2020年のVTuber業界はどうなるか?を読む 前編(2019年までのVTuber界隈の動向)

VTuberという界隈の潮の流れは、わずか1年前を「はるか昔」に置き去りにしてしまうほど早いです。
まだ僅かな人しかVTuberというものを知らなかった2017年はわずか2年前のこと。2018年にはネット流行語大賞となるほどの爆発的な広がりをみせたVTuber文化は、2019年、ややそのペースを落としつつも依然大きな変化と拡大を続けました。

そして今、2020年が来ました。結論から言えば私は、この超新星のように生まれたVTuber界隈は、一部で言われるような安定期や低迷期に入るのではなく、むしろ未来へ向かっての変化を加速していくのではないかと予測しています。

今回は私のそんな「2020年はこんな年になる」という不確かな未来像をみなさんと共有してみたいとの思いから筆を執りました。
まずはじめに、2019年までのVTuber界隈の動向を、私なりに総括してみようと思います。その上で現状を分析し、最後にそれを受けて2020年の界隈の動向について私なりの推測を述べていきます。
それでは、しばしお付き合いください(長文になりすぎたので前後編に分割しました)


1. 2018年までのVTuber界隈の動向

VTuberブームが本格化したのは2018年は、まさに爆発的というべき拡大期でした。キズナアイさんを筆頭にしたいわゆる「四天王」がバーチャルYoutuberという言葉を知らしめ、たくさんの視聴者が押し寄せました。またそうして活気づいた業界が無数のフォロアーを生み、一つのターニングポイントであるにじさんじやホロライブなどの「箱」、企業勢の参入に至ります。コンテンツとして広く認知されることで界隈は一気に拡大し、個人勢・企業勢をあわせVTuberの数は年内で6000人を突破するまでになりました。

一方でその爆発的拡大の中で、技術的・商業的な基盤が陰ながら大きな役割を果たしていたことは非常に注目すべき点です。なぜなら、この視点はVTuberの将来を見通す上で不可欠なものだからです。
技術的基盤の筆頭と言えるのが、FaceRigとLive2Dに代表される、フェイストラッキング技術と2Dアバターを組み合わせた、WEBカメラ一つとPCのみで完結する操演技術。従来のキズナアイさんに代表される3Dモデル+トラッキング機器という、高価な機器と十分なルームスペースを必要とする敷居の高い配信環境を必要としないこの技術こそが個人勢爆発の火付け役となり、企業勢にも箱としての多人数展開を可能にしたことは疑いありません。

それを更に推し進め、スマホ1台で配信環境が完結してしまうRealityMirrativのような「誰でもVTuberになれる」アプリも個人勢の増加を間違いなく後押ししたでしょう。

こうして生まれた多数のVTuberは、コミュニケーションあるいは「存在」の基盤となるtwitterでファンやVTuber同士で交流し、Youtubeやその他の配信プラットフォームでは2Dアバターで配信するという現在でも基本形となるスタイルが定着します。ここで、企業勢・個人勢がほぼ同じスタイルで活動していたというのはかなり注目すべき点でしょう。
近年のクリエイティブ業界は誰もが発信者となれる環境のため、プロ・アマの敷居が曖昧になりつつあるものの、やはりプロというのは機材や環境、技術、なによりコネクションという点で一段も二段も上にいるのは間違いありません。が、この時期のVTuberは機材、環境とも企業勢・個人勢が横並びで、新しい界隈のためノウハウや技術の差もほぼありません。技術面でも一部個人勢の方が先行していたほどでしょう。事実、当時は企業勢でも3Dモデルというのはかなり珍しいという状況でした(例えばにじさんじの3D化は2018/9頃から、ホロライブは2019年に入ってからです)。
一番大きな差であるはずのコネクションも、twitterというオープンなプラットフォームでの企業勢・個人勢の垣根を超えた交流が主となったことでほぼ対等に。
要は本当に何もかもが横並びだったわけで、あとはアイデアとキャラクター次第で企業勢と真っ向勝負ができたのが、2018年頃までの状況だったわけです。

さて、一方でこうした技術的・環境的と同じくらいにエポックだったのが、VTuberの世界を押し広げる様々なインフラ・サービスが世に出たことでしょう。clusterRealityバーチャルキャストなどなど、今なおVTuberシーンを牽引するサービスたちは全て2018年までに登場しました。中でもclusterなどは、2016年にα版がローンチされており、その先見の明は驚くほどです。

VR界隈の盛り上がりを追い風に、新たな文化(ニーズ)を作り出すイノベーターとして生み出されたこれらのサービスは、VTuberに新たな活躍の仕方を提供したという点でその意義は計り知れません。なにしろVTuberはそのあり方ゆえに、本質的に技術的制約こそが最大の敵ですから。
世間を賑わせた、clusterでの輝夜月さんのVRライブも2018年のことです。VTuberがこうした「外の世界」へ飛び出すことを可能にした、まさにエポックメイキングな出来事だったといえるでしょう。

こうした挑戦的なサービスが早いうちから登場していたことは、2020年の視点で見ると非常に大きな意味があったと思えます。そしてこれのサービスは、VTuberの未来を語る上で欠かせない存在となります。


2. 2019年の動向

さて、2019年に入ると、にわかににじさんじやホロライブなどの「箱」を持つ企業勢の強さが目立ち始めます。特ににじさんじは2019年中に実に100名近い規模にまで安定して拡大を続け、業界筆頭の地位を確たるものにしました。新たなメンバーは「箱」のつながりを生かしてデビュー直後から既存の「箱」のファンを取り込み、一方でその話題性がさらに新規層を呼び込む…というサイクルを繰り返して拡大しており、これはまさに活気がある界隈特有の好循環といえます。12月の第2回にじさんじマリオカート杯の同時接続数7万人(再生数は2週間で120万回)という驚異的な数字は、まさにその活況っぷりの象徴でしょう。下記のツイートからも、勢いを失うどころかいまだ上がり調子であるという驚くべき現実が見て取れます。

一方で2019年も明るい話題ばかりではありませんでした。御存知の通り「引退」という文字をタイムラインで見かける頻度が明らかに増え、VTuber数は純減となるシーンすら見られました。
その背景にあるのが、2018年半ば頃から囁かれていた視聴者に対するVTuber数の飽和です。VTuberとなるだけで一定の注目を浴びた2018年のブーム以来の拡大期が天井を打ったことで、魅力あるコンテンツを持たないVTuberは一顧だにされることなく、どころか相対的にはパイの取り分が縮小する傾向の中では、たとえ魅力的なコンテンツを持っていても注目される機会が減っていきます。そのためブームに乗って「なんとなく」始めたライト層や、努力が実らず夢破れた層などが次第に引退していったわけです。
またこうした状況は企業勢にとってことのほか深刻で、短期的に投資回収ができる見通しが立たなくなってしまいます。つまり、腰を据えてじっくり事業を育てる(さらなる投資をする)か、あるいは傷が浅いうちにさっさと手を引くか、の判断を迫られることになったわけです。結果として経営体力がなかったり見切りが早かった企業勢から引退や運営終了が急増します。
そういう状況ですので誰の財布の紐も自然と固くなり、撤退・引退まで行かない場合でも、結果として金銭・契約トラブルも散見されるようになったのではないかと思います。

にじさんじなどの強い「箱」の活況とは対照的に、箱の外には影が差し始めてきたといえます。VTuber界は2018年上期のような楽園ではなくなりつつあるということが、白日のもとに晒されたとも言えましょう。

もっとも、これをして「VTuberはオワコン」「斜陽」などというのは少し短絡的すぎるでしょう。
にじさんじ、ホロライブなどのグループを見るに視聴者数の増加は依然続いており、事実としてパイは増えています。が、2018年以来のブーム期ほどではありません。急成長期から安定成長期へと移行したといってよいでしょう。しかしブームによる急成長が継続することを期待して活動してきた大多数にとって、2019年のパイの増分は十分でなかったというのがより正確な分析かと思います。

恐らくそのことは誰もが感じていることでしょう。その結果生じたのが、トップランナーたちを中心にした「パイそのものを増やそう」という積極的な動き。つまり、VTuberというコンテンツの幅を広げ、魅力を高め新規層を開拓するというトレンドです。2019年という年はこれなくして語れないでしょう。
2018年後半~2019年にかけてのトレンドの一つである3D化の波は、この潮流の象徴に他なりません。事実、2019年は企業勢の3D化が相次ぎ、個人勢にすら3D化するVTuberが少なからず登場しています。
2018年のブームの立役者でもある2Dアバターは、手軽さの反面できることが極めて限られるという弱点を抱えています。雑談やトーク企画、ゲーム実況に歌枠…といったVtuberお決まりのコンテンツから脱却し、新たなファン層を取り込む(=業界全体のパイを増やす)には、もはや3D化は避けては通れないのです。
もちろん3D化は直接利益を生むわけではないので(むしろ最大で数百万円とも言われるモデル制作費がかかる)、3Dを生かした魅力的なコンテンツの企画とセットであることが前提になります。その企画が「バーチャルさんはみている」や「四月一日さん家の」などのアニメーション化や、clusterやVARKなどのVRライブイベントであるといえます。

また3D化以外でもオリジナル曲の制作や各種グッズ・ボイス販売、企業とのコラボ、そしてリアルイベントの開催。これらについても、収益の多チャンネル化という目的とともに、新たなコンテンツと魅力を新たなファン層へ訴求し、従来のネット配信をただ見てもらう時代からもう一歩先へ、という「次」を見据えた動きという側面も大きいのではないかなと思います。

もっとも、そうした潮流に乗ることは簡単ではありません。特に小規模な企業勢、そして大半の個人勢にとっては。
従来のLive2Dアバター+VTuberの各種定番コンテンツが主力だった2018年は、企業勢・個人勢とも条件はほぼ横並びで、コンテンツ=VTuber本人のキャラクター次第では互角に勝負することができました
しかし上述の通り今のVTuberシーンは、既に2019年のうちに「次」へのアクションに必要な企画力やコネクション、資金力・技術力などのリソースが大きくものを言うような時代へと移りつつあるのだと思います。
結果としてそれを持たざるVTuberは、間もなく個人勢・企業勢を問わず相対的に魅力を失い、これ以上の大きな成長は望めない時代を迎えようとしている…これが2019年末の状況なのかなと、私は考えています。


3. 2019年末の分析:2020年に向けて

では、こうした分析を総括し、本稿の本題でもある2020年の展望につなげていくに当たって、こうした分析から2019年末現在のVTuber業界を大まかに3つの層に分けてみようと思います。

「箱」や圧倒的なコンテンツを武器に依然成長を続けており、並行して次世代を見据えた拡大戦略も打っているトップランナー層
パイが不十分なために大きな成長はできず伸び悩んでいるが十分なコンテンツ力を持ち、「次」を見据えた努力を続けているチャレンジャー層
従来型の活動からシフトしない(シフトできない or するつもりがない or する必要がない)その他層

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にじさんじホロライブキズナアイさんのActive8などの大手企業勢はもちろん①。「箱」戦略や圧倒的なIPを駆使して安定的な成長を続けてつつ、3D化やリアルイベントなどのマルチチャンネル展開などの投資と挑戦を続けながら、名実ともに業界を牽引しています。

そしてそれ以外の大半の企業勢と、トップクラスの個人勢が②に位置します。業界全体の頭打ちから現在の成長度は今ひとつながら、確実に次世代への投資を続けています。その中で注目しているのが、銀河アリスさんやMonsterZ MATEを擁するBalus(バルス)です。同社は独自のxRエンターテイメント施設SPWNを設立しており、それを軸にTUBEOUT!などのARイベントを主催しています。また世界初の5GによるリアルタイムARライブを行うなど、技術的にはかなりのものを持っているでしょう。3Dモデルを使ったVRパフォーマンスに関しては恐らく業界トップクラスの高い技術力と、それを支えられるだけの資金力を持っていると思われます。

また個人勢で言えば犬山たまきさんなどがここに位置するでしょう。オリジナルの3Dモデル作成やVTuber事務所「のりプロ」設立、同人誌やグッズによる収益など非常に先見の明のある動きをしており、並の企業勢より将来性は高いように思われます。


そして上記のどちらにもに該当しないのが③その他層です。個人勢の大半はここに含まれ、3D化やイベントなどの大きな動きが2019年に見られなかった一部の企業勢も含まれるでしょう。
注意したいのは、上記の分類に決して批判的なニュアンスはないということです。あくまで本稿の趣旨である2020年の業界の動向を分析することが目的です。ただ、新しい時代を作るシーンに噛み込むには、もはや個人ではどうしようもないレベルのリソースやコミットが必要であるのも事実であり、それゆえに扱いが軽くなってしまうという所については申し訳なく思います。

それでは、これを踏まえて2020年のVTuber業界の動向を分析していこうと思います。


後編:2020年のVTuber業界動向予測 へ続く

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ご精読ありがとうございます。
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食文化から相対性理論まで。生きることは知ることと見つけたり。ノンジャンル知識系VTuberの思惟(おもい)かねです。 主にVRについての考察エッセイや、工学技術やニュースについて解説記事を書いています。 Twitter:https://twitter.com/omoi0kane
コメント (2)
初コメです。

> clusterやReality、バーチャルキャストなどなど、今なおVTuberシーンを牽引するサービスたちが登場したのも2018年です。

clusterはα版が2016年、正式版が2017年リリースなので、ここだけは訂正が必要かなぁと思いました。(*´▽`*)
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>今和間田せぃがさん コメントありがとうございます。仰るとおり、clusterは2016年に既に登場していたんですね。びっくりしました。訂正しておきます。
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