見出し画像

ちえり奥様ストーリー【1】


「課長! いまお時間よろしいですか!」
 忙しい時に最近入社したばかりの部下が話しかけてきて、私は顔を引き攣らせないようにするのに苦労した。
 わからないことがあれば聞けと言ったのは私だ。変に遠慮されるよりはいい。
「ああ、少し待ってくれるかい? このメールだけ送ったら話を聞くから……」
 忘れないようにメモを取りながら、私はそう返す。
 そこに、後ろから声が飛んでくる。
「課長。社長が次の出張の件で確認したいことがあると……」
「……ああ、わかった。ありがとう」
 どうせ宿泊先をもっといいところにしたいだとか、手前勝手な話だろう。
(ああ、本当に面倒だ)
 時々何もかも放り出して滅茶苦茶にしたくなる。
 だけどそんなことは出来ない。
 生きていくためには、仕事をしなければならないのだから。
 四十代も終わりかけになって、ようやく課長というポストに就けたのに、それを手放すわけにはいかないのだ。
 しかし、上からは何かと便利使いされるし、下の方からも色々面倒が湧いて出て来る。
 板挟みにされた私には、ひたすらストレスが溜まっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?