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ワケあり刀を買った夜。怪談・逢魔が時物語「軍刀」

居合い抜きを稽古しているNさんは、当然刀とは
縁が深い。

ある日、骨董屋から連絡があった。
なかなか在銘のよい軍刀が入ったという。

これは掘出しものかと、見に行くことにした。
刀には鍛え傷が入っていた。

刀の出来は良いものなのに、残念ではあった。
ある砥ぎ師が言うには、絶対に消えることはないが、
目立たなく砥ぎ上げることは可能だという。

それならばと、この刀を買うことに決めた。
すると、その晩から同じ夢を見るようになった。

夢に、軍服を着た軍人が出てくる。

カモシカのような無駄のない肉づき。
立ち姿はすらっとしていて、絵になる

軍人は夢の中で話しかけてきた。
毎日、夢に出てきて、同じセリフを繰り返す。


「貴様に、刀は渡さない」と。


もちろん単なる夢だと思い、無視していた。
だから、刀の出来上がるのを楽しみにしていた。

ただ、その暗示的な夢は毎夜続いた。
ひして、いつしか夢の中で軍人と話すようになった。

すくっと立って話す軍人には隙がなかった。
軍刀は、親戚中で探してくれた一振りなのだという。

つまり、軍刀はその軍人にとって宝だった。
ゆえに、他人に渡すことはできないと。

そんな夢を見続けていた折り、砥ぎ師から連絡がきた。
思いがけないことを告げられた。

なんと、砥石の上に刀を落として、折れてしまった
というのだ。

研ぎの途中ではあったが、やはり良い刀だったらしい。
夢で告げられた通り、刀は自分のものにならなかった。

あの軍人は、それを告げに来たのだった。


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