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「月の立つ林で」

小説が読みたい気分が続きました。ほんわりとしたゆるい話がよいと探したのが、青山美智子作「月の立つ林で」です。こんなお話でした。

長年勤めた病院を辞め転職活動をしている元看護師、宅配員をしながら夢を諦めきれない芸人、突然さずかり婚をした娘と心の距離が開いて悶々とする父親、シングルマザーの親から自立したいと願う女子高生、夫や義母にキャリアを認めてもらえない不満を募らすアクセサリー作家。この人たちが各章のメインキャラクターです。

この人たちは、皆、何かをこじらせています。そんな彼らが耳を傾けるのは、『ツキない話』という10分間のポッドキャスト。それはこんな風に始まります。

「竹林からお送りしていおります。タケトリ・オキナです。かぐや姫は元気かな?」

オキナは月に関するうんちくを語るのですが、それがなぜか、彼らのささくれ立った心に平安を与え、一歩前に進む力をくれるのです。オキナは「新月」を希望の象徴のように語ります。新月は見えないけれど、確かにそこにあるものだから。

その月のはじめの日を「ついたち」というのは「月が立つ」から派生しているとか。

月が満ち欠けを繰り返すように、登場人物の日常は変わり映えしないように見えます。けれども、オキナに促されて「新月」を意識したとき、彼らの心に新しい何かが生まれます。それは同じように見えても、まったく別の何かなのです。

新月で暗示されているものが心にしみる素敵な物語でした。

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