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存在感の薄い子だった。泣ける怪談「一日だけの親友」

小学校低学年の頃、僕に親友ができた。

ただ、その友達とはたった一日だけの「親友」
だった。

思えば、親友とは出会いからして不思議だった。

当時、僕は近所の少年たちといつも一緒に
遊んでいた。
缶蹴り、鬼ごっこ、ボール投げなど昔の遊びである。

その日も、みんなが集まるいつもの野っぱらに
出かけた。
ところが、その日に限って誰も来ていない。

僕は一人だったので、バッタを追いかけたり、
四つ葉のクローバーを探したりしていた。

(つまんないなぁ……みんな、遅いなぁ……)

そんなことを思いながら、一人で遊んでいた。

すると、少し離れたところから、誰かが僕の姿を
見詰めている。
なんとなく視線を感じて顔を上げた。

一つか二つ、僕より年上らしき少年がいた。
何も言わず、ただ黙って笑みだけを浮かべて
こちらを見ている。

(あ、この人、どこかで見たことあるかも……)

初めて見る顔だったのに、そんな印象があった。
しかし、どう思い出そうとしても思い出せない。

その少年はカゲロウのように存在感が薄かった。
いつも遊ぶ友達たちと比べて、生気がない。
病み上がりなのかも知れないと、勝手に解釈した。

いつしか僕とその少年は一緒に遊び始めていた。

決して僕からも、少年からも声をかけた記憶はない。
自然と、そうなるのが当たり前のように遊んでいた。

彼との遊びはとても新鮮だった。
いつもとは違う楽しさがあった。

ほとんど話はせず、黙々と遊んだ。
しばらく遊んだ後、家に来ないかと誘ってくれた。

彼の家は信じられないほど近くにあった。

ただ、通りから入り組んでいて、滅多なことでは
行かない場所。

こんな所に、見知らぬ少年が住んでいたんだ、
と思った。

彼の家には誰もいなかった。
親は出ているのか、彼が冷蔵庫からお茶を
出してくれた。

お茶を飲みながらおやつを食べる間も、
ほとんどしゃべらなかった。
それでもすごく居心地はよかった。

その後、また二人で野っぱらに遊びに出かけた。
不思議なことに、やはり誰も遊びに来ていない。

二人は陽が落ちるまで遊んだ。
楽しくて楽しくて、時間を忘れた。

僕は彼に、まるで親友のような親しみを感じていた。
しかし、僕には哀しいような直感があった。


もう二度と、彼とは会えないのではないか、
という・・・。


そして、その直感は当たっていたことになる。

陽が暮れて、「じゃぁ、またね」と彼と別れた。
僕は野っぱらに立ったまま、彼の姿を見送った。

彼は時折りこっちを振り返り、胸の前で小さく
手を振ってくれた。

彼の姿が野っぱらの向こうに消えた。
僕は今まで感じたことのないような寂しさ、
切なさを覚えた。

その後、毎日のように野っぱらに行った。
いつもの遊び友達が、いつものように三々五々
集まって来る。

しかし、二度と彼と再会することはなかった。
何度も、彼の家に誘いに行こうかと思ったが、
なぜか行かなかった。

というか、行ってはいけないような気がした。

         ●

数年が経った。
僕たちはもう少年とは言えない歳になっていた。
もう誰も野っぱらで遊ばなくなっていた。

ある日、ふと少年のことを思い出した。
懐かしいような、どこか甘酸っぱいような……。

あの日の少年に、もう一度逢ってみたいと思った。
いや、逢いたいというより、興味が湧いた。

彼はどうしているのだろう、今でもあの家に
住んでいるのだろうか。

思い切って家を訪ねてみようと思った。
当時の記憶をたどって、迷い迷いしながら
彼の家を探す。

やっと記憶に残る場所にたどり着いた。
ところが、そこには永く人の住んでいない空き家が
あるだけ。

外観からも数十年もの間、打ち捨てられたような
廃屋だった。

あの少年は、いったい誰だったのだろう。
そして、あの「記憶」とは……。


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          ・投稿 S・Nさん(男性)


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