耳鼻科医との話

泣くだけ泣いたら、なんだかスッキリした。帰宅した時、無邪気に笑顔で迎えてくれた娘のおかげかもしれない。あとはもう、覚悟を決めるだけだった。

パパとママが、すべてのものからあなたを守ってあげる。強くなってみせるよ。だから、大丈夫。

穏やかな寝顔に誓った。

心持ちはそれで良いとして、現実問題、大きくなってからも親がすべてのものから守るのは無理な話。いかに息子を自立させるかを考えなくてはならない。良い教育を授け、自分で物事を判断できるようになること。困難にぶつかった時、最初から諦めるのではなく、「どうしたらできるか」を考えられる人になること。

教育に関するあれこれは、また別途記述しようと思う。

NICUの担当医師にお願いした耳鼻科医とのコンサルは、なかなか実現しなかった。忙しい大学病院なので無理もないが、じりじりした思いが募る。何度もプッシュした。

息子の面会に訪れていたところ、看護師さんから「今から話聞けるかもしれない」と声をかけられた。本当ならば夫婦揃って聞きたかったけれど、一刻も早い方がいい。急遽私一人で聞くことになった。カウンセリングルームの空きがなく、NICUの中で話が始まった。

耳鼻科の先生は、とても丁寧で穏やかな方だった。まずは、模型を使って耳の構造について(生物の授業以来)、そのあとCT画像を見ながら説明してくれた。

「担当のM先生から聞いてると思いますが、息子さんの内耳はかなりしっかりしてますよ。蝸牛といってこのグルグルしてるところね、2回転半してる必要があるんですが、ほぼ完璧に巻いてるように見えます。耳小骨3つについては、1つははっきり写ってますね。他の2つはボンヤリしてますが、新生児の耳小骨はあまりに小さくて写らないことが多いので、気にしなくて大丈夫です。三半規管もね、3つちゃんと山が見えますから、かなりいいですよ。中耳もしっかり鼓室の空間が見えているので、問題なさそうですね」と。

え?

え、え?

聞こえるの?

立てるの?

大丈夫なの?

先日のフィードバックとあまりに真逆の内容で、混乱した。悪い話が続いたので、この話を本当に信じていいのか、判断がつかなかった。

「骨導の補聴器をすれば、おそらく聞こえるはずですよ。それにはもっと詳しい検査が必要なのですが、うちの病院ではこれ以上できることがありません。小児耳鼻科の専門医がいる病院を紹介します。小耳症がありますから、形成外科についても受診が必要ですね。小児耳鼻科と同じ病院でもいいし、東大病院でも良いと思っています。耳の再建手術の職人集団みたいな先生たちがいますから」と言われた。

紹介状の手配をお願いして、コンサルは終了した。先生を見送ってから、ボロボロと涙が溢れてきた。

NICUのど真ん中で話していたため、内容は周囲の看護師さんたちにもまる聞こえだったはずだ。おもむろに泣き出した私に、一番ベテランの看護師さんがそっと声をかけてくれた。

「ママ、先生の話聞いて、どう感じた?」

いやもうマジでぶっ飛ばすよ、M先生!!

なんで「内耳も全然ダメ」なんて誤情報流したのかしら?もー謎すぎるし、あの時の私たちの絶望感とこの数日のガタガタのメンタルどうしてくれんのよ?こんにゃろー!!!

という思いが胸中吹き荒れていたが、そんなこと看護師さんに伝えるわけにもいかず、この涙は嬉し涙だと伝えると、一緒に喜んでくれた。息子の担当看護師さんが、涙と鼻水でグチャグチャの私にサッとティッシュ箱を差し出してくれた。看護師さんたちの心温まる対応には、入院中何度も救われた。

このうれしすぎて衝撃的すぎる内容を早く伝えたくて、仕事中の夫に電話した。

「え?本当に?聞こえるって?」

電話の向こうでへなへなと力が抜けている様子が伝わってきた。声がかすれ、泣いているようだった。夫に共有してようやく、圧倒的な安堵に包まれた。出産して1週間経ったこの日、ようやく光が見えた。


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