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3000文字チャレンジ!第103弾!【リップクリーム】

その日僕はいつものドラッグストアで買物をした、というのは唇がカッサカッサだったのだ。ドラッグストアには、リップクリームであふれかえっている。いったいなんで唇はカッサカッサになり、ヒビ割れ血がでてくるのか、唇の皮を剝くのが好きだ。

グリーンの色をした白いキャップと文字が特徴のパッケージ、くるくる回すとヌルっとでてくる白い硬い糊のような見た目の円柱形。━━結局俺はそれを一つだけと、ウィスキーを買うことにした。

それからあっちへフラフラ、こっちへフラフラと歩いたのだろう。私は長い間街をウロついていた。終始俺はウィスキーを片手にもちラッパ飲みをしていた、終始俺の心を抑えつけていたリストラの不安がウィスキーを飲んだ瞬間から弛んで来たとみえて、俺は街の上で非常に酔っていた。

あんなにしつこかった上司の顔が、ウィスキーの1滴で消えるとは━━あるいは酒があれば、世界は平和というのはほんとうであった。それにしても酒というやつはなんと不可思議なやつだろう。

そのウィスキーの冷たさはたとえようもなくよかった。その頃俺はアルコールに溺れておりいつもアルコールを飲んでいた。事実友達の誰彼にこれだけ飲んでいると見せびらかしていたのだが、友達の誰彼もアルコールをひかえろと言ってくれる、友達の温かい心が浸み透ってゆくようなその温かさは快いものだった。

俺は何度も何度もそのウィスキーを口に持っていっては飲んでみた。それの産地だというイギリスやスコットランドが想像に上がって来る。ふかぶかと胃一杯に茶色の液体を注ぎこめば、ついぞ俺の身体や顔には温い血のほとぼりが昇って来てなんだか眠くなって来たのだった。・・・・・・・

実際あんな単純な冷覚や触覚や嗅覚や視覚が、ずっと昔からアルコールばかり探していたのだと言いたくなったほど俺にしっくりしたなんて俺は焼酎も好きに思える。━━お金がないんだから。━━

俺はもう土手をゆらゆらと弾んで、一種心地より風を感じながら、お酒を飲みながら闊歩した李白のことなど思い浮かべては歩いた。汚れてたYシャツで飲み口をふいてみたりどれぐらい残っているか残量を量ったり、またこんなことを思ったり、━━つまりはアルコールなんだな。━━

そのアルコール度数の重さを常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこのアルコール度数の重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、酒飲みはそんな馬鹿げたことを考えてみたり━━酒があれば俺は幸福だったのだ。━━

どこをどうフラついたのだろう、俺は自宅の前に立った。鍵を探したときに気づいた。

グリーンの色をした白いキャップと文字が特徴のパッケージ、くるくる回すとヌルっとでてくる白い硬い糊のような見た目の円柱形が失くなっていることを。

━━梶井基次郎さん著『檸檬』━━を盗作(パロディ)。先生ごめんなさい。

また原作の『檸檬』は名著なのでぜひご一読してください。戦後の有名な作家さんのほとんどが、梶井基次郎さんに影響を受けているとかなんとか。青空文庫で『檸檬』を読むことができますよ。

男の唇は、2chの創設者の人よりも、ぶ厚い。下唇がぼってりしておりタラコのようで、うまそうに思われる。唇がぶ厚いからか、風にあたる表面積がおおいからか、一年中、男の唇は荒れていた。

母にリップクリームを塗れといわれても、リップクリームを塗るのがメンドくさくなり塗らないような男だった。

当然、白いカッサカッサの蛇のウロコのようなものが唇に沢山できた。蛇のウロコのようなものを親指と人差し指で挟み、ゆっくりゆっくり下にひっぱると、ピリピリとウロコが唇から離れてくる。完全に唇からウロコをはがし、「うん、今日のウロコはでかいな。」とアホなことを言っている男だった。

日焼けした黒い健康的な肌を、ペリペリとめくるような楽しさと快感があった。唇は一年中荒れているので、年がら年中ペリペリとめくる快感を楽しめるのだ。

ただし、慎重に剥がさないと痛い目をみる。ゆっくり剥がさずビリッと剥がすと、唇に赤い線がピッと走り、赤い線からジワジワと深紅の血があふれだす。チラチラと血をなめ、「ドラキュラだぞ~。」とネジが2~3本抜けている男だった。

熱い食べ物や酸っぱい飲み物を口にいれるときは、唇を針で刺されるような痛みに耐えなければならない。「か・い・か・ん~Heart!!」なんて言う、ド変態な男だった。

そんな男でも高校時代に彼女ができた。そして『キス・ちゅう・ベーゼ・口付け・接吻」何度も何度もした。

ついに男の彼女は激怒した。かのカッサカッサなウロコを除かなければならぬと決意した。

彼女「いつも唇、カッサカッサでイテーんだよ!!たまに鉄臭いは、ナンで口から輸血されないとダメなんだよ!!」「唇が人並みになるまで、キスしないからな!!」

男「セ◯クスはいいの??」

彼女「ぼけぇ~~~。セ◯クスしたことなにの、どうなったらデキると思ったの??ぼけぇ~!!」

仕方がないので、グリーンの色をした白いキャップと文字が特徴のパッケージ、くるくる回すとヌルっとでてくる白い硬い糊のような見た目の円柱形の商品を買い、唇の治療をはじめた。

白いカッサカッサに、白い硬い糊を塗りつけ、薬効成分を唇に塗りこむ。唇がネットリしてきた、「どんな味がするのかな?」ペロンチョ。

バチコーン!!!

男の頭を彼女がハタいた。「ぼけーっ!ホントぼけーっ!塗った成分を舐めてどうするの、バカなのお腹イタイの??」

男は唇が乾燥するたびに、リップクリームを塗り、唇の治療を続けた。2週間ほどで、男の唇は艶々ぷるんぷるんの赤いタラコになった。

男と彼女はしばらくして別れた。男はその後もリップクリームを塗り続けた。

「いつも、リップクリームを無くすな。」

そう、リップクリームを一本使い切ったことがないのだ。いつのまにかリップクリームは無くなっているのだ。妖精さんが隠したり、リップクリームの精が最後を悟り消えていくのだろうか?リップクリームの終わりはどうなっているのだろうか?アタリとかハズレとか書かれているのだろうか?謎は深まるばかりだ。

タバコは失くさないのに、100円ライターとリップクリームは失くす。100円ライターをジッポライターに変えたら失くさなくなった。リップクリームも、高い商品を買えば失くさないのか?

夏目漱石1枚に100円を2枚ほど払い、リップクリームを買ってみた。

「ナニコレ、スゴイ。」

ヒョロとしたお洒落な細いスティック、くるくる回すと肌色の細いスティックが顔をだす。出しすぎたらスティックが折れそうだ。はんなりと甘い果実のような香りがする。一番の違いは『塗りやすさ。』力をいれずに、スーッと唇にのびる。これは塗りやすい。夏目漱石1枚に100円を2枚の価値はある。小さいリップクリームだけど、大きい差があるんだな。

そして、夏目漱石1枚に100円を2枚のリップクリームを無くした。緑を失くしたときより、ダメージはでかかった。もう1度、夏目漱石1枚に100円を2枚のリップクリームを買い、もう1度失くした。飲み会に持っていった、ジッポライターも失くした。

「リップクリームは失くすものダ!!」

リップクリームをあちらこちらに配置じゃ。

ボディーバックにビジネスバック、車のダッシュボード、ありとあらゆるところに、リップクリームを配置。家にダース単位でリップクリームを備蓄。

家ではワセリンとココナッツオイルを混ぜ、ネリネリしたリップクリームを使っている。大容量で安く作れるヨ。

リップクリームは横に塗るものじゃなく、唇の線にあわせ縦に塗ると効率がいいよ。

唇が乾燥することはなくなったが、彼女はいない。


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