毒を吐く その17 恥をかくか、馬鹿をやるか
ある日、買い物にスーパーマーケットに行き、支払いを済ませたら、出口付近で、酢漬け生姜メーカーのピンク色の着ぐるみと、お菓子メーカーの黄色の着ぐるみがコラボします!というアナウンス(ちゃんと固有名詞で)があった。販促である。
当然、親子連れの買い物客がターゲットで、着ぐるみ二体の間に子供が立ち、親が携帯写真を撮れる企画である。子供さんはそのお菓子を欲しがるだろうし、親世代には酢漬け生姜の生産者名が記憶に残るだろう。
始まったばかりで、酢漬け生姜メーカーの担当者が、着ぐるみ二体が並んでいるところを携帯で撮っていた。多分社内報告用だろう。
誰もまだ並んでいない。お子さん連れを待たせず、尚且つ、おば(あ)さんが単独で愛らしい着ぐるみ二体の間に立つというグロテスクな情景を見る人の数が最小であることを確認し、速足で担当者に近づき、「外国人の友人に送信したいので、写真を撮ってもらえないだろうか。」と尋ねた。流石、営業担当、如才なく、「いいですよ。」と応じてくださった。着ぐるみの高さに合わせ膝をぐっと屈め、普段絶対しない右手でVサインをして写真に納まった。担当者には、「友だちが大笑いすると思います。ありがとうございました。」と丁寧にお礼を言った。
帰宅して、確認すると、着ぐるみは物凄く頭でっかちで、胴体が丸々して、脚が極端に短い(可愛らしさの強調)が、膝を屈め、しかも担当者が上方向から写したので、間に入ったわたしも体型がそっくりで、色こそ違え、まるで三つ子のようだ。
最近嫌なことがあって落ち込んでいたドイツの友人に、「三つ子」の写真をアプリを利用して送信し、バックグラウンドの説明のため、時差をよく考えた上で電話したところ、爆笑した。意図通りである。
味を占めて、別のアプリやメールを通じて、友人家族親戚にも流布した。呆れた人、内心はどうあれ、キュートとか可愛いと言ってくれた人、色々であった。
正直、恥ずかしい事だとは思うが、なになに、案外本人が思うほど、他人はわたしなぞ見ていない。勿論、親子連れ向けの企画で、対象者が並んでいたら、邪魔はしない。でも、この年齢になると、迷惑はかけてはいけないが、そろそろ人生の恥はかき捨ての気配も漂ってきている。友人の元気づけになったんだし。
次回の買い物では、着ぐるみが販促していたお菓子と酢漬け生姜を購入せねば!