また家族で乾杯しよう

父は無類の酒好きだ。

幼い頃から酒を欠いた父を見たことがない。
ビール、日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキー・・・
ありとあらゆる酒が我が家には常備されていた。しかも今思えば高級なものばかり。

父は良い酒を飲むので悪酔いすることはなく、いつも楽しそうにしているか、すぐに寝てしまうかだった。

色々なお酒を全国から取り寄せては箱や瓶を集めていたが、いつしか母に「これ以上ゴミを増やさないでほしい」と叱責され、写真を撮って捨てるようになっていた。
まだパソコンが主流ではなかった時代、ワープロに酒の画像と評価を細かくまとめていた。

酒の知識や良い酒の名前はほとんど父からの入れ知恵だったように思う。
(ほとんど聞き流していたが)

私もお酒を飲むようになり、結婚について真剣に考える年齢になったとき、自然とお酒を飲める人と結婚したいと思うようになった。
何よりも第一に、結婚相手は父とお酒を飲める人でなければならない。父はきっと一緒に飲めることを楽しみにしている。

そして昨年、お酒が大好きな人と結婚した。
父は誰よりも夫のことを気に入ってくれて、私の結婚を喜んでいた。

そんな父が最近、大病を患っていることが分かった。
心配をさせまいと娘たちには手術まで黙っていた。
また、こんな状況下なのでお見舞いにも行けない。
万が一のことがあっても駆けつけることができない。

手術は無事成功したが、しばらくは大好きなお酒を飲むことができない。
食欲も落ちているそうだ。
食べること、飲むことが大好きな父にはさぞかし辛い状況であるに違いない。

医者には酒のせいで病気になったのか、術後はいつになったらお酒を飲めるのかと、開口一番に聞いたそうだ。
さすがである。

今はただ、快復を祈ることしかできないが、父がお酒が飲めるようになったら、このコロナが落ち着いたら、家族で乾杯をしたい。

親孝行らしい親孝行はできていないけれど、父の好きなお酒を買って、年に1,2回でも夫と帰って一緒にお酒を飲みたいと思う。

夫も父と飲めることを楽しみにしている。

2人が大好きなイチローズモルトを今から買っておこう。


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