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弁護士業務における行政法の活用【大島義則弁護士講演会イベントレポート】

さる2022年2月12日、ガールシリーズで受験生にお馴染み・大島義則弁護士による講演会「弁護士業務における行政法の活用ー新人弁護士カエデと学ぶー」がOLSで開催されました。

合格後の「弁護士としてのお仕事」にも一歩踏み込んだ本講演。当日のイベントレポートをライター・別宮がお届けします。

はじめに

法曹になった後の「未来」のことを、ふと考えることがある。

私自身は既にそれなりに年齢を重ねてきた身である。もし運よく試験に通れたとしても、20代で法曹になった人たちのようにたくさんの選択肢は用意されていないのかもしれない。

それでも。

「やっぱり夢がなきゃ、このしんどい受験生活は頑張れないよなあ」と思うのだ。

さあ法曹になってからの話をしよう

「憲法ガール」の大島先生が一般学生向けに新刊を出すらしい。さらに、新刊刊行に合わせてOLSで講演会をやってくれるらしい。

その話を最初に耳にしたとき、「試験直前期だし、きっと行政法の勉強法についてお話ししてくださるのかな」と思った。基本OLSのイベントは学習関連が多かったし、2月初めに刊行された通称・カエデ本(新人弁護士カエデ、行政法に挑む)も真面目な行政法の学習書みたいだし。

そんな単細胞な私の予想は講演会当日、良い意味で見事に裏切られることになる。

大島先生が話してくださったのは、「弁護士になった後」の話だったからだ。

正直、法学への興味だけで日々の勉強に嬉々として取り組めるほど、私には法律に対する愛がない。この試験を最後まで完走するためには、モチベーションという名前のガソリンが要る。

ロイヤー・大島センセイのお仕事

我々受験生にとって、大島先生といえば「憲法ガール」であり「行政法ガール」であり、今年新しく出版されたカエデ本である。あとは教育や研究活動。

とまあ、勝手なイメージを抱いていたのだが、大島先生曰く(少なくとも収入面においては)9割が弁護士としての仕事によるものなのだそうだ。

大島先生の弁護士としてのご専門は、寺院法務、公法対応(行政への対応や公共政策法務を含む)、情報法の3つ。

そのうち寺院法務については現在先生の所属している法律事務所が重点的に扱ってこられた分野で、残り2つはバリバリの公法系だ。ちなみに情報法については憲法に関わりそうな分野でマネタイズできそうなものを、と考えて選ばれたらしい。

クリエイターという仕事柄、著作権を扱う先生や一般民事・刑事を扱っている先生とは普段から関わる機会も多いが、公法系を専門として掲げている弁護士の先生にはご縁がない。

実際、大島先生も、租税法のような特殊な分野を除いて行政法を扱っている弁護士は大手企業法務系事務所以外にはあまりいないのではないか、とおっしゃっていた。

しかし、先生自身については「行政訴訟でマネタイズできるかはわからないけど、自分は他の人より多く行政法に関わる仕事は扱っているし、マネタイズできているかな」というところだそうだ。

そして、そんな先生の行政法ロイヤーとしての仕事は、びっくりするくらい多彩である。

行政対応はもちろんのこと、籍を置いている大学で最先端研究を担う国家プロジェクトに参加したり、業界の自主規制ルールをはじめとするルールメイキングに関わったり。個人情報関係の業務も多く、社内のルール整備をはじめ、民間の資格検定の構築にまで参加されていた。

一気に視野が広がった感じ、とでも言うべきか。

「行政法のつながりで、ここまでできるのか」と驚き、私は自分の見識の狭さを恥じた。

それは私と一緒に話を聞いていたOLSの仲間も一緒だったみたいだ。なぜか私の周りには現役公務員の受験生仲間が多いのだが、先生の話の進行に合わせて、彼らの中で「行政法やりたい!」という雰囲気が形成されていくのがわかる。既に弁護士になっているOLSアドバイザーの先輩方も、なんだか楽しそうだった。

弁護士の仕事には、「試験に受かったら四大行きたい」「とりあえず食っていければいい」くらいのノリに陥りがちな私たちには想像もできないような夢がある。

一般的な弁護士の仕事として言われる戦略法務や予防法務、紛争処理だけではない、第4のカードーー社会にとって望ましいルールを作れるーーを切れる弁護士になってほしい。

「ルールを作る」公共政策法務の仕事について語った際の、先生の言葉が強く印象に残った。

数年後の春に向けて、種をまく。

学究分野と実務を横断する形で精力的に活動されている印象の強い大島先生だが、意外にも「マネタイズできるかどうか」を考えて仕事したことはないらしい。

現時点で「儲かりそうか/儲からなそうか」を基準に仕事をされているわけではないのだ。

そんな先生のモットーは、「とにかく来た球は全部打ち返す」!

情報法なんて今は注目されているけど、10年前は誰も食えるなんて思っていない分野だった。はっきり言って、何が育ってくれるのかわからないのだ、と。

だからこそ、とにかく来た球は全部打ち返して、未来に向けて種をまく。

そういえば、私も1人、「これは趣味だから」と明言した上で某サービスを始め、予想外(?)に大きく花開いちゃった方を知っている。

種をたくさんまいて、自分のやりたいことを全部やった中から数年先に花が開く。はじめから効率や損得を考えるより、自分の思うがままに動いちゃった方が早い。

生きているとつい目の前の損得に目を奪われがちだが、意外と人生ってそんなものかもしれない。

そういえばカエデ本によれば、楓の花は春に咲くのだという。

これは他の先生の受け売りだけど、と前置きした上で、大島先生は「弁護士は、圧倒的に優秀な弁護士を目指さなければならない」と言った。

なぜなら、それこそが依頼者の求める弁護士像だから、と。

何をもって優秀とするのか、は争点になりそうだけれど、とにかく目の前の出来事に真剣に向き合い、がむしゃらに突き進んでいった先に道は開けるんだろうと思う。

たぶん、私たちの春はきっとこれから。それまでは、ひたすら走って走って、走っていく。

大島先生著作紹介〜新人弁護士カエデ、行政法に挑む

愛称・カエデ本。ブラック法律事務所に就職してしまった新人弁護士カエデさん(※勝負メガネがチャームポイント)が傍若無人なボス弁に振り回されつつ、初めての行政事件に挑みます。

学陽書房様HP:

Amazon:

著者の大島先生曰く「1冊読めば司法試験の大問2つ分」の解答プロセスをストーリー形式で体感できるオトクな1冊。実務家の先生方にも大好評、巻末の「もう1歩先へ進むためのブックリスト」も必見です。

司法試験の過去問を扱った「憲法ガール」「行政法ガール」に比べると初学者向けということで、ストゥディア行政法を読み終えたばかりの行政法ビギナーにも読みやすかったです。

解説コラムが詳しく、図もわかりやすく、短答前の総仕上げにもう一度読みたいなと思います。

イベント情報はこちらから

(本文・別宮央都/ 編集・OLS編集部)

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