、そう考えれば納得できます。
 上で想定した数字にツッコミを入れても答えにはならないでしょう。「2^10=1000は正確でない」とか「みんなが25歳で子供を産んだわけではない」とか。その点を修正しても先ほどのおかしさは解消しませんから。

※ 参考資料並びに類題は「2のn乗のザックリ計算」(→ https://note.com/omori55/n/nc74e8bc38c0c )をご覧ください。

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