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1の不思議

 いきなりですが、重要な【定理】から証明しましょう。

【定理1】最大の自然数は 1 である。

【証明】最大の自然数を x とし、x≠1 と仮定する。
    このとき x>1 だから、
   この式の両辺に x をかけると x^2>x … (1) となる。
   ところが (1) は x が最大の自然数であることに矛盾する。
   以上から、背理法により x=1 である。
   すなわち、最大の自然数は 1 である。//

 ところで、このように言うと「2 の方が 1 より大きいじゃないか」という人がいるかもしれません。
 ところがどっこい。「2>1」は間違いなんです。次の【定理】を証明しましょう。

【定理2】「1 = 2」である。

【証明】1 ≠ 2 と仮定する。
    このとき、両辺に x を掛けると x ≠ 2x となる。
    この式に x = 0 を代入すると 0 ≠ 0 となる。
    これは矛盾である。
    以上から、背理法により、1 = 2 が成り立つ。//

 どうですか? ばっちり証明できましたね。納得できませんか? でも証明しちゃいましたよ。
 ところで上の2つの証明はどちらも背理法を使っています。そもそも背理法が間違っているのでしょうか? 確かに、背理法ってなぁんかウソっぽいんですよねぇ。その気持ちは私もわかります。私もそう感じていました。
 でも、背理法って確かに正しい論法なんですよ。背理法を論理式で書くと、

  $${(\neg P\Rightarrow(Q\land \neg Q))\Rightarrow P}$$

となります。「¬」は否定を表します。「~でない」と呼んでください。「⇒」は「ならば」と呼んでください。この式の(Q∧¬Q)の部分は矛盾を意味します。つまり、この式は、

P を否定してそこから矛盾が出てきたら、P が正しいことになる

というわけですから、背理法そのままですね。そしてこの論理式はトートロジー(=恒に真である論理式)です。簡単な操作で確認できます。ここでは説明は省略しますが、くれぐれも背理法が間違っているわけではありません。

 でも【定理1】も【定理2】もやっぱりおかしいですよね。ということは、やっぱり【証明】がどこかで間違っているのでしょう。
 実は【証明1】では2つのことを仮定しています。「最大の自然数がある」ことと「その数が1である」ことです。その結果矛盾したのですから仮定が間違っていることになりますが、「その数が1である」ことが間違っているとは限らないわけでありまして、もう一方の仮定すなわち「最大の自然数がある」ことが間違っているかもしれないわけです。
 【証明2】では始めに「x をかけて」次に「x に 0 を代入」しているわけですが、それってつまり「0 をかけて」いるのと同じことで、その辺が怪しいですね。失礼しました。

◇      ◇      ◇

1と2と3、そして無限
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