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誘いに来たのは誰? 怪談・逢魔が時物語「飲みに行こう」

昔、あるバス会社で「バスガイド」をしていた。

行楽シーズンにはよく宿泊旅行の添乗をする。
その日の一泊旅行は、神奈川県のY温泉。

予定通り観光を済ませ、早目にお客さんは
ホテル入った。
私はバスの中の掃除をして、宿泊場所へ向かった。

乗務員はお客さんと同じホテルに宿泊することが
多いが、大きなホテルになると乗務員専用の宿舎
がある。

その日は、古くさい乗務員宿舎に案内された。
玄関を入ると真っ直ぐに廊下があり、正面には
小さな窓がある。

その窓に向かって伸びる廊下は、どんなに静かに
歩いてもミシミシギギシと軋み音がする。

その廊下に沿って、両脇にアパートのように
部屋が並んでいる。
私の部屋は右側のいちばん奥。

向かい側は部屋ではなく壁で、なんだかうら寂しい
感じだった。
運転手は3つ離れた部屋に。

荷物を置いて、夕食のためホテルへ運転手と向かった。
お父さんみたいな優しい運転手だったので、
楽しい食事だった。

食事の後、飲みに誘われたが、眠かったので
それは断った。
部屋に戻ってテレビをつけ、ベッドに倒れ込んだ。

しばらくすると……コンコンコン!
すごく力強く、ドアがノックされた。

運転手がまた誘いに来たのかと思った。
「はーい」と返事をしながら、すぐドアを開ける。


ところが……誰もいない。


部屋は狭いので、ドアを開けるまで数秒で事足りる。
廊下はシーンと静まり返り、人の気配などどこにも
なかった。

廊下は人が歩くとギシギシと派手に鳴る。
もし、人が来たり去っていくならわかるはず。
 
まったく軋み音はしなかった。
もう怖くて怖くて、テレビを点けっ放しでそのまま
布団を被って眠った。

翌朝、恐る恐る運転手に、誘いに来たのか訊いてみた。
当然のごとく、「いや、そのまま飲みに行ったよ」
とのことだった。



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        ・投稿 シングルママさん(女性)

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