ペアリングアーカイブ2023年1月
毎月のコースから個人的に気に入ったペアリングご紹介。
野鯉(在来型)の炭火焼と麦100%味噌、醤油粕、自家製白梅酢、わさび菜の皿に、イタリア・カンパーニャ州のカルトワイン、Ognostroの2007年。
冬の野鯉は、あらゆる魚種の中でもトップクラスに美味しいと思う。野生種特有の絶妙な脂の乗り、ダレない身質、皮の高貴な淡水の香り…。そこに樹齢100年のアリアニコの味わいが合うというセレンディピティ。このワインを造っているのは友人のマルコだ。日本未輸入の素晴らしいアリアニコである。ちなみに彼の腕には、それは見事な鯉の和彫りが入っている。
僕の少年期の人格形成に多大な影響を及ぼした地元のペットショップ店主のHさんは熱心な釣り人でもあったが、かつて「大川(阿賀川)にいる野鯉。あれは違う鯉だな。見た目だけじゃなく本当に警戒心が強いし、フッキングしたあとのファイトが全然違う」と言っていた。実はシーボルトも日本の鯉が別種である可能性に気づいていた。それが学術的に裏付けられたのが2006年。遺伝子解析により、在来型の鯉と移入型の鯉が別種と言っても過言ではないくらいに異なっていることが分かったのだった。今後、現在のコイの学名はCyprinus carpioで統一されているが、専門家によりかつてシーボルトが用いたCyprinus melanotusを充てることが提案されている。
現在、野鯉は琵琶湖、霞ケ浦、児島湾、四万十川、阿賀川といった大規模水塊にしか現存していない。そして野鯉を捕る職漁師は全国に数人しかいない。飲食店だと1シーズンはおろか、1か月分を賄うことも難しい。食文化の上位に「美味しさ」を位置付け、そこに経済的価値を乗っけてしまうこの国の飲食シーンにおいては、この状況はそれでいいのかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?