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長編小説⑪:強敵との対決

スタンガンは想像よりもすばらしいものだった。
1日で二人の標的を浄化できるとはおもわなかった。
スタンガンと記者の存在を教えてくれた神に感謝を。

つぎに断罪すべき罪びとたちは、チビとデブとハゲだ。
暴走族あがりだが、暴力団ではない三人。
暴力団の枠にいれられていないので、警察も三人を逮捕できていない。
犯罪に片足をつっこみながら、何人もの女性を泣かし、ソープに沈め、薬をうち廃人にしてきたチビとデブとハゲを浄化せねばならない。
三人の手口はわかっている。
女性を暴行し写真を撮影する、もしくは、違法な薬をうち薬漬けにしたのちに春を売る仕事につかせ紹介料と女性たちの給料のうわまえをはねる。
噂を聞くたびに、私は激怒していた。
しかし、なにもできない自分にもまた激怒していた。激怒する日々は終わりだ。
神具でチビとデブとハゲの三人を断罪する。
三人が女性を暴行する公園はわかっている。
昼間は家族連れやカップル、老人があつまる明るく整えられた公園だが夜になるとガラッと姿をかえる。
電灯があり、明るい公園にみえるが、ひとつ道をまちがえると地獄のような暗い世界へひきこまれてしまう公園だ。
三人が活動しだしてから公園をとおる女性はへった。
だれもが、三人がいると知っているからだ。
しかし、三人が知らないことがある。
その公園の奥にある広場に三つの救世主が鎮座しているということを、神と私だけがそれを知っている。

私は、この日のために準備に準備をかさねてきた。
走ることを忘れた私の足に走ることを思いださせ、救世主へとたどりつく最短の道を明るい昼のあいだに何度も何度も走った。
浄化のために必要な補助神具も公園の茂みに隠した。
準備は万端。人事はつくした。そして、天は私に罪びとを浄化せといっている。裁きの時はきた。

電灯に照らされのびる私の影のうえに、チビとデブとハゲがのった。
私は叫び声ひとつあげず、風をきって駆けだした。
酒を飲んでいるのか、声だけはデカい三人に追いつかれる気配はない。
三人が私を追うのをあきらめないように走る速度を調整する。

広場まで三人を誘導することに成功した。
チビが甲高い声で下品な声をあげる。
私の体をつま先から頭まで眺めたのち、蛇のように細く長い舌で唇をねめるハゲ。
デブは地面にへたりこみ、ゲロをまきちらしている。
スッとチビにちかづき電撃一閃。アッと声をあげるチビ。
巨人につかまれたようにちぢこまるチビ。
サッと横にそれハゲにも電撃一閃。ハゲの頭が光った気がするが気のせいだろう。
ニワトリが首をしめられたような声をだし、ピンッと手が硬直し後にたおれこむハゲ。
ダイレクトに頭皮が大地と接吻した。
ゲロをはいているデブにも電撃一閃。デブに電気がとおらない。
赤ちゃんのようなぷっくらとしたデブの手が私の足首をつかむ。
左手にもっていたストッキングにつつんだ灰皿をデブの頭にうちつける。
デブは頭にも脂肪があり、血がふきでない。けれども、デブは気絶した。
そして、自分がまきちらしたゲロに顔をつっこんだ。
公園の茂みに隠しておいたダクトテープをとりだす。
チビとデブとハゲが動けないようにしっかりと巻きあげる。
茂みに隠しておいた台車に三人をのせる。

チビとデブとハゲを救世主のまえに並べる。
三つの救世主に45度の角度で3kgの力をくわえる。
馬と犬、猫を模した神獣ともいえる神具は、聖なる野生の力を解放した。
チビとデブとハゲを神獣が噛み砕く。
チビを砕く音は、甲高くソプラノのように夜空に響く。
デブを砕く音は、重低音のバス、地面をゆらすように振動する。
ハゲを砕く音は、木琴楽器のように軽やかに森に響く。
その調べはまるでワルキューレが騎行するタイトルがつけられた荘厳なる音楽のように聴こえる。
天にいる勇敢な戦乙女たちが、私の行為を褒めたたえ、ヴァルハラへいざなってくれる。
神具の音の質ががかわる。硬質的な音は消え、静かで厳かな音へとかわる。
いま私のまえで救世主が私を賛美している。
神が、私の偉業を褒めたたえているような讃美歌が耳をとおり、脳にとどく。
「汝、完遂せり。巨悪は滅びれり。されども悪は街にはびこりけり、汝の奮戦を期待す」
もっとも手強いとおもわれた三人を浄化した。
恐れるものは、なにもない。
粛々と悪を浄化するのみ。

彼女がたちさった広場には、三つの死体がのこされた。
広場に強風がふいた。たくさんの葉が舞いおどり、月のない暗い闇に消えていった。

12話

1話


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