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モリッシー

モリッシーが枯れてしまった。

モリッシーというのは、上京してすぐに買った観葉植物のことだ。
こっちに越してきてすぐ、友達と近所の古着屋に行き、そこで気に入ってエバーフレッシュという種類の植物を買った。
陶器の鉢が割れないように、細い幹が折れないように慎重に歩いて持って帰ったのを覚えている。

それから約2年、想像以上にぐんぐん大きくなり、二回目の鉢の植え替えをしたタイミングだった。

なぜ枯れたかは分からないけど、きっと植え替えるのが遅くなってしまって根腐れを起こしてしまったのだろう。

モリッシーというのはイギリスのバンドThe Smithsのボーカルの名前だ。
The Smithsというバンド名の由来は、当時イギリスではSmithという男性の名前が一番多かったらしく「そういうその他大勢とされている人間が立ち上がるべきだ」という意思を込めて付けられたらしい。
バンド名に複数形のsがつけられているのも好きだ。
The Smithsのネガティブな歌詞とモリッシーの悲痛さを伴う声が好きで、観葉植物に彼の名前をつけた。
一緒に古着屋に行った友達に「今の無名の状態からなんかデカくなるぞ〜」とか腑抜けた冗談をシラフで言ったのを思い出す。

形あるものはすべて壊れる。分かってはいるけれど、ずっと一緒にいてほしかったなとか、植物が枯れるって何かの暗示なのかなとか、植物一つまともに育てられないのに将来子どもとかペットとか育てられるはずがないとか考えてしまう。
何も関係ないって、分かってはいるけれど。

人はいつか私の元を離れる。上京してきて二人の人と付き合って別れたけれど植物はいなくならなくて、こいつは私がここに帰ってきて水をあげなきゃ生きていけないんだと思うと私はここに居ていい気がした。
東京という誰がどこへ消えてもどうでもいいような場所で、私を唯一必要としているもの。
コンクリートジャングルで、ペットも飼えないようなアパートで、唯一存在が許されている生命。

しばらく家にいるとほんの少し悲しいかもしれない。いや、別にけろっとしているかもしれない。
モリッシーがかつて据わっていた鉢には別の植物が植えられているわけだし。

ただ、今はなんだか悲しくて、滅多に聴かないプレイリストを流した。

私がいつかのために作っているそのプレイリストも今はまだ私のためだけでしかなくて、もうモリッシーに聴かせることもできない。

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