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鶴見という街、そしてコーヒー事情

 横浜市鶴見区に住んで四半世紀ほどになるが、東京との間をせっせと行き来するばかりで、地域とのつながりはほとんど無かった。
 でも、鶴見という街はなかなか独特だ。そんな鶴見の街で、私の自家焙煎コーヒーが何となく売れそうな気配になってきた。

 鶴見という街は、海沿いに京浜工業地帯の工場が立ち並んでいて、昔から出稼ぎ労働者が多い街だった。知る人ぞ知る「JR鶴見線」(写真)が走る街でもある。昭和の高度成長期そのままかと思えるような光景だ。
 沖縄タウン(朝ドラ「ちむどんどん」の舞台)、コリアタウン、そして中南米生まれの日系人も多い。だから昔から、多文化が共生する街なのだ。
 そんな鶴見の街で、私の自家焙煎コーヒーに興味を示す人が出てきた。東ティモールに行ったのがきっかけで、NPOから生豆を買ってきて家で焙煎するようになった。最近では東ティモールの「村別に」って、いて、れて、その違いを楽しんでいる。それを「欲しい」と言ってくれる人が地元・鶴見でボツボツ顕れるようになってきたというわけだ。

 先日、チラシを見かけて、思い立って「アルゼンチン料理の会」に参加してみた。アルゼンチンから移住(帰国)した日系人が講師となって「みんなでアルゼンチン料理を作って、食べよう」というイベントだ。参加者はほとんどが地元の女性、しかもどう見ても私(60歳)より年上らしい人が多かった。
 最初は「場違いかな?」とも思ったが、一緒に料理を作って食べれば、打ち解け合う。私はコーヒー豆を持参していて、その場でみんなにふるまった。余ったコーヒー豆は地元のNPOの人に差し上げた。そして「美味しい!」と言ってもらえたというわけだ。
 誰がコーヒー豆を買ってくれるのかというと、鶴見に住む高齢者、高齢者を支援するNPOだ。そういう人たちとのやり取りを通して、私が分かったこと・感じたことを書いてみよう。私はその辺の事情に詳しいわけでは無いが、少し見えてきたような気がしている。

 高齢者と一口で言っても様々で、体がまだまだ動き、お金もそこそこある高齢者がやっぱり多い。行政の介護サービスを受けるほどでもなく、生活保護を受けるほどでもない人たちだ。無料で何かをしてもらうことより、お金を払って楽しみたいと思っている。例えば、コーヒーを飲んだりしながらみんなとおしゃべりするような機会だ。
 しかも鶴見という街では、高齢者の中のかなりの割合が沖縄ゆかり・韓国ゆかり・中南米ゆかりの人だったりするわけで、彼らにはまた別の思いもある。自分たちの文化を大事にしたい、知ってほしいという思いだ。
 ここでも行政を初めてとして、日本人はトンチンカンな動きをしがちだ。典型的なのは、彼らに「日本文化を教えよう」とすることだ。いやいや、逆でしょ。「単文化の私たち」は「多文化の彼ら」から学ぶことがたくさんあるはずなのに、これから先の時代はなおさらそうするべきなのに。
 鶴見に住む多文化を持ち合わせている人たちは、それを提供してくれようとしているのだ。有難いと思ってそれを受け取れば良いのに、単文化の私たちにはなかなかそれが出来ない。多文化の彼らは、そこに歯痒さを感じている。

 アルゼンチン料理の会で、顔つきはみんなほとんど同じなんだけれど、参加者同士で突然スペイン語の会話が始まったかと思いきや、日本語に戻って作業手順を説明したり。その姿が生き生きしていた。たぶん「日本茶を点てる」イベントではあんな顔は見せないんじゃないかなぁ。
 そんな(コーヒー産地である中南米で生まれ育った)人たちから(私が淹れた東ティモール産の)「コーヒーが美味しい!」と言われたんだもの。私はとっても嬉しいの。

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