忘れる
朝焼けは昨夜の曇り空を
モクレンの木は散っていった花びらを
足音は眠っていた自分を忘れている
この写真は日付を
手紙の文字は書き手のことを
好奇心の気配は痛みを忘れている
付箋は一枚の紙だったことを
足跡は百貨店に並んでいたことを
夕焼けは昨日の空の色を忘れている
暗がりで見える一点は星だったことを
電球の灯りは風だったことを
毛布は私の体温を忘れている
大丈夫
明日には忘れているよ
もし覚えているのなら
元の場所へかえすといいよ
忘れたもの
取りに行かなくていいもの
ただ流れていくもの
それらを目げきしただけなのだから
大丈夫
意味なんてはじめからなかったのだから
今この場所に置いて行きなさい
明日へかわる前に
今日を忘れるために
私たちは眠りにつくのだ
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