【超短編小説】夢の機械とサポーター
カタカタカタカタ…………。
灯りが消えた仕事場で一人、画面に向かう姿がある。
(は~あぁぁぁ……まーたあのSEがコメント残してバグ散らかしてやがる)
田中諒。彼はSEのリーダー格として新たな開発現場へと放り出された。
現在叶いもしない128ビットの高性能ゲーム機の開発を任されている一人だ。
(だいたい、俺一人に任せて定時で帰ってんのヤってるだろ……マジで)
その時、首筋に温かいものが触れる感触があった。
「っ!?」
「はーあ……まーた照明消してやってる」
「……松浦サン」
松浦春香。事務の管理下に置かれている人だ。どうやら見回りに来たみたいで……集中して気が付かなかった。
「残業するのはホドホドにしないとね、怒られちゃうよ」
「……でも、こーでもしねえと終わんねえんですよ」
はあ、と大きな息を吐いて松浦さんは放つ。
「まずいつ終わるかもわからないプロジェクトに手突っ込まれて毎日残業するほうが心配なんですけど」
「……ま、それは確かに言えてますけど」
いわゆる眼高手低、ってやつか。
何にも実績もない会社のくせに……新しいハードとか開発したいとか。俺も最初は異論唱えたけどヒラ同然の立ち位置になっちまった俺にとっては拒否権なんかなくて。
(……って言っても、やるだけやってりゃ文句も言われねーし……)
「田中さーん、聞いてます?」
むっとコーヒーを首にくっつける松浦さんがこちらをにらみつける。
「へいへい、聞いてますよ」
押し付けてくる飲み物をぱっと手に取ると、また画面とにらめっこを始める。
……正直これが何のためになるかわかんねえけど、どうせ俺がしないと……。
「ほーらー、帰りますよ」
「わっ、ぶ」
背後から目元をメガネ越しにふさがれる。
いつもデスクワークで冷えた目元にあたたかな感触が……じゃなくって。
「あの、俺仕事しなきゃいけないんで帰ってもらえませんか」
「ダメです」
……どうしても残業は許してくれないらしい。困ったな……。
「……じゃあ、どうしてもってんなら帰りますけど、ここの//で指示されてるところまではやらせてほしいです」
「ふーん、それまであとどのくらい?」
「軽く見積もって45分くらいっす」
「……いや、長いと思うんだけどなあ?」
時計の針は21時を回っていた。まあ、ここからが正念場っていった感じなんだけどな。
……どうしても彼女が帰ってほしいというのなら、見返りがあるのなら帰ってもいいが。
「すぐ終わらせますんで、先に帰っててください」
「だーめ」
「……っ」
やけに甘ったるいにおいがすると思ったら、腕を強引に引っ張っていた。
そこまで強引にするなら、こちらも強行手段を……。
「松浦さん、なら俺に奢ってもらえます?これから買い出しに行こうとしたところなんで」
かなり無茶を言った気がするが、彼女はなぜか目を煌めかせている……。
「えっ、いいんですか!? SEさんのお話聞かせてください!」
「は、えぇ……」
「近くの居酒屋でよければぜひ……!」
なんだか思った反応と違ったが、これはこれで違った展開になりそうだ……。と期待を胸に膨らませたところで、俺は機械の夢から目を覚ました。
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