リモート合唱を作り続けたら上手いがゲシュタルト崩壊した話③

早速、集まった大量のテイクをダウンロードする。
これwav指定でリモート合唱企画してる人もいるみたいだけど……音質を考えればそれが一番良いとは言え、回線強いなその人……(※1)

素材は揃った。腕まくりをしよう。お料理の時間だ。

・音符で感じる残業と、リモート強制定時退社と

仮ミックスを開始する。
ピッチはともかくとしても、無調整だとタイミングが結構ズレるな。特に入りの言葉、子音のズレが目立つ。曲として完全に成り立たないという程ではないにせよ、これでは音楽としてのクオリティは担保できない。

今回のかなりゆっくりな曲調であっても、ただ重ねた段階から、調整が必要な事がわかった。無調整でもサウンドは一応それっぽくはあるが、あくまでそれっぽいだけでちゃんと演奏として聴こうとして聴けるもんではない。

ざっくりタイミング補正してみよう。
波形横軸のズレが大きい人から順に、コンマ秒で位置を動かして調整していく。全体がずれていると思ってその人ごと前や後ろにずらしても、また整合性の取れない場所が出てくる。
聴いていてまあ許せるか、という範囲はなるべく手をつけず、大きいズレから順に手をつけていこう。こういうのは調整していくと、大体なんでもかんでも気になって無限に修正したくなる。だがそれでは時間がかかる。
他団体に先を越されたくない今は、スピードの勝負だ。

なんとか各セクションの頭を揃えて、聞けるようになった。
流石、練習の度に毎回歌う愛唱曲。これだけでもかなり「普通」に聴ける。
…が、まだどこか違う。
音の終わりだ。
指揮者や、合わせる歌い手がいないという事は、入りも終わりもタイミングがズレる。
入りは、あわせてやれば揃った。しかし音の終わり、特にロングトーンや曲の終わりの音に結構な差が出る。
まあ正直な所、こちらとしては編集で解決するのはそんなに大変ではないのだが、人間というのは入りには気を使っても音の終わりには無頓着なものらしい。
一瞬「残業」という言葉が頭に浮かんで、消えた。

これもリアルタイムで指揮者が終止を指示すればまとまるのだろう。地味な部分だが、これが一番リモート合唱で揃わない部分かも知れない。とりあえず強制的に個々人の音をカットしたりフェードアウトして、全体を終わらせる。この休符で帰れ。定時だ。

更にこれ以外にも課題はある。
普段の合わせだと内声の人が音量調整しながら歌っているような所では、どうしても内声側の音が小さく聞こえてしまう事。対処の難しい高域のノイズ。
あと誰か一人、R子音をものすごい巻き舌で歌っている(※2)メンバーが居る。“ペッロペrrrrrロ”じゃない。落ち着け。なるほど、互いが見えないとこの辺の表現を合わせるのが難しい訳か。

だが編集を進める毎に手応えはあった。これから何をどうしていけば良いのか。課題さえわかっていれば、自分にもメンバーにも今までの収録で積み重ねてきた経験がある。大体の方向性はわかって来た。
まあある程度想定通りというか、思ってたよりは形になったな。

「こんな感じで、これくらいの形には出来るっぽいです」
作曲者の許可をとり、界隈の一部にサンプルとして開示。
当初の目標であった、最速でのモデルケース作成は、これで大体の達成が出来たのだった。

・新しい依頼

こうして合唱録音と編集を軸とした私の活動から現場の「録音」は消え去り、代わりに「リモート合唱編集」が大きなウェイトを占めて行く事になる。

作業に手応えを感じ始めた頃、にわかにタイムラインを賑わせた話題があった。
名前は「テレコン」
リモート合唱専門の、コンクールが開催されると言うのだ。

ついで、新たな団体からもコンタクトがあった。
先のリモート暫定音源を見せていた指揮者から、直接のDM。

「こんどそちらの方まで自転車で行く用事があるんだけど、」

初のリモートの依頼だった。

「譜面持ってって良い?スナドラの」

続く


※1
拡張子について。ハイレゾ・ロスレス的な音響に凝る貴族もいるみたいだが、庶民の私はmp3を推奨する。マイクとインターフェースの使用を徹底できるならともかく、携帯やイヤホンマイクの録音が多い環境でそんな微妙な差に拘っても仕方なかろう。個人的にはデータが軽い事の方がメリットを感じる。携帯アプリのレコーダーは圧縮率がヤバい?設定で128kbpsとかあれば良いんじゃないかな…。

※2
尚、この犯人は2年後の副次的文化系合唱祭でこの曲を用いた大規模テロを行う事になるが、それはまた別のお話。


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