ある雨の日①

小さいころから雨の日が好きでした。
変な子ですよね。普通の子は外で遊べない雨の日はつまらないと思うのですけど、私は違いました。雨の日は、通学路にミミズが大発生していたからです。

高校に入って引っ越すまで、私の家は川の近くの造成地にぽつんと建っていました。街の隅に新しく切り開かれた土地で、真新しいアスファルトが水田や雑木林を抜けて、小学校へ向かっていたのを覚えています。
小学校、中学校の辺りから住宅地に入り、そこを抜けてしばらく歩くと、自動車の通る少し大きな道を抜けて駅へ向かっていました。
そして水田を抜ける一本道は、雨の日になると道端からうじゃうじゃと太いミミズが這い出して、アスファルトを占領していたのです。
いつのころか、私はミミズを踏みつけながら歩くことにワクワクする興奮を覚えるようになっていました。
それが悪いことだとは幼いながらも理解していたので、誰にも伝えたことはありません。それは私一人の秘密の遊びでした。高校になって他のいろいろなことに興味が移るにつれて、そんな残酷な行為は次第に収まりましたが、一番激しく踏みつけていた中学生のころは、毎日数百匹踏んでいた時期もありました。
この話は、そんな中2の梅雨のときの話です。

私の通っていた中学校は、制服はセーラー服でしたが、足もとについては白いソックスというだけで、靴については決まりがありませんでした。
スニーカーを履いていた子が7割、ローファーの子が3割、といった感じで、ローファーの子は体育や部活のときにスニーカーに履き替えていました。校内はよくある白いバレエシューズです。

私は短めのソックスにダークブラウンのローファーを履くことが多かったです。いま思うと、早く大人になりたかったのではないでしょうか。大人っぽさと凛とした雰囲気が同居するローファーは、小学生のときから早く履いてみたいと思っていました。
でも、もう一つの理由もありました。虫やミミズを踏み潰すときに、靴底の細かくギザギザしたパターンが、容赦なくその小さな身体を引き裂いてアスファルトの染みにしてしまう、その破壊力でした。
初めてローファーを履いたその日に、春の日差しの中でミミズをすり潰したときの興奮を、いまも微かに覚えています。

その日私は、午前中に降り出した雨の中、期待に満ちた高揚心に、ふわふわしたような気持ちで、帰りの道を歩いていました。雨が降ると、私の参加していたバトン部は校内で筋トレをするか、部活中止になっていました。私としてはミミズ踏み潰しのために中止になってくれた方がよかったのですが、うれしいことにその日は帰宅になりました。
果たして雑木林を抜けると、道の両側に這い出し始めたミミズたちが見えてきます。我慢しきれない私は、傘や通学用のスポーツバッグを揺らしながら駆け出していました。私の期待を受けて、結んだポニーテールが軽く左右に揺れます。
足もとのミミズに気付かないふりをしながら、そのまま小走りに進むと、靴底を通じてぶちゃっびちゃっと柔らかい感触を、はっきりと感じます。それはミミズたちが私の体重をもろに受けてはじけ飛ぶ瞬間なのでした。
しばらくその感触を楽しむと、荒い息を吐きながら立ち止まって振り返ります。真っ直ぐに赤黒く汚れたアスファルトが視界に広がるこの瞬間が、私にとって最高のエクスタシーでした。
「ふふっ。最高っ!」
学校でも家でも、自分から進んで話したことのないおとなしい自分が、こんなひどい残酷な行為をして快感を感じているという後ろめたさが、逆に背徳的な歓びや興奮を引き起こすのです。それは15年の私の生涯で、そのとき感じていた最高の興奮でした。

薄笑いを浮かべながら立ち止まった私は、足もとでうねるミミズに向かって、思いきりローファーのかかとを叩きつけます。わずかな感触とともに、踏み潰したところはミンチになり、アスファルトにべったりと張りつきます。左右にちぎれたミミズが苦しそうに激しくうねるところに、それぞれ両足のつま先を乗せて、ずりずりと体重をかけて左右に踏みにじります。あっという間に挽き潰されたミンチは三つになりました。
かかとを上げて靴底を確かめると、ところどころ細かい溝の間にちぎれてすり潰れたミミズの肉や内臓が食い込み、赤黒く汚れています。そんなグロテスクな光景も、私の快感を増す材料の一つでしかありませんでした。
私の好きな踏み潰し方に、踏み潰したまま手前に足を引いてすり潰すのがありました。柔らかいミミズはアスファルトで挽きにじられながら、赤い何かに姿を変えていきます。醜体を晒すその小さな生き物は、そのころは私の興奮を高めるためにだけ存在するものでした。

私はミミズを縦に踏んで、ヒールの手前の隙間に入って潰れ損なった部分に飛び乗ったり、勢いよく一回転して靴底の丸い跡をアスファルトに残したりして、5分で歩ける帰り道を10分も20分もかけて、激しいエクスタシーに包まれながら帰っていました。

いま思うと、変態以外の何者でもありませんね。あのころ私の足もとでひどい目に遭っていたミミズたちには懺悔します。
家に戻ると、私はベッドに転がって、靴底を通して感じた感触を思い出しながら、繰り返しオナニーしていました。

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