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連載記事(2018中)

「問題解決」演習

(2018年5月 113号)

 「問題解決」ということがよく言われます。学習指導要領の情報科のページにも何回も出てきます。けれども「それがどんなもので、どうすればそれができるのか」については、あまり語られることがありません。
 情報科の授業で「問題解決」を扱うには、どうすればよいか、私は考えましたが、「問題」を与えてしまったのでは意味がありません。大事なのは「問いを立てる」ことの方でしょう。そうは言っても、

  ◇ 腹がへったら   → 飯を食う
  ◇ 虫に刺されたら  → ムヒを塗る
  ◇ 問題が発生したら → 解決する

こんなんじゃしょうがないですね。そしていろいろ考えて、次のような課題を作ってみました。



(1) 次の物語の中で「どんな問題が発生したか」ならびに「その問題をどのように解決したか」をそれぞれ1行で書いてみよう。
    ア.桃太郎    イ.三匹のこぶた    ウ.白雪姫
    エ.かぐや姫   オ.鶴の恩返し     カ.・・・

(2) (1)をもとに、その物語に新しいタイトルならびにサブ・タイトルをつけてみよう。


 まず、発生した問題とその解決策を「具体的に」書いてください。そして「そこに焦点を当てた」タイトルとサブ・タイトルをつけてください。
 読み方・感じ方・捉え方は人それぞれですから、常識にとらわれず自由に考えて構いません。でも、元の話を変えたり、新しい話をつけ足したりしてはダメですよ。また、問題と解決とタイトルとサブ・タイトルをそれぞれ「1行で」書くことがお約束です。もちろん、その4つが同じ方向を向いていなければダメですよ。
 例を1つ示しましょう。「桃太郎」の例文です。

  問題: 1人と3匹でどうやって鬼の軍団に立ち向かうか?
  解決: 家来の特技(犬はかみつく、猿はひっかく、雉はつっつく)を生かす
  タイトル: 桃太郎の組織力
  サブ・タイトル: 部下の特技の活かし方

 桃太郎の話の中で、他にもいろんな問題が発生して、いろんな方法で解決しましたね。ですから、上に書いた以外にも探せばいろいろ見つかるはずです。みなさんもいろいろあれこれ考えてみてください。
 私が授業でやる際には、情報科の授業らしく、ワープロに入力させます。やってみると、生徒たちはお互いに入力したものを見せ合ったりして、たいそう盛り上がります。定期試験で出したことはありませんが、出せなくもないでしょう。その際には「4つが同じ方向を向いているか」が1つの採点基準になるでしょう。
 なかなかクリエイティブな企画だと我ながら思っているのですが、お遊び気分でやってみても楽しめますよ。他の文章例はこちら(→ https://note.com/omori55/n/nbeb9c9c2383b )をご覧ください。

原子から宇宙まで、大きさを1つの数直線に表してみよう

(2018年6月 114号)

 原子核から宇宙の果てまでいろいろなものの大きさを、1つの数直線上に表すのは普通のやり方では無理です。でも、やりようはあります。大きさを10のx乗(以下「10^x」のように書く。単位はm)で表して、そのxの値を数直線上にとっていけばいいんです。
 まずはズーム・アウト。大きいものを見ていきましょう。

  • 人の大きさはざっくり 1 m=10^0 m。つまりx=0。 (人の大きさを 1.7 mとすると、でも10^1 mよりはずっと小さいので、およそ 0 として問題なかろう)

  • 地球の大きさは直径 12,800km≒10^7 m → x=7

  • 海王星の軌道半径は 45億kmだから、太陽系の大きさは 9×10^12 m≒10^13 m → x=13

  • 天の川銀河の直径は 約10万光年=10万光年×(9.46073×10^15) m/光年≒10^21 m → x=21

  • 宇宙の大きさは138億年間に光が進む距離を考えて 276億光年×10^16 m/光年≒10^26 m → x=26 (係数2.76を反映させる形でもう少し細かく計算すると x=26.44 となる)

  • 宇宙が膨張していることを考慮すると、宇宙の果てはもっと先になる。

 続いてズーム・イン。小さいものを見ていきましょう。

  • 細胞やウィルスの大きさは 約10 µm=10^(−5) m → x=−5 (µ:マイクロ)

  • 原子の大きさは電子雲を含めて 0.1 nm=10^(−10) m → x=−10 (n:ナノ)

  • 水素の原子核つまり陽子の大きさは 1 fm=10^(−15) m → x=−15 (f:フェムト)

  • 原子核を構成する素粒子にも大きさはあるのだろうけれど、分かってもいないし測りようもない。

 では、上の x の値を数直線上にとってみてください。

 ──────────────┼─────────────→ x
0

 ほら、見事に原子から宇宙まで1つの数直線に表せましたね。(ここで目盛1つ分右にずれると、大きさが10倍になることを意味します)

 ところで、上のやり方では整数値しか表せませんが、もうちょっと精度を上げようとすれば、小数で表したくなりますね。はい、それが対数です。対数は、現実社会でもいろんなところで使われています。たとえば酸性・中性・アルカリ性の度合いを表すPH、あるいは地震の規模を表すマグニチュードなど。計算法は本質的に上と同じです。
 こんなやり方で微小な物から巨大な物まで一気に表すことができるわけですが、ここでちょっと元に戻って、実際の比率を見てみましょう。原子の大きさが 0.1 nm、原子核の大きさが 1 fmということは、原子核の大きさは原子の大きさの 10万分の1 です(体積比だと1000兆分の1)。原子の大きさを直径 100 mのドーム球場とすると、原子核の大きさは直径 1mm。ほとんど砂粒くらいの大きさです。そしてそれ故にニュートリノを検出するのが難しいんですね(カミオカンデのみなさま、お疲れ様です)。
 時には指数で表したり、時には対数で変換したり、時には実際の比率で見てみたり。見方によって景色はずいぶん変わります。

20年後の人口ピラミッド

(2018年7月 115号)

 先の見えない時代と言いますが、はっきりくっきり見えている未来もあります。
 たとえば「20年後の人口ピラミッド」。20年後の勤労世代は今現在生まれている人たちですから(大量の移民が来ない限り)これ以上増えようがありませんし、高齢者が減る見込みもありません(計画的に減らすことはできない)。仮にこれから出生率が急上昇しても、これから生まれてくる人たちは20年後にはまだ子供ですから、そうなったら勤労世代の負担はますます増えるばかり。20年後なんてすぐですよ。

 それでは実際に20年後の人口ピラミッドを作ってみましょう。将来の人口ピラミッドは、直近の2回の国勢調査(2010年と2015年)のデータから作れます。国勢調査は5年に一度行われます。人口ピラミッドは男女別に通常5歳刻みで表します。これには訳があって、たとえばある時の国勢調査で50〜54歳だった人は次の国勢調査の時には55〜59歳になっていますから、そのグループの人口を比較することで各年齢区分の5年間での生存率(死亡率)がわかるわけです(もちろん出入国者の数も影響しますが、その割合は比較的小さい)。もう一つ必要なデータは出生率で、将来の出生数を算出するには、その時点での出産年齢の女性の数も関係します(合計特殊出生率の計算では「15〜49歳の女性」を出産年齢としています)。これは直近の1回の国勢調査の結果から算出できます。
 こうして過去2回の国勢調査の結果から出生率と各年齢区分の生存率(死亡率)を求めて、それがこれからも変わらないと想定すれば5年後の人口ピラミッドが作れます。この操作を繰り返すことで10年後、15年後、20年後の人口ピラミッドも作れるわけです。
 みなさんも将来の日本の人口ピラミッドを見たことがあるでしょうけれど、自分で計算して作ってみると、気づくことはいろいろあります。それは「将来の予想」と言うより、ほぼ「確実な未来」なのです。実際の国勢調査のデータを元に上の手順で作った20年後の人口ピラミッドを、エクセルの関数式ならびにグラフを作る手順と合わせて別サイト(→ https://omori55.blogspot.com/2019/03/blog-post_596.html )に載せましたので、よろしければご覧ください。

 最後に、今回の話題に関連する便利なサイトと興味深い施設を紹介しましょう。まず便利なサイトは「Population Pyramids of the World」(→ http://populationpyramid.net/ )です。国と年をクリックして選べば、その時点でのその国の人口ピラミッドを描いてくれます。
 興味深い施設とは、総務省統計局の建物内部にある「統計資料館」です。東京都新宿区にあります。この資料館の見所は、大正時代に行われた第1回国勢調査のポスターなど。私が行ってレポートにまとめました(→ https://note.com/omori55/n/n690c2faf2571 )ので、よろしければご覧ください。

ポツダム宣言を要約する

(2018年8月 116号)

 ポツダム宣言といえば超一流の歴史的資料です。13条の条文から成っていて、日本語版(※1)も英語版(※2)もそれぞれ全文でちょうどA4用紙1枚に収まるくらいの分量です。
 ここで、第5条の書き出しの部分だけ紹介しましょう。
   五、 吾等ノ条件ハ左ノ如シ
   5.  Following are our terms.
 日本語版の「吾等」、英語版の「our」は「連合国」のことです。もちろん日本に向けてのものです。また、日本語版の「左」というのは、縦書きの文書で「左」ということですから、「それ以降」ということです。英語版の「Following」と同じです。この場合は、第6条から第13条までの条文を指します。
 日本語版にある「条件」に注目してください。つまり、ポツダム宣言は第6条から第13条までの間に「戦争終結のための条件」が書かれているのです。文面通り読めば、そういうことになります。

 さて、私は情報科の授業で次のような課題をやらせています。まずポツダム宣言の日本語版と英語版をA4用紙の片面ずつに印刷したものを配布して、次のことを生徒たちにワープロで打たせます。

(1) まずは「要約する」練習です。
 配布した資料はポツダム宣言の条文(日本語版および英語版)です。各条文(1条~13条)をそれぞれ「1行で」わかりやすく要約してください。ただし全体を通して、ポツダム宣言の内容がよくわかるように要約すること。

(2) 次に「説明する」練習です。
 ポツダム宣言を受諾することは「無条件降伏」にあたると思いますか、それとも「条件付き降伏」にあたると思いますか。どちらかの立場に立って、その考えを次のように「3行で」説明してください。
   1行目:どちらの立場に立つかを明確にする。
   2行目:そのように考える理由を1つあげる。
   3行目:反対の意見を想定して、それを批判する。
どちらの立場に立ってもよいですが、全体としてまとまりのある文章を書くこと。

 俗に「日本はポツダム宣言を受諾して、無条件降伏した」と言われていますが、ポツダム宣言を読む限り「条件付き降伏」のようにも受け取れるわけです。
 念のため申しますが、私には政治的野心も思想的野心も何もありません。単純に、各条文をそれぞれ1行で要約すること、それをもとに考え方をシンプルに示すこと、その練習をさせたいということです。
 「無条件降伏と条件付き降伏のどちらが正しいか」を考えさせる意図もありません。ただ「どちらの受け取り方もできる」ということを知ってほしいのです。
 これまでの学校教育では「正しいか、間違いか」あるいは「どちらが正しいか」を判定するような機会が多かった。でも大事なのはそこじゃない。その前に「いろんな見方ができる」ことを知ることの方が大事なのです。その一例として、ポツダム宣言の原文に一度は当たってみるのも面白い。
 ところでこの課題、(1) でうまく要点を押さえないと、(2) を書けませんよ。(1) ,(2) の文章例はこちら(→ https://note.com/omori55/n/n88200a6905dd )をご覧ください。

◇      ◇      ◇

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