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バクと布団

「自分の動物」を選ぶとしたら、私はバクを選ぶ。

バクは、その見た目の様子から好きというよりは、意味づけも含めて好きになっていった動物だった。

我が家では、それぞれのトレードマークとなる動物がなんとなく決まっている。
寅年の妹はトラ猫。未年の両親はヒツジ。夫は実家で飼っていた巨大な猫が元になって白猫。「○○ぞう」という名前だった叔父は、もはやダジャレみたいだけど、象がトレードマークだった(ぴったりだった)。

私は亥年だけれど、スタイルの良い従兄妹達に囲まれた環境で背が低くてぽっちゃりの自分が「子豚ちゃん」と呼ばれることが実は子供のころ悲しくて、豚に似た猪が自分の干支であることがそれを運命付けている気がして・・・好きになれなかった。
それで、昔から好きだった犬、プードルがなんとなくトレードマーク。でも本当はもっと自分にしっくり来る動物がいるんじゃないか、そう思ってずっと探していた。(これは、ありもしない「本当の自分」を探す旅に似ているかもしれない)

他の動物といえば、私は名前を「荘子」と書くものだから、中国の荘子(そうし)の「胡蝶の夢」にかけて、蝶々のモチーフのものがあると「これはあなた向きね」なんて言われてきた。

でも、蝶々に抱く可憐なイメージと自分自身がしっくりこなくて(単純に好みではなかったというのもある)、私っぽい動物ってなんだろう?というのをずっとずっと決めたかった。自分でも「わたしらしい」と思える動物に出会いたかった。

それは、自分の個性や特徴をはっきりと言える、自分に自信が持てるのと同じ意味があるような気がしていた。

学生の頃、横浜の大きな動物園「ズーラシア」に行って、初めて間近にマレーバクを見た。
物静かだけど、どこか愛嬌がある。
ものすごい人気者かと言われれば、そうではないらしい。けれど存在感がある。
周りの視線など気に留めず、ただひたすらマイペースに草を食んでいる。
その姿に惹きつけられて、長いこと黙って眺めていた。

バクと同じ音の「獏」は龍と同じく中国の伝説上の生き物。
悪い夢を食べてくれるとされる。
「荘子」の影響ではないけれど、眠ることは昔からすごく好きだ。
もしかしたら名前に縛られているところもあるのかもしれない。
でもそんなことはどうでもよかった。

バクと出会って、やっと居場所を見つけられた気がした。


動物園の売店では「ゆめばくら」という夢枕獏さんをもじったかのような抱き枕が売られていた。形はもちろんマレーバク。
ぬいぐるみやクッションといった綿の入った品物は埃のことが気になって、将来磨耗して別れる時のことを想像して辛くなるので極力手元に置かないことにしている。
でもこれはすごく欲しい・・・。どうしたものか。
そんな風に迷って見ていたら彼氏が買ってくれた。
それ以来、彼の家にはずっとそのバクの抱き枕がいる。


好きな男性のタイプを聞かれるとふかふかで清潔な布団のような男と答えていた。
安眠をもたらしてくれる人が好きだ。

バクとその飼い主がいる布団。おかげで今宵も私は安心して眠れる。

結局バクは私のトレードマークにはならなかったけれど、お守りのような存在になった。

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