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あやな奥様ストーリー【1】


 農家って聞くと、おおらかで穏やかで優しい爺さん婆さんを想像するかもしれないけれど、実際は割と何かと排他的で気難しい人の方が多い。
 少なくとも、自分の周りで農家をやってる人は皆そうだった。
 五十代の自分でさえ、その人たちに比べれば新参者であり、こっちが兼業であることもあってどこか侮られている節があった。
 悪気はなくてもやたらと干渉してくる人も多く、よく都会でいう「都会の喧騒に疲れたら、田舎でのんびり農業でも営んで自由に生きよう!」なんて文言には苦笑いしか浮かばない。
 兼業でしている家電修理の仕事の方が、依頼主からの干渉も少なく、よっぽど自由に感じるくらいだ。
 その日も自分は予定していた仕事を終え、事業所に車を戻して退社した。
「はー……疲れたぁ。でもまあ、時間が来れば終わるからほんといいわ……」
 大きく伸びをして、解放感に包まれる。
 今日は作業時間の兼ね合いで、想像以上に時間に余裕が出来ていた。
「……このままとんぼ返りするのも、交通費がもったいないからな」
 そう考えた自分は、町でしか出来ないことをしてから帰ることにした。
 まずはネカフェに入り、情報を収集すると共に、軽くシャワーで汗を洗い流した。
 自分ももう五十代で若くない。加齢臭もするだろう。
 どうせシャワーは浴びるとはいえ、相手を不快にさせないために事前のシャワーは必要なことだった。
「さて今日は……誰にしようかな」
 相手の都合もあるから、必ずその人を選べるとは限らない。
 けれどその日は、偶然その人が空いている日だった。すぐに予約を取る。

 目的の人――あやなさんと会えることが決まり、自分のテンションはうなぎのぼりに上がっていった。

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