ある雨の日②

帰り道にさんざんミミズをすり潰して帰った私は、それだけで満足できることもあれば、身体がもっと残酷さを欲していたときもありました。
そんなときは普段着に着替えて、もう一度ミミズの殺戮に出かけていました(笑)
ローファーのギザギザした靴底の感触も大好きでしたが、中学に入るころに買ってもらった、少しヒールのあるサンダルやパンプスを履いて踏み潰すのも好きでした。
私がそのころプライベートでよく履いていた靴に、エナメルの白いパンプスがありました。つま先の尖ったポインテッドトゥでフロントに大きめのリボンが乗っかっていました。ヒールは3センチほどで、いま考えるとそこまで高くない太めのヒールです。
普段から着ていたTシャツとデニムのスカートに着替えると、私は待ちきれないように素足をパンプスに突っ込んで家を飛び出しました。最初に目についたミミズに、つま先を蹴り込むようにして勢いよく蹴り潰します。
アスファルトとパンプスが擦れるジャリッという音とともに、真っ二つにちぎれたミミズが宙を舞います。ひくひく震えるミミズの肉塊に向かって、容赦ない私は、ヒールを力いっぱい叩きつけていました。
太めのヒールとはいえ、ローファーより細く高いので、カツン!という音を立てながら、ミミズはさらに二つにちぎれ飛びます。その肉塊に向けてさらにジャンプしていた私の顔は、きっと興奮で上気した、みっともない顔をしていたに違いありません。

そのころ一番興奮していたのが、道端のミミズを集めて、その上でバトンの練習のふりをすることでした。さすがにミミズにバトンを落としたくはないので、バトンは持たずに、ですけど。
もちろんバトンが上手くなりたくてやるわけではなく、部のみんなが懸命にまじめに練習するダンスを、こんなに変態じみた行為と結びつけて、快感を得るために行っているという背徳感に、たまらない快感を覚えていたからです。
私はその辺りのミミズを蹴り集めてきて、丸い私だけのステージを作ります。途中でぐちゃぐちゃに踏みつけたくなる欲望を抑えながら、できるだけ多く集めます。
数十匹のミミズが集まると、パンプスを履いた足で中央に飛び乗ります。ぶちゃっという感触に絶頂に達しかけるのをこらえながら、私は放り投げたバトンをキャッチするつもりで、大きく広げた足をミミズの群れに叩きつけ、激しく足踏みを繰り返しながらミミズのミンチを量産するのでした。
「あはっ。ワンツーワンツー!」
ある程度履き馴れたパンプスは、私の残酷な意思を伝えて、縦横無尽にミミズたちを挽き潰してくれました。靴底に丸く入った切れ込みの中に互い違いの歯のようなギザギザしたデコボコがあったのですけど、かかとを上げて、その細かい刻み目にぎっしりとミミズの肉や内臓が食い込んでいるのを見ると、その姿勢のまま絶頂を迎えることもありました。

両親が、こんな私の変態っぷりに気付いていた様子はまったくありません。仕事から帰ってくるのは二人とも暗くなってからでしたし、さすがに水田に人がいないか注意はしていましたから、誰にも見られていないかったと思います。
夕飯の席で、母が通り道のミミズの多さに、父に愚痴を言っていたことは何回かありました。それも私が小学生のときまでで、そのうちに何も言わなくなりました。馴れたんでしょうね。雨のたびに数百匹のミミズが現れるので、避けて歩くのも面倒ですし、母もたまに踏みつけながら歩いていたかもしれません。
中学三年間の私の思い出の半分はミミズ踏み潰しで、残りの半分のさらに半分くらいは虫の踏み潰しでした。
そんなこと卒業文集に本気で書いていたら、私どうなってたでしょうね(笑)
誰にも見られたくない秘密だし、バレたら死んでしまいたくなるに違いないんですけど、誰かに知られて蔑まれたいという気持ちも、当時ほんの少しはありました。
その思いの一部なのか、私はミミズを踏み潰した靴底をあえてそのままにしていました。昨日ミミズを残酷にすり潰した靴を履いて、いま友だちと話しているというそのギャップが、私をたまらなく興奮させていたのです。

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