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最期に見てしまう。怪談・逢魔が時物語「白いサル」

埼玉県の某大学病院に医師として勤務していた
ときのこと。

病院では、死期が近い患者の入る病室を
エンド部屋と呼んでいた。

その夜は患者の急変もなく、いつになく暇だった。
夜勤の私は、ナースセンターで寛いでいた。

すると、エンド部屋13号室のナースコールが鳴る。

13号室は三人部屋だったが、ここ一週間ほどは
69歳になる男の患者だけだった。

「どうしましたか?」
看護師がマイクを通して尋ねる。

スピーカー越しに、患者の何やら意味不明な喚き声
がしている。


「猿! 猿! 白い・・・」


その場に居合わせた看護師たちは、一瞬呆気に
とられた。
恐らくは寝惚けているのだと思った。

医師の私と看護師と二人で様子を見に行く。
すると、患者は枕元で膝を抱えてガタガタ震えて
いるではないか。

カーテンレールの方を指さして、必死で訴える。

「そこに白い猿が座って見詰めている。
 何とかしてくれよー!」

思わず振り返ってそっちを見る。
しかし、当たり前だがカーテンレールしかない。

「落ち着いてください。もう猿は追い払ったから」

慰めるように穏やかに言う。

「何言ってる! そ、そこにまだいるじゃないか!」

カーテンレールの方を凝視しながら、そう言って
聞かない。

痛み止めの薬のせいかも知れないと思った。
仕方ないので、今晩だけ別の部屋に移すよう
看護師に指示し、夜の騒ぎは収まった。

ただ、内心、説明のつかない違和感はあった。

それはあまり険悪な感じはしなかったので、
黙っていた。

じつは、『白い猿』事件はこれだけではない。

三年間で二回ほど、『白い猿』が見えるという
患者がいたのだ。

エンド部屋の患者の病状はまちまちで、白い猿を
見たから急変するというわけでもない。

白い猿……それは死神とは思えない。
しいて言えば、西方へ旅立つ道案内かも知れない。



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