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廃屋に散乱する異物。怪談・逢魔が時物語「長屋門の屋敷」

「村の奥にある大きな廃屋に行ってみないか?」

友人からドキドキする誘いを受けた。
小学生低学年だった私は興味津々だった。

その廃屋は山梨県の某村にある。
懐中電灯や護身用にパイプを持って、何人かで
出陣することに。

友人は気合が入っているのか、特大の肩掛けライト
を持ってきた。
我々は農道に自転車を停めた。

土曜の昼下がりなので、他所の小学生や中学生たち
も何組か来ている。
それほどここは有名になっていたのだ。

まず、寂れた長屋門を潜ると屋敷の中に墓があった。
昔は屋敷の庭に墓を作る家もあったようだが、
古びたそれは不気味だった。

雑草や藪で埋もれた縁側も陰気そのもの。
玄関は三メートルもの間口があり、二階建てだった。

どの部屋も荒れており、漆喰が無残に剥がれ落ち
ている。

他の連中は母屋の一階にいた。
台所や奥にある寝室、納戸をライトを使って探検
しているようだった。

我々は広い裏庭にある土蔵に入った。
中は蔓草が絡まり、昔の農機具や桶が散乱している。
私が土蔵の二階へ上がろうとしていたときだった。

「おい、ここはやめよう! 出るぞ!」

切羽詰まった様子で、何かを見詰めながら友人が
叫んだ。


友人が見詰めているのは、大量の女の髪の毛だった。


床におびただしく散乱している。
さらに壁には褐色に変色した古い血らしきモノが
こびりついていた。

ゾッとして、我々は母屋へと逃げ出した。
母屋の中学生グループの中に先輩がいた。

先輩に土蔵の話したところ、中学生グループも
探検したことがあるという。
得体の知れない不気味さにすぐ逃げ出したらしい。

先輩は母屋の二階にある鏡台がヤバイとも話した。
すると、それを聞いていた他校のグループが
その鏡台を知っているという。

鏡台には赤い布がかけられ、和服の女が悲しげに
映るという噂があるらしい。

それを見た者は災いを受けるといわれ、
先輩は絶対二階に上がらないようきつく注意した。
また、一階の仏間にある仏壇にも触れぬようにと。

じつは、私はこの仏壇が開いていたのを見ている。

仏壇の中には、お経を書いた古い紙の束が置かれ
ていた。

仏間の床は抜けており、青竹がそこから伸びて
天井を貫いていた。

床にはボロボロの手紙が散乱し、破れた障子紙が
どこから入る風にフルフルと揺れていた。

そんなことを思い出していると、いちばん奥まで
入っていた連中が戻って来た。

奥の廊下で、数人の女のグループに出会ったという。
ただ、誰も女のグループなど見ていない。
後でやって来て、探検に加わったとも思えなかった。

しかも、その女たちはみな大人で、
生気のない顔をして、無言で立っていたというのだ。

それを聞いて、勘が鋭い先輩が、全員にここを
早く出るよう警告した。
我々も走って自転車を停めたところへ戻る。

風も無いのに、なぜか自転車はすべて倒れていた。

       投稿 うなぎ犬さん(男性・山梨県)



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