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気配の無いヤツが来た。怪談・逢魔が時物語「やられた」

「妻と結婚して初めて住んだアパートはね、
 小田急線のS駅から歩いて七分ぐらいの
 ところでした」

ヒロさんの話によると、そのアパートで異様な声
がしたという。

住んだアパートはけっこう古かった。
結婚当初は給料も安かったので、そこが精いっぱい
だった。

交通至便のせいか、アパートの部屋は満室だった。
お年寄り夫婦から独身者、若い夫婦まで、
さまざまな住人が入居していた。

住んでからわかったことだが、私たちのちょうど
真上の部屋は、生まれて間もない赤ちゃんがいる
夫婦が住んでいるようだった。

ちょうど寝ようかという、夜の十一時半から
深夜一時頃にかけて、その赤ちゃんが夜泣きする。

仕方ないとはいえ、これには正直ちょっと参った。

そんな環境にも少しずつ慣れてきたある日のこと。
私は早めに帰宅してパソコンをいじっていた。

すると、台所にいた妻が「ええっ!」と、
突然叫んだ。

もちろん私は何も言っていない。
何事かと思って台所に行くと、妻が青ざめた顔を
している。

「やられちゃったよ……」

何か悔しがっている様子。
私にはさっぱり訳がわからなかった。

「何、どうしたの?」
「久しぶりに、なんの気配も感じさせないヤツが
 来たのよ」

妻には少し霊感のようなものがあることは知っていた。
何かを感じたのか。

何が起きたのか、詳しく問いただした。
忙しく夕食の準備をしているとき、いきなりだった
という。


「ぶわぁぁぁぁぁ!」
耳元で突然、意味不明の太い声が聞こえたという。


一瞬妻は、私が飯はまだかと催促しに来たと
思ったらしい。
反射的に後ろを振り向くと誰もいない。

しかも、妻の声で私がパソコン部屋からのこのこ
出てきたのを見た。

そこで、久しぶりに『やられた』となったのだ。
もちろん上の赤ちゃんの泣き声ではない。

妻に言わせると、北側のトイレから居間にかけて
の一直線が、霊の通り道になっているらしい。

私には不可知なことだが、霊道に建つアパート
なのだろうか。



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           ・投稿 K・Hさん(男性)

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