アンパンマン・ワールドの経済学
アンパンマン・ワールドの経済学
ジャムおじさんはタダでパンを配っている。 なぜそんなことができるのか?
理由は簡単である。タダで何でも手に入るからである。パンの原料である小麦は、ヤギおじさんが挽いて、SLマンが届けてくれる。野菜はオクラちゃんが届けてくれる。鉄火のマキちゃんはお寿司を御馳走してくれるし、てんどんマンは天丼を御馳走してくれる。
だからジャムおじさんは、みんなにタダでパンを提供できる。しょくぱんマンがタダで学校に配達してくれる。ミミ先生も無給に違いない。ミミ先生だってタダで何でも手に入るのだから、給料なんて要らないのだ。でも、教えることは子供たちのためになるし、彼女の喜びでもある。だから、働いている。
食べ物だけではない。クレヨンマンはクレヨンを、ランドセルマンはランドセルを、子供たちにタダで配る。SLマンがいるということは、鍛冶屋もあるに違いない。パン工場があるということは、大工もいるに違いない。でも、全部タダ。みんなが、アンパンマン・ワールドのために自分が出来ることをしっかりこなしているのである。
考えてみると、人間社会はお金があるせいで、ずいぶんと無駄なことをしているのではないか。人は、より多くのお金を手に入れるために、より多くの物を生産しようとする。そして、手にしたお金でより多くの物を消費しようとする。そうして生産と消費の回転を加速させることが、人間社会の目的になってしまった。あるいは物を手に入れられない不安を取り除くために、お金をしこたま貯めこもうとする。
お金なんてものが存在しなければ、銀行も財布も要らない。スーパーのレジ係りも会社の会計部門も要らない。余った人力を他のことに振り向ければ、もっともっと素敵な社会が作れるんじゃなかろうか。有限な資源とエネルギーは、奪い合うものじゃなくて、最も有効に使ってくれる人に譲ることになるだろう。
みんなが好き勝手に、世のため人のため社会のためになるように働けば、それはそれでうまく回るんじゃないか。みんなが好き勝手にお金を求めて動くより、効果的かつ効率的なのかもしれないぞ。みんなが自分に出来ることをしっかりこなせば、本当はお金なんか無い方がいいのだ、きっと。アンパンマン・ワールドが、僕らにそれを示してくれているような気がする。
そして、その路線で新しい社会を開くとするなら、担い手はやっぱり日本人だ。それでしかありえない。なぜなら、日本は八百万の神の国。 あらゆるものに神を見る。そして実は、アンパンマンの仲間たちは、八百万の神なのだ。日本人の心情に即して言うと、そういうことになる。
資本主義経済はキリスト教の世界観から生まれた。その世界観によると、お金は神だ。唯一絶対の力を持つ神だ。だから、それに従わなければならない。そして、お金を手にすることは、神の力を手にするに等しい。お金の力を行使することは、キリスト教=資本主義経済の神の御心にかなう行為である ・・・ と、そういうことになるのだろう。けれども、今その限界が見えてきた。
日本人の神は、それとは違う。大地が恵んでくれたものをみんなで分け合うというのが日本人の発想だ。八百万の神であれ、アンパンマンの仲間たちであれ、それは自然の恵みに感謝する日本人の心情そのものである。バイキンマンとドキンちゃんにシチューを食べさせるときのシチューおばさんの幸せそうな顔を見よ。育てた野菜との別れを惜しむときのオクラちゃんの涙を見よ。
アンパンマン・ワールドには税金は無いし、脱税も無い。オレオレ詐欺も保険金殺人も無い。お金が無いんだから、ありえない。お金ってものは、なかなか面倒なものだ。 僕自身、ずいぶん無駄な神経を使っていると思う。お金から解放されたら、楽だろうな。いい社会だと思うな。
資本主義に変わる社会がありうるのか?と考えるなら、それは十分ありうることだ。ベーシック・インカムで社会がうまく回るのか?と考えるなら、それも十分可能だ。アンパンマン・ワールドを見よ。そこに未来社会の姿が見える。
アンパンマンに見る、幸せの条件
◇ ひもじい思いをしない
お腹をすかせた子がいると、アンパンマンは自分の顔をちぎって食べさせる。アンパンマンが戦うのは有事のときだけであって、普段は困っている人やお腹をすかせた人を助けている。
人間にとって幸せの第一条件は、ひもじい思いをしないこと。それを満たしてくれるのがアンパンマンだ。強いだけのヒーローなら他にもいる。古いものではウルトラマン、新しいものではプリキュアなど。
それらと比べて、アンパンマンのヒーローっぷりは別格である。最も大事なものを満たしてくれるのだから。
◇ 人に喜びを与える
アンパンマン・ワールドでは、みんながみんなにタダでご馳走する。それが神の恵みであることは、前の記事に書いた通り。
そんなとき、ご馳走される側(たとえば、カバおくん)もうれしいが、一番喜んでいるのはご馳走する側である。
幸せの第二条件は、人に喜びを与えること。うまいものを食うことよりも、食べてもらうことが幸せなのだ。冬の寒い日にシチューおばさんは、あったかいシチューをみんなにふるまう。バイキンマンとドキンちゃんにも。
◇ 自分の力を発揮する
バイキンマンはメカニックである。いろんなメカを自作し、自分で操縦する。バイキン城は工場さながらである。バイキンマンのハイテク好きは、ドラえもん並み。そんなバイキンマンに、アンパンマンは素手で立ち向かう。
アンパンマンの武器はアンパンチとアンキックだけ。アンパン光線もなければ、アンパン剣もない。それでも、みんなで力を合わせてバイキンマンをやっつける。幸せの第三条件は、自分の力を発揮すること。
自分たちには力がある。他のものに頼るより、自分たちの力を発揮すればいい。みんなそれを知っている。
なぜアンパンマンはバイキンマンをこてんぱんにやっつけないのか?
なぜアンパンマンはバイキンマンをこてんぱんにやっつけないのか? そんなことしたら耐性菌マンが生まれちゃいます。現代の人間社会と細菌の間で繰り広げているイタチごっこと同じ様相を呈します。
アンパンマンの武器はなぜアンパンチだけなのか? 抗生物質で攻撃したら、抗生物質の効かないスーパー耐性菌マンができちゃいます。現代の医療現場ですでに起きていて、これからさらに大きくなるであろう問題が、アンパンマン・ワールドでも起きちゃいます。
人間の体内には細菌ワールドがあります。大腸菌などバイキンと呼ばれる細菌もその一員です。両者はバランスを保って、並び存しています。細菌をこてんぱんにやっつけたら、バランスを失します。
同じように、細菌もアンパンマンの仲間たちです。そもそも酵母菌がいなくなったらパンを焼けませんからね。だからバイキンがいなくなったらアンパンマン・ワールドも成り立ちません。
けれどもバイキンがあまりに勢いがいいのも困る。だから、そういうときは「しばらく引っ込んでろ」と。それが「アンパーンチ」なんですね。
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〜 アンパンマン・ワールドは八百万の神の国 〜
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