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香月夕花「見えない星に耳を澄ませて」感想~正解ってなんですか?~

正解を求めてしまう。
自分だけが違う答えだと不安になってしまう。
その選択は正しいのか?
あっちの選択の方が正しかったのではないのか?
あぁぁーーー!正解が知りたーい。

先日最終回を終えたドラマ『VIVANT』
敵か味方か。味方か敵か。あの人はどっちなのよー!正解が知りたくて、毎週わくわくしながら観てた。
朝ドラ並みの丁寧な状況説明に、日本を美化しすぎに、ん?になったが、正解を知りたいだろうにも誘導されたが、それなりに面白かった。

で、小説を読んでいるときも答えを知りたいというか、求めてしまう。
この読み方で合っているのか?
行き着くところは….正解はひとつじゃない。
それぞれがどう感じるのかが、面白さのひとつだと思う。
本書は、まさに!それぞれがどう感じるのか本だった。

音大のピアノ科に通う曽我真尋は、人の心を薬のように癒す音楽もあることを知り、三上先生の診療所で音楽療法士の実習を受けることにした。大人の声に耳を閉ざす少女、キラキラと飾った虚構の自分しか愛せないパーソナルスタイリスト、探し求めた愛情を見付けられず無気力に生きる中年男性……様々なクライエントと音を通じて向き合ううちに、真尋自身も自分が抱えた秘密と向き合うことになり――。



音楽といえば癒し。
なので、音楽療法士を目指す学生が、クライエントと心を通わせ成長するハートフルな物語かと思っていたが違った。

母親からピアニストになるよう期待されていた主人公が、現実を見ないようにしていた自分と向き合うまでの話だった。

音楽療法は心の赴くままに楽器を鳴らし、あとからその内容を語り合いながら分析する。
ようはクライエントが自分と向き合えるようにサポートする。
正解はないし、答えもすぐにはでない。

悩みを抱えた人たちが、答えを見つけ立ち直る物語は、わかりやすいし、感情移入もできるし、すっきりもする。

でも本書はしない。

クライエントはもちろん、三上先生も、真尋も、答えの出ないモノを抱えたままだ。
それでも、自分と向き合った先に星はある。
幻ではない星があると信じ、私は読み終えた。


♬♬

奥行のある静寂な世界に地響きも聞こえてくる作品だった。
静寂だけではない強さもあるところも好きだったし、答えのないわからなさという余韻が残るところも好きだった。

・人間もまた、無言のうちに歌っているのだった。誰にも打ち明けることのできない悲しみを胸の底奥にしまいこんで、それでも隠しきれないかすかな揺らぎが、織り上げられて音になる。(本文より)

自分の想像していたものとは違う景色を見せてくれるのが香月作品。
その香月作品に近々新刊『あの光』が出るようだ。

これは!楽しみだー(⋈◍>◡<◍)。✧♡

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