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バス停に客がいる? 怪談・逢魔が時物語「つぎ停まります」

彼は一時、路線バスの運転手をしていた。

ある夏、彼と食事に行った友人は奇妙な話を聞いた。
彼がバス運転手をやめる原因になった話だ。

「大型の免許を持ってるのに、なんでバスの運転手
 をやめちゃったの?」

「いや、いろいろ変なことがあって、疲れちゃった
 というか……」

「へえ、何があったの?」
 しつこく訊くと、彼はしばらく口をつぐんだ。

「やっぱ、人間関係?」

「いや、そうじゃない。
……じつは『見え』ちゃうんだよ」

「何が?」

そう畳みかけると、やっと重い口を開いた。

「夜遅く路線バスを運転してるとね、
 バス停に、お客さんが待ってるんだよ」

「そりゃ、乗るためだからね」

「それでバスを停めて、乗車口を開けて待っても、
 乗らないんだよね、誰も……」

「はぁ?」

「でね、バスの中のお客さんが言うんだよ。
『運転手さん、どうしたのぉ、誰もいないよ!』
 って」

話がどうも怪談めいてくる。

「でもね、俺にはちゃんと見えてんだよ。
 バス停に待っている客が……」

「…………?」

「そんなことが度々続くから、神経がおかしく
 なっちゃいそうだったので、退職したんだよ」

退職の理由はわかったが、友人にはまだよく
理解できなかった。

「そうだったんだ……でも、もう見えなくなった
 んだろ?」


「いや……それが、たまにこの辺でも……」


友人と一緒に歩きながら、彼はちらっと横を向く。
彼の視線の先には。

階段状に無数に林立する墓があった。



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       ・投稿 ゴリラさん(男性・福井県)

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