ここまでこじらせるきっかけになった最後の恋、のお話


ここまでの記事をいくつか読んでこいつヤベー奴、と感じたそこのあなた。


そうです。わたしはヤベー奴です。
モリシと同じ学年の85年世代。もう2代も前の年号・昭和生まれの女。
世間的にはいわゆる「アラフォー」の女。
しっかりババァだ。

もともと実年齢より上と言われ続けた。家までセールスに来た人に「普段はお勤めですか?」と言われてキレて玄関から追い出した学生時代を経て、今は若く見られることが多いのだけれどそれが嬉しかったのも32くらいまで。
今はもう苦笑いしか出ない。なんか恥ずかしいやん。1人で飲んでて隣のおっさんに「29くらい?」とか微妙に気遣われた年齢言われた挙句

「いや、もう36でして…」

って言うの。
ちなみにおじさんには場所も時間も関係なくとにかくモテます。ぽろっと気が向いて足を運んだボートレース場では意味もなくワンピースに綺麗めのコート着てたから変なおっさんついてきてやばかったで!今度行くときはカスカップルジャージコーデにしなきゃね!


さて、いくら見知らぬおじさんにモテても2ちゃん風に言えば「喪女」なわたしだが学生時代は意外と惚れっぽい体質だった。


あの人いい!かっこいい!好き!が湯水のようにわいてくるわいてくる。友達にはおもちまた好きな人変わったの?と言われる始末。
でも特に行動に移すわけじゃなかったし、やっぱり「ワーキャー言いたいだけ」で特に触れたいとか付き合いたい、に至るボーダーラインを超えることはなかったんだなと今になって思う。どこか透明のアクリル越しに見ているような、憧れ。COVID-19が生まれるよりだいぶ前に先取りしてたんだな…ヒットメーカーやん。


そんなわたしが、この人に出会って好きになったお陰でこじれてしまったんだな、とはっきり認識している男性がいる。
恐らく彼以上に魅力的な男性は二度と現れることはない。すなわちこれから先もわたしは……やめておこう。マイナスなことをわざわざ文字にして表す必要はありませんね。

その人は20代の頃に7年務めた会社にいた人だった。


身長は175cmくらい、ガリッガリでたぶん60kgはなかったと思う。
とにかく声が小さくて内線でしゃべってるとき
「もう少し大きい声でお願いできませんか…?」
って1通話につき3回は言ってた記憶がある。静かな人だった。彼のことをここではせっかくなので「清水さん」とする。(何がせっかく)
各々の清水さんを想像して問題ないが、とても色白だったということだけは添えておく。

突然だがわたしは昔から、決まって好きになるタイプがある。それは


「次に何を言い出すかわからない人」

だ。


自分で言うのもなんなんだけどわたしはとにかくおしゃべりで話を聞くのも好きで、常に相手がどんなことを言うのか三手くらいは先まで読んで会話をしている。どんな球が飛んできても返せるように。
なので何を言われても大体は想定内で、基本的に相手との会話が面白いかよりもいかに素早く的確に切り返して気持ちよくなれるか、を目的にしているかもしれない。嫌な奴だ。
嵐のライブに通い倒してた頃はMCで自分がツッコミ入れたあとに同じツッコミを二宮櫻井コンビが発言して友達に驚かれるのが気持ちよかったな~~(すごく嫌な奴)

でもたまーーーにいるのだ。自分の中にある「こう返してくるであろう」から完全に外れた想定外のことを言ってくる人が。
そういう人がいるとわくわくする。どんな面白いレシーブがくるんだろう?どんな風にわたしをびっくりさせてくれるんだろう?と気になって気になって、話がしたくてたまらなくなるのだ。

その極めつけが清水さんだった。


清水さんはとにかく変わった人だった。
体が細く食も細いイメージだったので「普段何食べてるんですか?パンでささっと済ませる感じ?お米とか食べるんですか?」と言えば突然

「食べますよ?森のくまさん…」

と発言してくる。森のくまさん・・?とわたしが絶句していると「あぁ、熊本のお米です」とまさかの食通な発言。
好きな食べ物はなんですか?と聞けば

「精進料理」「高麗人参・・・」

真顔で答えるからギャグなのか本当だったのかは何年も経った今でも謎である。

最近の趣味は?と聞けば
「家で豆腐を作ること」
週末何してたか聞けば
「池袋に買い物に出かけたら着いて早々に足の形の2万円の置物を買ってしまって、とんでもなく重くて大変でした(笑)」

自分で言ってめっちゃ笑ってるけど問題は重さじゃない。2万の置物…足型…

これを読んでいるあなたの周りにこんな変な人、います?誰が見てもとにかく変わった人という印象。社内の人にも「清水さんといるとうまく会話が成り立たなくて緊張する」と言わしめるほど。それがわたしにとってはいつしかこの人と会話したい!になって、わたしこの人好きだ…に成長した。
言うまでもない、これ以上変わった人はいないとDNAレベルで感じたからだ。



そんな清水さんとわたしはその後、あるきっかけで更に仲を深めることとなる。


わたしは当時24時間稼働しているチームのリーダーをしていて、清水さんの隣の席がうちのチームの深夜担当メンバーの席だった。
その日は深夜メンバー席の何台かのパソコンの設定をしなければならずあれやこれややっていると、「手伝いましょうか?」と清水さんが声をかけてくれた。

ありがたく親切を受け取り、2人でパソコンの設定を進める。弾む会話。その時は既に清水さんを好きになっていたのでウキウキなわたし、今でも覚えている。正直浮かれていた。

「ねぇ清水さん、わたし最近思ってることがあるんですよ」
「なんですか?」

補足するが2人の会話は出会いから最後までずっと敬語だった。こうして文字にすると純文学のようでなんだか胸アツである。

「わたし、1985年生まれなんですね」
「はい」
「JALのジャンボジェット機が墜落した事故の2週間前に生まれてるんです」
「あぁ…確かに」
「でもね、わたしこの事故がどんなものだったのか詳しく知らなくて、最近調べたんですよ」
「ほぉ…」
「そしたら、あさま山荘事件とか、三億円事件とか、グリコ森永事件とか、有名な事件なのに詳細を知らないって、日本人なのに変だなって思い始めちゃって。調べ出したら止まらなくなっちゃったんです」

繰り返すがこれは当時好きな男性としていた会話だ。夢も希望もいやらしさも皆無、日本の犯罪についての会話。ムードもへったくれもない。(そもそもオフィスだけど)

しかし清水さんのリアクションは意外なものだった。

「おもちさん。実は僕もそういうの好きなんです、良かったら本とかマンガとか、貸しましょうか?」

まさかの大チャンス到来である。野球は9回ツーアウトからとよく言うがまさに9回裏ツーアウトからの逆転満塁サヨナラホームランをピンポイントでどかんと打ちかましたったのだ。これには勝負強い侍ジャパンのキャプテン坂本勇人もびっくりである。

それからわたしたちは急激に深く仲良くなった。思い出しても胸がときめく。マンガも借りたし、映画も見に行ったし、食事にも行った。
仕事終わりにも行ったし、休みの日に会ったこともあったし、なんならその会社を辞めてからも一緒に映画を見てご飯を食べたこともある。
ここだけ見ると普通に付き合ってるカップルだ。

映画の内容は三島由紀夫とか、学生運動とか、そんなんばかりだったけど。(成田の三里塚闘争のドキュメンタリーを小劇場に見に行って糞尿爆弾という単語が連呼されたときはさすがのわたしもなんやこれ?と思った)


彼は仲良くなると距離感が本当に近い人だった。タイ料理を食べに行ってわたしがものすごく辛いものを食べてヒーヒー言ってた時。ドリンクを飲み干してもまだ辛くて暴れていたら
「飲みます?」
と自分の飲み物のストローを向けてくれたり(心の中ではめっちゃ飲み舐めまわしたかったけど遠慮してできなかった)

秋田料理のお店ではたはたを頼んだら子持ちのパンパンのぷりんぷりんの弾けそうな魚でとてもお箸で切ってシェアできるようなものではなく、齧っては渡し、齧っては渡し、と火垂るの墓?兄と妹?いやわたし実の弟ともこんなことよーせんわ、という行動をまったく気にせずしてしまう人。
ここだけ見ると普通に付き合ってるカップルだ。(2回目)


今までわたしのnoteを見てくれてる人がいたらここで気になるのは「ゴリラ問題」だろう。
相手から性的なものを感じた瞬間、途端に愛した人までもゴリラに見えてしまうというわたしの悲しい病気だ。

しかし彼はそういうものをそもそも感じさせる人ではなかった。ユニセックス、と言えばいいのだろうか。見た目は確かに男性なのだけれど、ふるまいがとにかく美しくて女性的。身体も、指先も本当に細くて、ささくれていない。持っているものも品があってシュッとしていた。いつも長めのパーマがかかった髪を耳にかけるしぐさは桑田佳祐もびっくりの美しい所作だった。(この曲がわかる人はなかなかのマニアだと思う)

だから彼がゴリラに見えることはなかったし、逆に性的な感情を(対リリーさんみたいに)抱くこともなかったのだと思う。

清水さんとの1番の思い出はわたしの誕生日。
会社で仲のいい人何人かでお金を出し合って、プレゼントを選んで買いに行ってくれたのが清水さんだったのだが、なんとそれが清水さんと色違いのストールだった。
何を買ってきたか知らなかった同僚たちも口をあんぐりしてびっくりしていたのだけれど、当の清水さんは

「おもちさんにはこの色だ!と思って、取り置きしてもらうのに電話したけどそのお店の人の声が小さくて聞こえなくて(笑)え?え?とか言って(笑)僕より小さい声の人初めてでした(笑)」

めっちゃ笑ってるけど問題はそこじゃない。絶対にそこじゃない。

仕事終わり、新宿からわざわざ恵比寿にシンガポール料理を食べに行って、ガーデンプレイス行ったことないんですよね~と話したら食後に散歩に連れて行ってくれたこともあった。
道中、ドキドキするわたしを尻目に清水さんはCSか何かで最近見たという「阿修羅のごとく」のいしだあゆみのモノマネをしながら爆笑していた。

ここだけ見ると普通に(略)


…なのだけれど、この恋は実ることはなかった。
理由は単純、わたしが彼にちゃんと「好きだ」という気持ちを伝えることができなかったのだ。

今になってこうして文字にすればわかる。脈はあったんじゃないか。今だからそう思う。
当時だって同じ職場の人に、ダブルワークしてた築地の店長に、幼馴染に、みんなに脈あるべよ~!と言われていた。わたしだって友達からこんな相談を受けたら

「はいはい(笑)そんなん脈あるに決まってるじゃん(笑)そう言ってほしいだけでしょ(笑)」

と返しただろう。


でもきっとわたしは当時に戻ったとしても思いは伝えられない。


理由はいつだって明白。わたしは、「わたし」を他人にお勧めすることはできないのだ。
見た目も、性格も、何もかも人にこれいいよ!と言えるようなものを持ってはいないから。

人に勧められない商品をどうぞ買ってください、とは言えないでしょう。そんな無責任なことはできない。それと同じ。
だからこの恋は実るものではなかった。はたはたを食べまわししても、同じコップのラッシーを飲んでも、色違いのストールを巻いても、夜の綺麗な恵比寿ガーデンプレイスに行っても、実るものではなかったのだ。


その時は、こんなにこの恋が尾を引くことになるとは思わなかった。
きっと新しい職場で、趣味や何かがきっかけで、なんなら寝坊してパンをくわえて家を飛び出し遅刻!遅刻!と全力で走っていれば曲がり角で、はたまたお隣さんがすごいイケメンで何度か顔合わせる度にひょんなことから家飲みなんかするようになって愚痴りあってるうちにいい関係になって。なんて出会いは簡単にあると思っていた。
自分の心だってこんなにも彼を引きずることはなく、新しい何かに向けられていつしか忘れゆくものだとばかり思っていた。だってこの世に男は35億もいるんだよ?


けど違ったのだ。
なぜなら、わたしは人生で清水さん以上に変わった人に出会うことが今までなかったから。

わたしの人生にはもう、昼食のあと嬉しそうに「キリスト教の恐すぎる拷問の話」とか、「連合赤軍の連続殺人事件の話」を話してくれる人はいない。
バレンタインのお返しに落雁をくれて「お盆の仏壇かよ!?」と思わせてくれたり、誕生日プレゼントをくれてウキウキしながら開けたら超絶シンプル・イズ・ベストな真っ白なメレンゲ菓子が入っていて「?」とフリーズさせてくれるような人はいない。


清水さんは、二度と出会えない唯一無二すぎる人だったのだ。
でも、今更気づいてももう遅い。


最後に清水さんを含めた前の会社の人たちと食事をしたとき、とうとう清水さんに彼女ができたことが判明した。そんな気配のある人ではなかったからみんな、清水さんがわたしに色違いのストールを買ってきてくれたときと同じくらい絶句して驚いた。
しかもその相手は、「なんで今更!?」と思うくらい昔から一緒に働いている人。思わずわたしはトイレに駆け込んだ。呼吸ができなくなったから。

わたしがきちんと気持ちを伝えていたなら。何か変わったのだろうか。わたしがその相手になれただろうか。
後から考えてももう遅かった。


『人生はタイミング次第』

皆さん、これを忘れずに生きてください。テトリスみたいにうまくハマりそうでハマらない形ばかりの人生。でもハマるときはさくっとハマる。

これを読んでいるあなたにはそのタイミングを見誤らないで欲しい。
同じブロックがまだ落ちてくるとは限らない。さっきまでものすごい嵌めやすいブロックばかり落ちてきて、一生懸命4列組み立てたところで長い棒ブロックを待ってるのに待てど暮らせど落ちてこなくなることがあるから。

どうかわたしのように、後悔してこじらせることがありませんように。
ブロックがハマらなかったならもうこれは縁がなかったんだなときっぱり忘れられますように。

あれから何年も経ってるのにリリさんが突然ブログ内でユダヤの話とか戦争の話とか持ち出したときとか、モリシが「学生運動か!?」ってツッコミ入れてみんながわ~っと笑ってるところに1人「清水さんとよくこんな話したな…元気かな…」と思い出して頭に縦線抱えてブルーになったりする人生を送ることがありませんように。


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