じいじが死んだ
今朝、母親からそう連絡があった。
父方の祖父であるじいじが腎臓を悪くしており入院していたが急に、ということだったらしい。
葬式はこちらでやるから帰省はしなくていいから、こちらが落ち着いたら帰ってきて、ということだった。帰省したほうがよいのではと言ったがそれでも落ち着いたらがいい、と頑くなだった。母方の祖父は20年以上前に他界していたため、これで僕の祖父は両方ともこの世を去ってしまった。父方の祖父は、家族にも親戚にもひどく嫌われていた。
じいじは僕の家族が住む敷地の中にあるはなれで暮らしていた。同じ敷地に住んでいるから、当然うちにも突然入ってくる。
晩ご飯を作っている時にバーや飲み屋に連れていけと車を出すよう要求したり、鶏肉嫌いな父親の前で生の鶏むね肉を醤油垂らして食べて、父親が激怒したり、そういうことをするじいじだった。
じいじのことは誰も何もわかることができなかったと思う。じいじは同じ敷地には住んでいたけど一緒に生活はしていなかった。よく一人で長い間生きれたなと思う。
僕は故郷を離れて10年以上経つ。家族からじいじがああだこうだと聞かされていたが、帰省してもじいじに実際会うことはなかった。
随分じいじと会話しておらず直近まで交流も無かったため、もはや嫌いとかそういう気持ちはじいじに対して持っていなかった。
タイミングの問題だろうか、それでも僕はじいじに会おうとは特に思わなかった。
じいじはどうだっただろうか。僕に会いたいとか思ったことはあったのだろうか。
じいじの訃報を聞き、今日はじいじのことを振り返っていた。
これといった良い思い出は無い。やたら騒いでたし。
家族にも誰にも話したことがない出来事がある。
中学生の多感な頃、頻繁に親と喧嘩して自室にこもっていたことがあった。思い込みが強いことがあるため、勝手に自己嫌悪に陥っていた記憶がある。とある時にそのようにしてご飯も食べずにひたすらこもっていた時に、二階の自室にじいじが入ってきた。
じいじの体は大きい。体重はきっと120キロくらいはあったんじゃないかと思う。
息を荒くして二階の僕の部屋まで入ってきて、ベッドに突っ伏してる僕の様子を「どうした」と言って見に来たのだ。音楽をイヤホンで聞いていたので、何を聞いてるかを聞かれて、イヤホンを渡し、その曲はBank Band with Salyuのto Uだった。じいじは「いい曲だな」と言って部屋から去っていった。
それくらいの大したことの無い、じいじとの出来事を特に今日一番に思い出していた。ただ暇だったから僕の顔を見に来たのかもしれないし、何か心配に思って部屋に入ってきたのかもわからないけれど、きっと僕はあの頃少しだけ安心したんじゃないかと思う。
家族に迷惑かけっぱなしだったけど、じいじってこうだったなぁと振り返る今後のために、それでもじいじの良い思い出を何とか記憶からほじくり出して、家族や親戚からは悪い思い出は嫌になるほど自動にドバドバ出てくると思うので、何とか、良いことは無かったか、この際そこまで良いことじゃなくてもいいから、ふわっと聞き出してみることにする。
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