トクサツガガガドラマ第7話感想

先日の土曜日ようやく最終回の7話が放送。原作でまだ決着がついていない問題であることやなしくずしな和解が相応しく事を考えればこの一話分でまとめるに辺り納得のラストだったと思います。以後ネタバレ感想です。

■移ろいゆく心

前回の母親との喧嘩別れから徐々に周囲の仲間たちともぎくしゃくしだす仲村。特にダミアンとの仲違いが辛い。大人の私には仲村の気持ちが嫌になるほど分かるけれど子どものダミアンの立場からすれば納得できませんよね。でも、他人の親御さんに「特撮辞めさせないでください」とは説得できないですよ(辛い)。

ダミアンの描写は大人の圧倒的力の前にあまりにも無力な子どもの姿を残酷なまでに示しておりこれも後の伏線と言えます。形は違えど仲村も経験して来た親からの圧政の歴史をまた繰り返してしまうかもしれない悲劇です。

しかし、北代さんが吉田さんとのいざこざを仲裁し、仲村兄が仲村に「エマージェイソン」のVHSビデオ(DVDじゃないよ!)を渡したりする中変わりいく心の中で変わらずにあるものを仲村は徐々に思い出していきます。

■「スキ」はなくならない

小学生の頃母親から特撮を止められたのをきっかけに何となく特撮を離れていた仲村。それなりに社交性もあり女の子らしい付き合いも卒なくしていた為すっかり昔のことといった感じになっていたんですよね。

しかし古びたビデオ屋で偶然手にした「エマージェイソン」最終回のVHSビデオを鑑賞した瞬間かつてあった「スキ」という気持ちが甦ってしまいます。

ガガガは本当に劇中劇と登場人物との気持ちをシンクロさせるのが上手なんですが、今回は「エマージェイソン」の内容とシンクロしてます。元々悪の組織によって作られたロボットであったエマージェイソンは深手を負いいつ暴走してもおかしくないピンチに陥ります。修理も難しいという事で自ら消えようとするのですがそんなエマージェイソンに子どもたちは一からやり直すことを提案します。

リセットすればこれまでのエマージェイソンの記憶は失われてしまうかもしれない。でも具体的な思い出は消えてもみながエマージェイソンを好きだったこと、エマージェイソンが子たちを大切に思っていた事実は決しては消えないのだと、物語は訴えます。

「エマージェイソン」は作中で仲村が子どもの頃と、高校生になってビデオ屋のビデオを見た時、そして大人の今と3つの世代で視聴している様子が描かれます。そして、どの時代の仲村も同じ顔で食い入るようにTVを見つめているのです。立場も状況も違うけどエマージェイソンを好きな気持ちはいつでも変わらない。そう言っているかのようです。

それに気がついた仲村はダミアンの元に走ります。今はまだ親に勝てないかもしれないけれど、どんなに止められても心の中に残る「スキ」を誰も取り上げることはできない。そして今は勝てない親とも大きくなれば戦うことができる日も来るかもしれない。その時に「スキ」を大切にする気持ちはずっと心の中にあって自分たちを励ましてくれるのだと。そういう事を伝えたかったのだと思います。

オタクごとに限らず自分の思うように生きられれないあらゆる人たちへの応援メッセージともいますね。

■誰の心にも偏見はある

ところで、この物語の一番秀逸だなと思うところはオタクというジャンルに偏らずありとあらゆる世界に属する人たちにそれぞれのこだわりがあるという事を気づかせてくれることです。単純なオタク万歳って話ではないのです。

ドラマ版では尺の都合でそこまで登場しないですが、いわゆるオタクでない人たちの価値観に関する話も原作ではもっと登場します。ドラマで言えばチャラ彦がオタクにとっての難敵であると同時に、要所要所でその世俗的知恵を持って思わぬ活躍をしたりするそういうシーンです。

オタクがその「スキ」を知らない人たちから迫害されることもあるように逆にオタクたちが一般の人たちに対して我知らぬあざけりのまなざしを向けていることもある。実際に仲村も「こんな事して何が楽しいの?」(例:自撮りや、週末のカフェ巡りなどのリア充行事)と思うこともしばしばなのですが、そういった一般的趣味を楽しむ人たちにもちゃんとそれぞれのこだわりがあり大切な「スキ」の一つであると気づきを与えてくれるのです。

今回の最終回でも私たちに物語は一つの問題定義をします。それは母親が仲村の「スキ」を理解しなかったのと同時に仲村にも母親の「スキ」を理解していなかったのではないかということです。

母親は年の割には少し少女趣味で女の子全開の小物や服が好きです。だからこそ家族の中でただ一人の女性である仲村とその趣味を共有したいという欲望を持っていました。これは仲村が「同じ特オタの仲間を持ちたい」と思うのと根底は一緒です。

もちろん母親には「親」という強大な力がありなおかつ子どもを育て導く役割があるので単なる友達である特オタ仲間とは単純比較はできません。いかに母親の希望を無視したからとて子どもに自分の趣味を強要する理由にはならないしそこは同情はしないのですが……。

ただ、この問題定義が成された時私はちょっとショックを受けました。あれほど前回の感想で外的価値観による判断は良くないと自分で言ってきたのにどこかで仲村の母親の趣味を年甲斐もない少女趣味だと少し馬鹿にしている自分に気がついたからですね。これでは「女の子らしくないから特撮などやめろ」という理論と同じではないですか。どちらがいいとか悪いとかそういう事ではないはずなのにそれは分かっていたはずなのに。理解できない事を受け入れる難しさと知らず知らずの偏見というものを突き付けられた思いです。

上記にある前回の感想で私は仲村の母親は「スキ」を捨てた女だと書いていますがそれは正確じゃなかったですね。最終回でも語られるように「スキ」は捨てられません。生活や子どもたちの為にあらゆるものを捨ててきた仲村母の中に捨てきれず残っていた「スキ」があの少女趣味であるということは仲村母が母親としては最悪の子育てをしてきたという事とはまた別の話として大切に考えなきゃいけないのです。だって今仲村と仲村母は親子という関係をいったん脱ぎ捨てて一対一の大人として対峙しているのですから。

仲村は単純に私も母親にひどい事をしてしまったとと後悔しているというより自分の中にも確かにある理解できないものを拒もうとする心にショックを受けたんだと思いますよ。だからこそそんな偏見を乗り越える為母親の好きな可愛いぬいぐるみを贈ったのです。

あのラストは単純に仲直りしてめでたしめでたし~というのはでなくお互いの本質をまず知った、というシーンなんですよね多分。新しい関係の始まりにしかすぎない。

どうやらここら辺原作とは微妙に違うらしいと噂で聞くのですがもう一話しかないし原作の結論が出ていない以上あとはご想像にお任せしますなこのラストで良かったです。母親も歩み寄ろうとしているという描写が少し入ったので後味も悪くないですし(だからといって即謝ったりとか具体的なアレコレは一切描かれないのでこの後どうなるのか分からないところも良いと思う。万一また決裂してもそれはそれという意味で)。

■「スキ」ではないものへの対し方

大切な事は皆特撮が教えてくれた―――物語中仲村がそう言うようにトクサツガガガにおいては大切なメッセージは劇中劇の特撮に込められていることが多いです。

「エマージェイソン」中でエマージェイソンを慕う子どもたちはロボットが皆悪い事をするわけではないという事を大人にも伝えて意地悪をしないように頼んでみると言います。知らない事実を伝えることで誤解を解こうというのです。これは今後の仲村の人間関係を解決していくうえでの重要な示唆です。

皆知らない世界だから怖れ何となく不気味に思ってしまう。蓋を開けて見ればただ好きなものを愛でているだけなのに客観的にはどうにも理解しがたい。そんな事をほんの少しだけ開示して歩み寄れるところだけ歩み寄って行こう。歩み寄りきれないところはスルーしながら共存共栄しよう。ガガガの目指すのはそういう世界です。

この物語では本当にありとあらゆる「スキ」と「価値観」が提示されこんなものをもあるんだよと見せてきますが決して強要はしません。ただそこにあることを認めてほしい、それだけでいいんです。

主人公が「隠れオタ」であるという設定もそうです。世の中以前と比べると大分オープンになってきたので、若い世代でそれが当たり前って人にとっては何でこんなに執拗にかくれようとするのか理解できないっていう意見も放送中結構見受けられたんですけどね。人にはそれぞれの事情があるんですという解説オーラを物語からビシビシ感じましたよ。オープンな人はオープンな人でいいから隠れを責めないでください。オープンな人たちはたまたまそれが許される環境しか知らずに生きてきたというだけなので。本当にお願いしますという気持ちです(もちろん北代さんの例を見ればわかるようにこれはお互いさまな所もありますが)。

文化の違う相手を知ることは大切なのですがそれで理解した気持ちになって下手に近づくことで相手を傷つけてしまう事があるのです。すべての人間と分かりあうことの不可能もこの作品は示唆しています。

人はつい分かりあえない人にもそれぞれの大切なものがありそれは不用意に犯していいものではないということを忘れてしまいます。自分の常識を正義として異なるものを排除しようとしてしまうのです。自分の知らないものや理解の及ばないものに激しい忌避を覚えがちな人間はこの事を常に心の中に自戒として意識すべきなのかもしれないですね。

■その他

全体的に普段の話より落ち着いたトーンの最終回だったのでどうしても真面目な感想に終始してしまうのですが、それでも最後の「非現実甥作戦」とか笑いどころもありもっともっとこういう面白エピソードも見たかったなー! という思いでいっぱいです(もうちょっと年取って吉田さんくらいになると「非現実息子作戦」もできるよ……)。

全7話って短すぎますよね。原作の仲村VS母親の決着がついた以後にそこら辺も絡めて二期やって欲しいです。オタクあるあるエピソードだけの話じゃないとはいえそこも面白いからもっともっと見たかったという欲張りな希望。

何にせよ、遊び心と本気の作り込み満載で楽しいドラマでした。

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